29.初めての男友達は、父の...

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いつも疾風のような朝子の独断で交換日記を始める事になった。
私と、朝子と、朝子の幼なじみのアキちゃんの三人で。
アキちゃんとは話したこともなかったけれど、朝子の独断なので逃れられない。

朝子もアキちゃんも兄がいるらしく、読むマンガはもっぱらジャンプだった。
男子の文化に触れた事がなかったので新鮮だった。

そんなタイミングで隣の席になった男の子・山田君もマンガが好きらしい。
女子とは少し話せるようになっていたけれど、男子と話すのはやっぱり緊張する。
近所のバカな男子のように、うちの両親の職業を知っているかもしれないし・・・
話しかける勇気はなかったけれど、山田君はしょっちゅう絵を書いていた。
でもある日、私が交換日記を広げっぱなしにして離席していたのを山田君に読まれていた。
「幸田さん、マンガ好きなんだ?」
と話しかけてきた。
恥ずかしくなってうつむく私に山田君は言った。
「しゃべるの恥ずかしいの?
じゃあこっちにしよう」
と、ノートの端っこで筆談するようになった。
筆談なら返事を考える時間もあるし、授業中にもやりとりできた。
山田君はすごいボキャブラリーの持ち主で、授業中は主に私を笑わせにきた。
思わず笑ってしまって先生に注意されるのは私だった。

会話を深めていく中で知ったのは、私と山田君の家は近所なのだという事。
山田君はお兄ちゃんが二人、弟と妹が一人ずついるのだという。
同い年なのになぜだか兄のように感じるのは、面倒見がいいからか。
子供ながらに驚いた。
性格というものは家庭環境でこんなに違うものなのだな、と。

腹を割って人生で初めて話せた女の子が朝子、男子が山田君だ。
朝子も山田君も私の世界を広げてくれたし、こんな私を邪魔物にしないでいてくれた。


授業参観の日、うちは父が来た。
相変わらず派手だし、誰彼かまわず話しかけるので目立ってしょうがない。
山田君の家はお母さんが来ていたけれど、うちの父を見た途端にぎょっとした。
知り合いだろうか?
ここ父の地元でもあるから、そうでもおかしくはないのだろうけど。

気になって家に帰ると父の方から話しかけてきた。
「山田の倅と隣の席とはなんの因果かねぇ。
おふくろさん、昔付き合ってたんだよ」
最悪だ。

聞きたくはなかったけれど、お喋りな父の話を一応聞いた。
山田君のご両親もここが地元で、今でも自治会でたまに交流があるのだという。
「だけど俺と別れる時に、別れたくないって泣かれちゃってさ~」と父の武勇伝は続く。
生々しくて聞いてられなかった。
もちろん山田君の両親は、父の職業を知っているらしい。
最悪だ。

山田君本人がどこまで知っているのか、怖くて聞けなかった。
でも怖くてどこまで知っているのか聞きたかった。
複雑な心境の私は、少しだけ山田君と距離を置くようになってしまった。

もちろん山田君は何も悪くない。
悪いのは全て父だ。
女癖が悪いのは夫婦喧嘩から察していたけれど、まさかこんな地元でもやらかしていたとは。
昔の事らしいけれど、聞かされた子供の身になってほしいもんだ。
「本当に家族が嫌い。
嫌いっていうか、憎い」
そんな自分の気持ちに気付いてしまった。


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