春野

小説、詩、短歌、戯曲、川柳、音楽関係(感想)などなど創作。

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最近の記事

【一瞬小説】自転車

本屋を出た時のことだ。 急に目の前の駐輪場に滑り込んできた自転車があった。 「順子さん!」 「信吾君」 彼女は驚いて大きな声がでないようだった。 「いい加減信吾でいいだらう順子」 「信吾……」 男の頭には白いものがたくさん混じっていた。 我々一同は俯き、ふたりを黙って祝福した。

    • 【一瞬小説】言い切る彼

      「私が私であるのは私が女だから」と貴志は言った。

      • 【詩】犬

        この地において 犬が空を舞うなんて当たり前 だから赦してやってほしいと 自治会長さんの顔を見ると 同じ犬であった

        • 【詩】相思

          酷寒の朝 棄てられた犬は 飼い主との暖かい記憶のなか まどろんでいる 身は保健所にあり 明日をも知れぬ同胞たちが 盛んに吼えながらも この犬は 身動きひとつ不自由な 檻の中で 飼い主を慕い 涎を垂らし続けている 今にも飼い主が現れる そう信じながら 最期の時を彼女は静かに過ごしている 同時刻 新年、仕事始めの朝 街に粉雪が舞う頃 飼い主は家を出ようとしていた ーいないー 犬は処分したが、ドッグゲージは未だ処分してはいない 彼は過去を振り切って 職場へと向かう 道すが

        【一瞬小説】自転車

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        記事

          【詩】みんなきれい

          まちいくひと、みんなきれい あなた、きれい。わたし、きれい び、は、みなにひとしく、わけあたえるもの みんな、きれい。いなほは、みれい び、は、あがめ。ひざまずくもの あなた、きれい。わたし、みにくい こんや、わたしたち、みなとみらい みんな、きれい。わたし、きれい

          【詩】みんなきれい

          【詩】故郷のアリア

          昨日までの故郷 遠い海のかなた故郷 二度と帰らぬ故郷 まぶた閉じれば消えた 妹がありし故郷 穢れなき故郷 みんなこどもの故郷 まぶた閉じれば消えた 山は深し故郷 みどり多き故郷 野を駆け巡りし故郷 まぶた閉じれば消えた いつもともにある故郷 されど戻らぬ故郷 母が笑う故郷 まぶた閉じれば消えた

          【詩】故郷のアリア

          プロ野球戦力外通告2023。今年も年の暮れにこの番組をしっかりと見る。結果はそれぞれの選手達だけど、大切なのはやり切ること。やはりそう感じた。ありがとう選手達。来年も球場に行きます。

          プロ野球戦力外通告2023。今年も年の暮れにこの番組をしっかりと見る。結果はそれぞれの選手達だけど、大切なのはやり切ること。やはりそう感じた。ありがとう選手達。来年も球場に行きます。

          【詩】東京発シンセサウンド

          鮮やかな稜線を音符がひた走る 一つではなく、もう一つの頂きが 音を連れてさらに走る モーツァルトのような天上の音、改めて流れ出し 聴き手は完全にコントロール失う 端正な横顔を持った三匹のライオン ここにより歴史刻まれる

          【詩】東京発シンセサウンド

          土日祝にたくさん働くのはますます世間とズレてくような気がする。

          土日祝にたくさん働くのはますます世間とズレてくような気がする。

          【詩】やがて同じ時になる

          昨日、夕闇の迫りくる刻 マクドナルドでポテトを摘んだ それだけだった しかし、ポテトを舌で楽しむ感覚は 果たして均等だっただろうか その時、夜が近づいていた これ以上別の処で飲食することは禁じていた 談笑しては急ぎ、離れた スペースを開けた しかし閉じた やがて彼女も閉じることになる 夜になる まだ時差がある 現実はひとつに定まったのに 時はふたつある 進める時と引き返す時と 夕闇は複雑だ 落ち着いたのは今頃であろうか 今日の夜、地下鉄で電車を待つ間 彼女の疲労は昂じ

          【詩】やがて同じ時になる

          【短編小説】北極星をつかみ損ねた男の話

          ある時、男の頭上にどすんと北極星が降ってきました。男はいきなり、大きな星が落ちてきたものだから、尻餅をつき、挙句の果てには目まいがしてしばらく起き上がれませんでした。  一方、北極星はというと男の側に落ちていました。しかしこの星は意地悪です。その場で昏倒しているこの男に手を差し伸べることはせず、彼がどこへ向かって、何をするのかをしばらく呑気に見物しようと思いました。 「いてて、てて。ここはどこかな。俺は何をしていたのかな。どこへ向けて歩いていたのだろう?」  男は方角を完

          【短編小説】北極星をつかみ損ねた男の話

          「たとえあなたを忘れても」もうすぐ終わるね。工夫がさりげない良いドラマでした。対照的なのは「ゆりあ先生の赤い糸」だと思う。こちらも楽しめました。菅野美穂がとてもいい。久しぶりに演技を見た。

          「たとえあなたを忘れても」もうすぐ終わるね。工夫がさりげない良いドラマでした。対照的なのは「ゆりあ先生の赤い糸」だと思う。こちらも楽しめました。菅野美穂がとてもいい。久しぶりに演技を見た。

          【詩】朝

          冬至まであと十日 日の出まであと十分 空はようやく白み始める 十一階から見下ろした夜の底は 自転車や歩行者で散らされて やがて満を持して陽が昇る 蟻の歩くさまを見たい程には 朝を待っていた

          【詩】朝

          【詩】音楽生活

          貴方達を初めて聴いたのは13歳の時だった 僕はその頃、グラウンドで貴方達の楽曲を繰り返し聴く 知らずとも「さよなら放送」として放課後 毎日流れたのだ あれから歳月が忘れるほど過ぎ 私は貴方たちのおそらく最後の贈り物を聴く ありがとう ありがとう このたびの人生では たくさんの楽曲がわたしの心を貫いた 時には印度や中国に空想の上で出向きその国の楽曲たちに夢中になった しかしその音楽生活の始まりはあくまで英国であり、この四人だった 開いた円環はひとまず閉じた。曲は終わり貴方

          【詩】音楽生活

          【詩】わかりやすい心

          それはもう 如実に顕されているのだった 数字に 彼の隠されたるその人物への好意が暴露される 秘めようにも 数字として正直に申告される 平等ではないので 彼はどの人に対しても決まってこう言うことにした 「この心臓ねえ、彼は意外に働き者で心赦した人にだけ休みたがるんですよ」 困ったことに性差がある

          【詩】わかりやすい心

          【掌篇小説】紛らわしい隣家

          とある北関東某市のマンションの203号室と204号室はともに鈴木さんのお宅であった。この辺りは東日本ということもありなかなか鈴木が多い。  2022年9月某日の夕刻、日もすっかり暮れようかというところ、203号室の鈴木さんはとぼとぼ北の方角から我が家に帰ろうかとしていた。もうじきに着くというところで見上げたその住みか。彼は少し驚いてしまった。見れば観たことのないようなギンギラギンな金色の女性下着がそのベランダに干してあるのである。 「間違えたかな……」  鈴木さんは己の視

          【掌篇小説】紛らわしい隣家