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「マヌエラ」感想

脚本・鎌田敏夫
演出・千葉哲也
主演・珠城りょう
東京建物ブリリアホール

第二次世界大戦直前の上海。「ラスト、コーション」その他いくつもの映画や小説で見た豪奢・快楽・退廃・悲惨…の世界。
当然のどかで明るい話なわけもなく惨劇が繰り広げられる。ヒロインと軍人のラブロマンスものかと思っていたけどそんな甘い話じゃなかった。
でも色んな形の愛が出てくる。

照明や衣装、ダンサーの役割など演出が洒落ていてストレートプレイだけど視覚的にも楽しめる。そしてこういう重めの題材の作品をエンタメとして見せる場合は特に、主役の見た目に華があるって大事!この作品の初演が天海祐希さんで再演が今回の珠城りょうさんってものすごくわかりやすい。

手足が長くウエストの位置が高い、お人形のバービーみたいなすらりーっとしたスタイル(ただ細いだけじゃない嫋やかな身体)の上にちょこんと乗った小さな頭と綺麗なお顔。役者にとって容姿はやはり武器であり財産だ。
(宝塚元トップの方は皆独自の個性とオーラがあり求心力もすごいけどファン以外の層が「女優」として見た場合の容姿は「?」なケースもかなり…)

そして主役だけでなく役者陣がものすごく適材適所で皆はまり役。

パックンにこんなに惹きつけられるとは。よくドラマや映画でもお笑いの方が俳優とは一味違う魅力的な演技を披露していたりするけど、それとも一線を画すくらいの印象。彼演じるパスコラはパリのムーランルージュの元女形のダンサーでユダヤ人。恋人(中国人青年)は何か隠し事があり秘密を打ち明けてくれない(実は共産党のテロリスト)…という難しい役どころ。颯爽とした表の姿はかっこよく、悲哀を感じさせる影の部分は本当に繊細で胸打たれた。主役マヌエラに愛を教える役で、相手役といってもいいくらい。

渡辺大さんの、好意の伝え方が不器用で無骨な声のでかい軍人・和田は外見も含めてぴったり。珠城さんの隣に立っても堂々たる長身の凛々しい立ち姿。

若かりし頃ミュージカルで観た時は素敵な美青年だった宮川浩さんの変わり果てた姿にショックを受けた(←そういう役!究極の下衆野郎を究極の完成度で演じていらっしゃった。しかも下衆野郎は世界情勢を冷静な目で観察しているのだった。声色が怖かった…!)

役者とダンサーの境目がよくわからないくらい踊れる人が多くて(役者さんだと思ってたら皆さんバリバリかっこよく踊る!ダンサーたちも演じる)素晴らしい身体表現の延長線上にお芝居があるような、でもミュージカルとは別物で。ストレートプレイでもダンス・ダンス・ダンス!
支配人役の松谷嵐さんもダンサブルで洗練されていた。
 
ラストにマヌエラ珠城さんの踊るダンス。慈愛の女神が優しさと清らかさで舞台と客席を包み込み浄化するような作用があった。パスコラ(パックン)が「踊りを観客に(ドヤ顔で)押し付けてはだめ!」「踊りは体で表現する愛の物語」と言っていたまさにその通りのダンス。プログラムに掲載されたリアルマヌエラの写真からイメージできる、エキゾチックな振り付け。華やかな人が踊るから映える(しなやかな腕の動きが美しく見えるのも身体の造形が美しいから)。ただ綺麗なだけでなくクライマックスに向けてどんどんパワフルになりラストは最高潮。
 
とても戦前の日本女性とは思えぬ(21世紀でも現実離れした)プロポーションの珠城さんが妙子を演じると「皆が同じような生き方をしてそれ以外の他者を認めない国から逃げてきた、異質な個性を持った女性」の異次元感が視覚面からくっきり浮かび上がる効果もあった。シンプルなキャメルのロングコート姿が外国の映画女優のように絵になっていたのが印象的。
彼女が少し声を落として「お好きなように」「一緒に行く?」と言う台詞が素敵だった。
 
マヌエラこと妙子は実在の人物で戦中戦後を通して踊り続け上海と日本両方で経営者としても活躍した才能あふれるハンサムウーマン。多様性などという言葉もない時代に真の国際感覚を持ち運命を自分で切り拓いた女性(プログラムに掲載されているご本人の言葉からもよくわかる)。

国を失った人、国を捨てた人、国を利用する人、国を作るため闘う人が同じ路上を歩いた街、上海租界。街は変わっても世界には様々な理不尽があり続ける。チェンのように国のため志を持って闘った青年たちと中国共産党がその後歩んだ道にも思いを馳せた。
 
演劇を見たという充足感がある作品だった。ずっしり。








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