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"産む・産まない"は私が決める ー 妊娠の可能性があるすべての人が、安心して暮らせる社会のために

2022年6月24日、アメリカで女性と妊娠の可能性があるすべての人の権利を大きく揺るがす衝撃の判決が出ました。

米最高裁が人工妊娠中絶の権利を認めた「ロー対ウェイド事件」(1973)の判例を覆し、中絶行為を憲法上の権利として認めないと判断したのです。

この判決は現在世界中で注目を集めていますが、日本に住む私たちにとっては関係ないことでしょうか?決してそうじゃありません。

SNS上では、日本においても中絶に法律上配偶者の同意が必要であることや、緊急避妊薬が手に入りづらいことなど、産む・産まないをめぐる権利問題について多くの人々が怒りや不安の声をあげています。



ー緊急避妊薬(アフターピル)って?

緊急避妊薬(アフターピル)は、性行為から72時間以内に服用すれば、80%以上の確率で妊娠を防げるとされています。

例えば望まない性行為が起こってしまった、相手がコンドームを着用してくれなかった、あるいは行為中に破れてしまった、外れてしまったなど、避妊に失敗したのではないか?と、生理が来るまでどうしようもなく不安を抱えるという経験をしたことがある方もいるのではないでしょうか。

WHOによると薬の服用にあたって深刻な副作用はないとされており、約90の国では薬局で購入することができます。価格は900円から5000円程度。国によっては学校や病院で無料配布されているところもあるようです。

一方、日本では、まず産婦人科などを受診して、医師の診察を受ける必要があります。

薬価も6000円から2万円。緊急避妊効果が高い薬は高額であり、保険適用外。それを理由に副作用が強く避妊効果の低い薬を選ばざるをえない人や、誰にも相談ができずそもそも服用自体を諦める人が後を絶ちません。


作成:緊急避妊薬を薬局でプロジェクト

また、アフターピルは性行為後72時間以内の服用を推奨されていますが、「服用が早ければ早いほど避妊効果が高まる」薬です。

つまり、「時間が経てば経つほど避妊効果は下がっていく」ということ。

地方と都市部では産婦人科の数や診療時間の違い、病院へのアクセス方法などさまざまな格差が現在も存在しており、知識があっても入手するためには多くの課題を乗り越えなければいけません。


ー妊娠に怯えながら過ごした夜

私自身も、19歳の時避妊に失敗してアフターピルを飲んだことがあります。当時交際していた人との行為後、コンドームが破れていることに気づいたのです。

深夜に二人で泣きながら病院を探しました。

新宿に朝から開いている病院があったので診療開始時間とほぼ同時に受付したのですが、夜が明けるまでの数時間不安で心が押し潰されそうだった。

親にどうやって伝えよう。中絶するお金なんてないけど、出産したら経済的に大学を辞めざるを得ないし、自分の進路、キャリアのことなどたくさん諦めなきゃいけないことがある。

その時、妊娠というものがいかに不平等であるかを痛感し、自分の人生をコントロールできない恐怖を感じたのです。

アフターピルを飲んだあと、ひどい吐き気に耐えながら「お願いだから妊娠しませんように」と必死に祈っていたのを覚えています。副作用がおさまった後も次の月経が来るまでは心が落ち着かず、毎日不安を抱えながら生活していました。

ー 緊急避妊薬は、自分の未来と身体を守るための大切な手段


こういった話は他の誰かに相談したり共有するのが難しい話題だと思います。

しかし私が経験したことは、多くの人にも経験があることかもしれない、あるいはいつ経験してもおかしくない問題だと思うのです。

日本では1年間で約61万件の予期せぬ妊娠があると言われています。人工妊娠中絶は年間約16万件。さらに、児童虐待死(心中以外)が最も多いのは生後0日というデータがあり、その背景には予期せぬ妊娠や母親の孤立があることも少なくありません。

もちろん命に対する責任は産む人にもありますが、生まれたばかりの赤ちゃんが放置されてしまったり、捨てられたというニュースで「母親」だけが罪に問われてしまう報道を見て、「父親はどこに行ったのか?」と思わざるをえない時もあります。

本来これは、女性や妊娠の可能性がある人だけの話ではなく、性行為を持つすべての人が考えるべき話です。

また、コロナ禍において特に状況が悪化したとの報告もあり、アフターピルのアクセス改善は女性や妊娠の可能性のある人*にとって喫緊の課題です。


作成:緊急避妊薬を薬局でプロジェクト


ー議論開始から早5年。進まない市販薬化


日本で緊急避妊薬に関する議論が始まったのは2017年のこと。

厚生労働省の検討会でアフターピルの市販薬化が検討されたのですが「女性の知識不足」や「悪用の懸念がある」などの理由から否決されました。

2020年にはアフターピルを処方箋なしでも薬局で入手できる市販薬化の方針が打ち出され、この件については多くの関心を集めました。しかし、今年3月10日に厚労省はこの議論を次回に持ち越し、議論開始から5年たった2022年現在でもアフターピルの市販薬化について見通しは立っていません。

実際に妊娠の可能性がある当事者が少ない場で、男性を中心に進められてきた「産む・産まない」の権利の話。
 
「若い女性は知識がない」「若い女性が悪用するかも」

私たちは”有識者”の方々から何度もそう言われてきました。
 
仮にそうだとしても、知識がないのは女性の問題なのでしょうか?

また、女性だけが学ぶべき話なのでしょうか?

国が用意するべき性教育のシステムは完璧に整っているのでしょうか?

低用量ピルも、アフターピルも、コンドームの避妊率がそこまで高くないことも、知識を身に付けるために教育が担うべき部分は非常に大きいはずです。

それを市販薬化反対の理由として「若い女性の無知のせい」にするだなんて、矛盾していませんか?

ーmy body, my choice(私の身体は、私が決める)


アフターピルはWHOの指定する必須医薬品です。
 

<必須医薬品>
健康を保つために必要不可欠であり、どんなときにも適切な供給量、適当な剤形、誰もが入手できるような価格で利用できるようにすべきもの。
 例えば、鎮痛剤として知られるアセトアミノフェンも必須医薬品の中に含まれており、この薬はドラッグストアや薬剤師のいるコンビニなどで購入が可能である。

妊娠の可能性があるすべての人にとって*、「妊娠」は自分自身ではコントロールが難しい、人生を大きく左右するものだといえるでしょう。

アフターピルを服用するという選択肢があるということ、避妊の手段に誰もがアクセスしやすいということ、自分の身体を守ための知識を持っているということは、人生に対して主体的に決定権を持てるということです。

私たちの身体の話を、当事者抜きで進める時代はもうやめにしませんか?

「女性に投票チャレンジ」では、比例代表の女性候補に、緊急避妊薬に関するアンケートを行いました。私たちが紹介する候補の中から、ぜひあなたの「推し候補」を見つけてください!


writer: Ai Tomita
editor: Fuemi

妊娠の可能性のある人*
: 避妊や中絶の問題は「女性特有の問題」ではありません。全ての”女性”に子宮・卵巣があるわけではないし、”女性”だけにあるわけでもありません。例えばトランスジェンダー女性、子宮・卵巣を摘出したシス女性は”子宮・卵巣を持たない女性”です。また”子宮・卵巣をもつ人”の中には、トランスジェンダー男性やノンバイナリーの人も含まれますし、子宮・卵巣を持つからといって妊娠の可能性があるとも限りません。
 避妊・中絶を女性性と直接的に結びつけることを避けるため、”妊娠の可能性のある人”という表現を選んでいます。

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