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小さなとこから

 個室はいい。個室にいるだけで外界から遮断されたような気持ちになれる。

 僕は狭い個室というのが好きで、一畳くらいの空間にいると何となく満たされる気がする。なのでトイレなんかはとても落ち着く。トイレにこもっているときは至高の時間といっても過言ではないので外から声が聞こえるとすごくビビッてしまう。侵略者が近づいてくるような気持になってしまうのだ。

 僕が一畳ほどの空間が好きなのは僕が一畳程のスケールの人間だからなのだろうか?外は広すぎる。どんなに景色が変わってもローディングの時間さえありはしない。一体僕にどのタイミングで心構えをしろというのか。ああ、あまりにもオープンワールドだ。そういう意味ではトイレという空間は僕にとってのセーブポイントなのかもしれない、自分の中で勝手にそう定めているのだろう。

 だから、今トイレの前で待っている人には少しどこかに行ってほしい、セーブポイントからでて速攻エンカウントというのはどうかと思う。一回離れてくれたらすぐに出ていく、だからあまり待たないでほしい。

 そんなことを考えていると、となりのトイレのドアが開いて僕の居る個室のドアの前から人の気配が消えた。隣のトイレは婦人専用、しばらく男女兼用のこの個室の前で待っていた人はきっと男性であろう。待ちかねてルール違反を承知で隣のトイレに入ったのだ。僕はホッとした、僕のせいでルールを犯したかもしれない人がいるかもしれないというのに、罪悪感よりも先に安堵したのだ。僕はその人との遭遇を避けるために、逃げるように個室からでて手を洗って他のコンビニの客に紛れた。

 少し自分が嫌いになった。


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