【小説】テクノロジーを語る勿れ【第36話】

 居酒屋で食事を終えると広木は連れ添った亜美と共に、パーキングに停車していた車へと乗り込んだ。男女二人で食事し終えてそのまま帰宅というにはもの足らない、これまで互いにこういった場を設けることが無かった二人であったが、帰りの時間がそう遅くならなければどうにでも発展しそうな雰囲気が車内に漂う。

 広木が亜美と知り合ったのは3年前に仲間内でライブハウスを貸し切って人を集めてバカ騒ぎした日のことだった。地元の後輩のマコトが人を呼ぼうと以前交際していた亜美にも声を掛け、高校生だった亜美も友人を連れてその場に足を運んで来ていた。その場で亜美と広木は連絡先を交換していたのだが、同学年の男性にしか恋愛対象にならないと豪語する亜美は、別の後輩仲間との距離を縮めつつあった。
 亜美が高校を卒業して進学した年の春、普段通りに通学していた広木は最寄り駅の改札を出たところの横断歩道で、近くの調理師学校の制服に身を包んだ見覚えのある後ろ姿に遭遇した。人違いであっても適当に声でも掛けてみようと真横に並ぶように立つと、驚いた様に真横に振り向いたのは亜美だった。
 亜美の進学した調理師学校は最寄り駅からは広木の通学先の少し手前に位置しており、信号が青になると同時に当然のように二人で並んで歩き始めた。出会った頃に連絡先を元々教え合っていたとはいえ、同学年の男性にしか興味が無いといった亜美とは連絡を交わすことはほとんどなかったため、会話を交わすのも久しぶりであった。

「久しぶりじゃん、その制服そこの調理師学校のだよね。学校近過ぎなんだけど!」
「県外だし絶対誰にも出会わないと思っていたのに、割とあっさり遭遇しちゃった(笑)」
「でも亜美、歳上とか興味無いって全然相手してくれないしなー」
「いや、今は歳上が好き」
「そうなの?じゃぁオレとも遊べる?」
「遊びたい(笑)」
「何それ、めっちゃ良い子じゃん。連絡先変わってない?」
「変えてないからいつでも誘ってー」
「良いな。このナンパしてもないのに思いがけなく遊び相手が増える感じ!」
「表現に癖があり過ぎる(笑)」

 携帯電話の電話帳のいつも素通りするだけだった亜美の連絡先は、それからメールの履歴から直接アクセスするように利用頻度を増やしていった。とはいえ、就職活動を調度控えた広木は資格の取得に勤しんだりと意外に忙しく、他愛もない近況確認にやり取りは終始し、結局上京を控えたシンガポールからの帰国後に漸くその気になって亜美と予定を合わせた。

 出会った時には高校生だった亜美も既に二十歳を迎えていた。市内の居酒屋でアルコールのメニューを促すと甘そうなカクテルを注文した。車の運転があるからとウーロン茶で喉を潤しながら、酒の当てのような一品料理をテーブルに並べ、広木は亜美と談笑した。歳にしては大人っぽく見える亜美は、会話をする仕草も大人びており、発する内容もそう歳の差を感じさせない落ち着きがある。広木にとっても、上京間際の今だからと言わず、これまでに何度も定期的にこういった場を設けていればと思う今更感を心の中で悔やんだ。
 アルコールのせいか亜美の頬も次第に赤く火照り、視線も広木を見つめる時間が心なしか長くなっているように感じる。広木は以前マコトに見せられた、胸をはだけさせた亜美が、マコトの股間に顔を埋めて貪りながら頭を上下運動させる様子を隠し撮りしたという動画の光景が脳裏に蘇った。

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