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🎬パレード 感想

未練を持ったまま亡くなった人たちが集まる死後のコミュニティを舞台に、死者たちが生者に注ぐ思いを描く。

冒頭一人称で描かれる津波に飲み込まれた人の視線。
東日本大震災でたくさんの人たちが津波に飲まれ、苦しみ亡くなった現実を考えるとそれだけでも胸が締め付けられる。

震災で亡くなった美奈子はアキラという謎の男性に不思議なコミュニティに連れてこられる。
そこにいる人たちはみんな"現世"に未練のある人たちで、亡くなった原因や年代はそれぞれ違うのだが、コミュニティの中でゆるく暮らしている。

そして月一度行われる"パレード"で探している人と出会い喜ぶのだが、それは相手も亡くなっているということ。
家族全員が再会し喜び合う姿も描かれているが、現世では震災などで家族全員が亡くなってしまったというやりきれない現実がそこにはある。

美奈子を長澤まさみが、コミュニティにいる人々を、坂口健太郎、リリー・フランキー、横浜流星、寺島しのぶ、森七菜、田中哲司がそれぞれの未練やそれがなくなりコミュニティから消えていく姿をやさしく演じている。

特にリリー・フランキーが演じるマイケルという映画プロデューサーで監督の男性がフォーカスされていることが興味深い。
リリー・フランキーは出色の好演。
マイケルは監督した自分が愛した女性とのことを描いた自伝的映画が未完であったことに未練を持っているのだが、このキャラクターには映画だけではなくいろいろな分野のクリエイターの姿を見た気がした。

少し前だが、人気漫画(私は読んでいないのだが…)の原作者が急逝し、読者の「結末が読みたい」という願いに応えるため、関係者が原作者不在ながら完結までを描き上げ連載するというプロジェクトが報じられた。
その際、私は家で原作者がいなくなっても、その作風などをちゃんと画で再現できるアシスタントや結末までのストーリーを知る編集者などが存在するメジャーな作者は漫画を完結させることができて幸せで、一人で仕事をしている零細漫画家は不幸だ、と言った。
しかし、それを聞いた妻に「だけど…その原作者は、結末を読んだ読者の反応を見たかったんじゃないかなぁ…」と言われハッとした。
漫画を自身が完結させ世の人々に読んでもらい、驚きや感動、長年連載してきたことへの労いの声も含め、漫画の完結に対する読者の声を直接聞くことのできなかった作者の無念さはどれほどのものだっただろうか?
作者はその声を聞きたくて命を削るようにして漫画を描き続けてきたのではないだろうか?
私は自身の想像力のなさを恥じたのだが、マイケルは"あちらの世界"で未完の映画を完結させ、それを1番観せたかった女性に完成を伝えることもできたし、"あちらの世界"で上映会をして映画を観た人たちの反応を見ることもできた。
これは当然ファンタジーなのだが、戻るが、その漫画を現世で引き継いで描いている人たちは、作者が亡くなってから"あちらの世界"で漫画を完結させ、読者からの賞賛の声を聞いているのではないか?という想像しているのかな、などとも思った。

マイケルの物語はクリエイターにフォーカスしたエピソードなのだが、それがこの映画のテーマを象徴的に描いている。

この映画は終始死者の目線でファンタジーとしてエピソードを描いているが、実は大切な人を亡くした生者たちがどうその死を受け入れていくか?死者の希望がかなわなかった無念な思いを残された者がどう克服していくか?という切実な気持ちを描いた映画であるように思った。

東日本大震災だけを取っても、未だにご遺体すら見つからない被災者の人はたくさんいて、死を受け入れることができない遺族はたくさんいるだろう。
亡くなったことがわかっていても、苦しんで亡くなったのではないか、という思いに日々苛まれている人たちもいるのではないか?
その他の災害や病気など大切な人を亡くし、その無念に思いをめぐらせる痛みは大切な人を亡くした人にしかわからないと思う。
しかし、もし死後の世界でこの映画のようなゆったりとした時間を過ごしながら、死者が自分の死を受け入れ無念だった未練を断ち切っていてくれていたら…。
それは生者の単なる空想でしかないのだが、小さいながらも一つの救いになるのではないだろうか?

この映画はやはりファンタジーなのだが、これからの未来を生きる人間の、死者が安らかであってほしいと願う切実な思いをしっかりと誠実に描いた作品だと思えた。
だが、度重なる災害などでたくさんの人が亡くなっている事実を考えると、亡くなった人たちがこんな風に安らかな生活をしているという想像をしなければやりきれないほど今生きている世界は無慈悲だとも思えた。

予想以上の良作だったゆえに個人的には残念だったところも書いてしまうが、
被災した息子の良を見つけた死者の美奈子が良と会話する場面は、ファンタジーとはいえ、かつ結末への伏線とはいえ、ないほうがよかったように思う。
瀕死から現世に戻ってきたナナのことを考えると、おそらく良は病気で命が危険だったので美奈子と会話できたのかもしれないが、良という人物描写ではやはり生者として想像でしか死者に寄り添うことができない限りない悲しみを描きつつ、ラストの良が象徴する"あれから、それでも懸命に生きている"人々の姿に直球でつなげてほしかったかなーとも思ったり……。
単なる素人の個人的感想です。
ごめんなさい。

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