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日本長距離界の強化をどう進めるべきか

日本陸連やナショナルチームの強化策をどのように各チームや選手に落とし込んでいくかが時折、話題になります。種目によって多少の違いはあるかもしれませんが、長距離に限って考えれば、世界大会に出る場合も「日本代表」としての合同練習は行われず、選手個人が指導者とともに組み立てた練習を行います。(各チームの指導方法の違いや怪我をした場合の責任所在などがあり合同は難しいためです)
実業団連合などで短期の強化合宿を行うことはありますが、それも一時的なものですので、強くなるための方法は個人(指導者・選手)が情報を集め、作り上げるのが当然と言えるでしょう。

一方で個人でできることには限界があるのも事実です。これはあくまで私の感覚ですが、指導者や選手が海外に出ると、現地で肌身をもって貴重な経験をしてくる一方で、トレーニングに関して間違った解釈を持ち帰ってきていると感じる場面があります。これは基礎的な理論の理解ないまま、自身の競技者(指導者)としての経験をベースに海外でのトレーニングを理解しようとしているからだと私は考えます。

欧米のトップクラブ、トップランナーの多くは、科学的根拠に基づいたトレーニングをする傾向にあるので、その基本的な考え方を理解していなければ本質には迫れません。そのため同じようなメニューを真似して取り入れても、効果が全く現れないという事象が生まれてしまいます。以前にも書きましたが、そもそも海外の選手と私たち日本人ではこれまで積み上げてきたトレーニングも身体特性も異なるため(日本人選手同士でも同じことはありえませんが)、表面的な模倣だけでは彼らに追いつくことはできないと私は考えています。ネット上には海外のトレーニング情報があふれていますが、それをそのまま取り入れられないことは、誰もが理解できるのではないでしょうか。

スポーツは現場と科学を融合させる時代

その意味で日本陸連の科学班などが海外のノウハウをまとめ、ある程度咀嚼して指導者や選手に落とし込むことは意義があると私は思います。そのうえで指導者や選手がそれを解釈し、取捨選択すればいいのです。もちろん指導者や選手自身が測定、分析するなど科学的なノウハウを確立することがベストですが、それは難易度が高く、現実的ではありません。

海外の情報に限らず、日本陸連が強化のためのさまざまな情報をもっと集め、選手に提供してほしいと思います。特に競技会のデータをもっと開示するべきなのではないでしょうか。トラック種目では100mごとのラップやストライド、ピッチなどの計測は実現可能だと思います。そうしたフィードバックがあれば指導者も選手も経験だけでなく、客観的データに基づいて評価し、選手個々に合った改善策を考え、トレーニングを導入するはずです。それを日本中の指導者が行なえば、日本全体としてナレッジやノウハウが蓄積、発展していくでしょう。

プライオメトリクストレーニングによってストライド長の改善を目指す
酸素飽和度を計測し、
選手ごとのデータを蓄積していきます

陸上競技に限らず、スポーツのトレーニングには目的があり、養いたい能力を向上させるために変数を組み合わせてメニューを立てます。長距離で言えば、走行距離、強度、頻度、期間、トレーニングをする標高などの組み合わせです。栄養、睡眠、ケアなどリカバリー要素も考えれば、考慮すべき項目はどんどん多くなります。その追求に際限はなく、当然、個人差があるため、誰にでも当てはまる正解はありません。ただ科学的に見て推奨できる情報というものは確実に存在するはずです。それを得た上で自分のベストな組み合わせをその時々の状況に合わせてアレンジするのが理想です。

この「変数をいかにして組み立てるか」は私が指導をするうえで基本的な考えとして、大切にしている概念です。低酸素トレーニングでは、距離、速度、休息、トレッドミルの斜度、標高の設定は非常に複雑で、その要素ひとつを少し変えるだけで負荷が大きく変わってしまいます。そのため目的を明確にし、科学的根拠に基づいて変数を組み合わせて計画を立案、実施、振り返り、改善するPDCAを繰り返すようにしています。その前提となる科学は日々進化していますし、世界各国のトレーニング事例からも学ぶことができるので、そうした情報はどれほどあってもいいのです。

狙い通りの負荷がかけられているかを
体の反応を見ながらチェック

ただ正しくそれらを理解するためには、繰り返しになりますが、指導者や選手は学び続けなければなりませんし、競技団体のさらなるサポートも必要です。
私たち指導者は最新かつ最先端の情報へと常にアップデートする必要があります。高強度トレーニング、二重閾値走、高地トレーニングなどはまだまだ不確かな点が多くあり、継続的に学びながら進めていくべきです。過去のトレーニングを踏襲するだけだったり、古い情報のままでは最大の効果を得られないですし、世界からも取り残されてしまいます。

日本全体としてそうした知識を共有する仕組みを作ること。その主導を陸連が担い、そして指導者・選手も学び、試行錯誤を続けていくべきではないでしょうか。
男子の世界トップレベルでは、5000m12分30秒、10000m 26分0 0秒、マラソンでは2時間を切る時代に突入する勢いです。世界から大きく競技レベルが離されている今、競技団体と指導者・選手双方に取組みの改善が急務だと私は考えています。


結果を出すためのアプローチは1つだけではない

追記
同時にこうしたことも考えて進める必要がありますね。


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