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アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』の感想&解説

アンデシュ・ハンセン著『スマホ脳』を読んだ感想と読書メモです。


◆基本情報

・ページ数:255ページ
・所要時間:約4時間
・内容:デジタルツールが脳に与える影響を解説

◆最初に所感

・デジタルデトックスのきっかけになる
・集中力や睡眠のメカニズムについて知れる
・子育て世代にも参考になりそう

スティーブ・ジョブズはわが子になぜiPadを触らせなかったのか?

本書では多くのエビデンスをもとに、現代の「スマホ依存」が脳やメンタル、健康に与える影響について解説されています。

著者アンデシュ・ハンセンの母国スウェーデンでは大人の9人に1人が抗うつ剤を服用しており、精神科医である著者はその原因の一つにデジタルツールの影響を挙げています。

アンデシュ・ハンセンの前著「一流の頭脳」は人口1000千万人のスウェーデンで67万人が読んでいるというベストセラーで、本国ではTV番組などでも活躍するトップインフルエンサーの一人です。

1章の最初のページ

本書の第一章は上のような謎のページから始まります。

  • 上記の・点全部(1万個)⇒人類の歴史

  • 上記の・点1個⇒ネットやスマホが生活に浸透した時代

人間の脳というのは上記の・点1万個ぶんをかけて進化してきたものであり、たった・点1個ぶんの時間で急激に発達した情報過多社会(インフォデミック)には適応できていないというのが本書の切り口です。

◆本書のポイントメモ

●スマホの影響①:依存性

人間の脳は原始時代から「生存確率を上げる」ために進化してきた。

・崖を昇ったら「果物のなる木があるかもしれない
・草むらが動いたら「外敵がいるかもしれない

人間の脳は「期待するとき」に脳の報酬物質であるドーパミンを出す様に機能しており、これが生存するために「行動する」動機として作用している。

※「手に入れたとき」よりも「期待するとき」に脳はもっとも快感を感じる。欲しいモノを買う直前がもっとも興奮していて、手に入れた後はどうでもよくなる現象も同様。

この脳の仕組みがスマホの通知機能やFacebookのいいね機能開発のきっかけとなっている。

また、SNSを下にフリックすると更新される仕様はスロットのレバーをイメージして設計されており、SNSツールは人間の依存性に働きかけることで市場を勝ち取ってきた。

●スマホの影響②:集中力低下

人間の脳は注意散漫な時報酬(ドーパミン)を与える
⇒外敵の接近など命の危機を察知するため

つまり集中せず、マルチタスクをすると気持ち良くなる脳の構造になっているが、これが猛獣に襲われる心配のない現代社会では逆に弊害となっている。

【マルチタスクの影響】
・集中力低下
・記憶力低下(デジタル性健忘)
・思考力低下

マルチタスクをするとき、脳は2つのことを同時に処理しているわけではなく、注意を高速で切り替えているだけ

一度切り替わった集中は再度集中するまでに数分かかる。(注意残余という)

集中できないと記憶は固定化(長期記憶への移行)しないため、記憶力にも影響が生まれる

実験ではデスクにスマホが置いていたり、ポケットに入っているだけでも注意力が低下する結果が出ている。

また、文章の中にリンクがあるだけでも(そのリンクを踏まなくても)注意力が低下する。

これはリンクを「押すか押さないか」の判断に脳がリソースを消費している(し続けている)から。

●スマホの影響③:睡眠障害

睡眠の機能の一つに脳のゴミ捨て(壊れたタンパク質を捨てる)があり、1年で脳1個分のゴミが血管から排出される。

また、睡眠は記憶の固定化(短期記憶から長期記憶へ)の機能もある。

スマホから発せられるブルーライトは太陽(青空)の光であり、人間の脳はブルーライトを受けとると狩りや食糧調達、外敵から身を守るため睡眠物質であるメラトニンの合成を阻害する。

●スマホの影響④:メンタル不全

人類の脳は生存確率を上げるために人のうわさ(危険人物の情報など)を好むように進化してきた。

また、自分は危険ではないことを周囲に伝えるため、自分のことを話したいという性質を持つ。

昔は比較対象となる人間がせいぜいクラスの20~30人であったのに対し、現代ではSNSの発達で世界中の人と自分を比較するようになった。

また、SNSを通じて、ひと握りの成功者と自分を比較してしまう様になったことで、自信や人生の満足度の低下が問題になっている。

●スマホの影響⑤:子供の脳への影響

人間の脳(前頭葉機能)は実は25~30歳くらいまで発達途中である。

前頭葉は遺伝よりも環境の影響を受けて成熟するため、依存性や心身への健康を理由にアルコールを規制するのであれば、スマホの依存性にも注意を払う必要がある。

子供は単なる「大人の小さい版」ではなく、物理的に脳が成熟していない。
「実際に手を動かす」、「実際に人に会う」などの体験をとおして脳は発達するという事実を疎かにしてはならない。

未発達の脳に依存性のある環境を与えると以下の様な弊害が生じる

・報酬をガマンできなくなる
(ケーキを我慢してスタイル維持、遊ばずに勉強する、など)
・すぐ上達できない努力はやめてしまう

●スマホの影響⑥:IQの低下

現代人のIQは100年前よりは上がっているが、これは単に教育環境などが整備されてきたからであり、実際はここ数年ではIQがかなり下がっている

ロンドンは世界一複雑な路地を持つ都市であり、ロンドンのタクシー運転手は世界一取得が難しい資格と言われている。

ロンドンのタクシー運転手の脳をスキャンすると海馬と前頭葉が発達しているという研究結果が出ている。

これは脳は後天的に良くも悪くもなるという証明であり、もし集中力低下・記憶力低下・不眠・不安などを感じているなら一度スマホをやめてみるのは試してみる価値があるのではないか。

◆スマホ依存の対策例

・まずは自分のスマホの利用時間を知る(意外と長い)
・「スマホオフ」時間をつくる(その時間は絶対に見ない)
・通知をオフにする
・チャットは「チェックして良い時間帯」を決める(それ以外では見ない)
・人といる時は相手に集中する
・寝る1時間前にはスマホをオフする
・45分程度の運動を週3回する

最後の運動については今回は触れませんでしたが同氏の著書「運動脳」に詳しく書かれているので別途レビューしたいと思います。

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