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31.深夜に家を抜け出す小学生

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小学三年生にして既に学校をサボり始めていたけれど、親にバレないはずがない。
祖母もおそらくサボりだとわかって、父に相談したようだった。
ストリップ劇場の巡業から帰ってくると、母に殴られた。
そして、裸で外に出された。

怒られて当然の事をしたのかもしれないけれど、私には学校に行く意味も楽しみもわからなかったので、「またサボるだろうな」という自覚はあった。
それでも泣きながら母の足にしがみつき許しを乞うのだ。
「もうしないから許して、殴らないで」と。
とんだ嘘つきだな、と自分でもわかっていた。

友達の朝子にも当然バレていたようだ。
「サボりでしょー?」と、全校集会の中、小声でからかってきた。
教頭先生がマイクで話す声が響く。
「近頃、夜中にうろつく子供がいるという情報が学校に寄せられています。
皆さんではないと信じたいですが、くれぐれも夜に出歩く事はしないでください」
ほぉ~、そんな子供がいるのか。
私も学校サボって”いい子”ではない自覚があったので、奇妙な共感を覚えた。
夜中って何時なんだろう。
何をしているのだろう。
家に帰れないのだろうか。
どこの誰かも知らないけれど、珍しく興味が湧いた。

「聞いた?夜中にうろつく子供だって。」
と朝子の顔を見ると、睨まれた。
「あとでちゃんと話すから。黙って」
嘘でしょ?
まさか全校集会で教頭が注意するような子が、朝子なの?

放課後、うちの近所の公園まで朝子が自転車でやってきた。
「聞かれたくない話だから隣の市の公園へ行こう」
と誘われたけれど、私は自転車を持ってもいないし乗れなかった。
大げさに呆れた顔をして、自転車の後ろに乗せてくれた。
幼稚園の時にスポーク外傷を負ったくせに、私はまたウキウキして朝子の腰にしがみついた。

「教頭の話、あれ私。
うちのマンション一階だから、家族に”おやすみ”って言った後に家を抜け出してるんだ。
両親は喧嘩ばっかりで、酷い時はお皿とか割れる音でうるさいんだもん。
嫌なの、家にいるのが。」
と、打ち明けてくれた。
当てもなく、自転車でドライブしているだけなのだと言う。

「七海が学校に来ないのはなんで?
うちは学校サボるなんて許されないから、羨ましいなー。
本当にお腹痛い日もあるんだけど、両親は仕事だし休まれたら困るってさ」

そう話してくれた朝子は、淋しそうな顔をした、普通の女の子だった。
運動神経が抜群で、男子とも殴り合いの喧嘩をして、”凶暴なゴリラ”とかって恐れられる朝子ではなかった。
私の知っていた朝子は、ほんの一部分に過ぎなかったのだ。



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