【詩】相思

酷寒の朝
棄てられた犬は
飼い主との暖かい記憶のなか
まどろんでいる

身は保健所にあり
明日をも知れぬ同胞たちが
盛んに吼えながらも
この犬は
身動きひとつ不自由な
檻の中で
飼い主を慕い
涎を垂らし続けている
今にも飼い主が現れる
そう信じながら
最期の時を彼女は静かに過ごしている

同時刻
新年、仕事始めの朝
街に粉雪が舞う頃
飼い主は家を出ようとしていた

ーいないー

犬は処分したが、ドッグゲージは未だ処分してはいない
彼は過去を振り切って
職場へと向かう

道すがら彼は保健所の前を歩いた
その時、彼は彼女からの呼び声を聞いた

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