逆噴射ライナーノーツ:少女の体はまほうで出来ている

 昼間会った時、彼女には四肢が無く、1人では何も出来そうにない子だった。あたしより可哀想だと思った。
 けれど今は少女の薄赤く光る四肢が美しいと思った。
少女の体は、まほうで出来ていた。

作品名:少女の体はまほうで出来ている
ジャンル:魔法少女、ゴシックホラー、百合
連載可能性:高い
連載媒体:note、あるいは別媒体

この【少女の体はまほうで出来ている】は、今回の逆噴射小説大賞に応募した作品の中で、唯一以前から温めていた作品だ。
魔法少女、それは普通の女の子には使えない煌びやかな力を手にした少女が、自己の実現のために煌めきを生み出す物語だ。
もしも普通の女の子よりも“持たざる者”が普通の女の子になるために手にする煌めきなら、どんな物語が紡がれるだろうか?

私の脳裏に浮かんだキーワードは、【四肢欠損】【シンデレラ】【12時の鐘】だった。
その瞬間、四肢を魔法で造り上げた少女が、魔法に飲み込まれたかつて少女だったものを闇に葬る姿が出現した。

失ったものを取り戻すために、少女達は魔法を使う。魔法を使っている間だけ、彼女達は人に戻る事が出来る。もし彼女達が12時の鐘が鳴っても、元の失われた自分に戻らない時、恐ろしい罰が与えられる。
イメージの中の少女は、そうなってしまった悲しい同族に安らかな死を与える、死の天使であった。

そして、人と人でないものの間で苦悩するもう一人の少女がイメージの中に現れた。人でありたい、自分は嫌い、でも罰を受けて魔獣になりたくはない。
揺れる彼女は死の天使に導かれ、魔法の使い方を知るだろう。
私はその子を主人公に決めた。

あらすじ:

虹村菜奈夏(ニジムラ ナナカ)はある日交通事故により、両脚と唯一の親友を失ってしまう。
目覚めた病院のベッドで失ったものの大きさに愕然とする菜奈夏だが、同じ病室の四肢の欠損した少女を“自分よりも可哀想”と思ってしまい、強烈な自己嫌悪に陥る。
その夜の事、事故の瞬間の悪夢にうなされていた菜奈夏に突然不思議な光が語りかける。
「失った物を、取り戻したくない?」
果たして何と答えたか、菜奈夏は真夜中に目覚める。その時同じ病室に居たはずの四肢欠損少女はベッドから消えていた。
不審に思った菜奈夏が窓の外を見ると、四肢が欠損していたはずの彼女が五体満足で歩いているではないか。
興味が湧いた菜奈夏は車椅子で抜け出し夜の病院をさまよう。
ひと気の無い病院の廊下で出会ったのは、全身が目玉で出来ている化け物だった。襲われる菜奈夏、必死で逃げるが車椅子を失い絶体絶命。
諦めかけたその時、同じ病室の少女が乱入。薄ぼんやりと光る四肢に、菜奈夏は釘付けになる。
「死にたくないなら、這ってでも逃げなさい」
少女はそう言うと目玉の化け物と戦い始める。成り行きを見守る菜奈夏は、失ったはずの両脚が痛んでいる事に気づく。
生きたい、そう願った瞬間光が菜奈夏を包んだ。
菜奈夏の両脚は、ガラスで出来た義足になっていた。
そして菜奈夏に飛びかかって来た目玉の化け物を、ガラスのピンヒールで貫き殺す。
異常事態の連続に動揺する菜奈夏。もう一人の少女は菜奈夏に突きつける。
「貴女は、バケモノになってでも人間で居たい?」

登場人物

◆魔◆
魔法少女名鑑 #001
【虹村 菜奈夏】
虹村菜奈夏は、事故で両脚と親友を失うまではバレリーナを目指していた。からだを失い、魔法少女となった彼女は、両脚がガラスの義足で出来たプリンセスだ。彼女にとっての12時を超えぬ限り、ガラスの両脚は彼女に強力な脚力と必殺の蹴技を与える。
◆法◆

彼女、虹村菜奈夏は、ある日突然自分を失ってしまった少女だ。
或いは、悲劇のプリンセスとしてしめやかに生きていく道もあっただろう。だが彼女は四肢の無い少女を見てしまい、そして「自分よりも可哀想」だと思ってしまった。
彼女の強烈な自己嫌悪は失われた両脚に対する強い憧憬をもたらし、そして彼女は魔法少女になった。
魔力で造られた彼女のガラスの両脚は、二度と失ってなるものかという彼女の執着により不壊の結晶となり、転じて恐るべき破壊力を秘めた武器となった。
彼女は揺れ動いている。魔法を使っている間だけ、自分は人間になれるのだと思い込んでいる。
それは多くのかつて魔法少女だったもの達と同じであり、そして彼女だけの向き合うべき感情である。

◆魔◆
魔法少女名鑑 #002
【水無月 凛】
生まれつき四肢の欠損した、長い黒髪の少女。如何にしてか魔法少女となった彼女は、魔獣と化した魔法少女達を狩る事を生業とする、魔法少女を殺す魔法少女である。魔力で作られた四肢と巨大な鎌を武器にし、経験の浅い菜奈夏に魔法少女の心得を説く。
◆法◆

水無月凛は、生まれつき四肢を欠損して産まれた少女だ。
彼女にとって幸いだったのは、彼女の両親がとても裕福であった事、そして生まれてきた彼女をとても愛していた事だ。
彼女は自身の欠損を「悲しい事」、「不幸な事」とは一度も思った事は無い。何故そんな彼女が魔法少女となったのか、それを知る者は一人もいない。
普段は爺やに車椅子を押され、どこか物憂げな表情で過ごしている。
彼女の魔法は、無いはずの四肢を薄赤く光るエーテル体で造り出すものだ。すり抜けさせるも実態を持つも、彼女の意思次第である。
彼女は現在、ほぼ使命感の様に魔獣狩りを行なっている。その過程で出会った菜奈夏が魔獣となってしまわぬよう、彼女に助言を授ける。

◆魔◆
魔法少女名鑑 #003
【Cotton-Candy】
全身が血走った眼球に覆われた魔獣。菜奈夏の入院する病院に陣取り、入院患者を喰らいその眼球を自身のドレスとしていた。彼女の眼球には透視能力と、催眠効果がある。眼球の合間から時たま見える少女の手足は、彼女が魔法少女だった頃の名残りだ。
◆法◆

虹村菜奈夏が始めて出会った魔獣。
全身を奪い取った眼球で着飾り、真夜中に吼える元魔法少女。
遠目から見れば、或いはふわふわとした綿菓子のように見えたかもしれない。
彼女はかつて視力を失い、そして魔法少女になった。魔法の眼球は視力を失う前よりも遠くまで見えたが、彼女は見たくないものまで見てしまい、そして666分の制限時間を超え魔獣になった。
彼女を追っていた凛は、戦闘の末に虹村菜奈夏と出会った。

◆魔◆
魔法少女名鑑#004
【Old-Fashioned】
太った女性の姿をした魔獣。顔が口になっており鉤爪が付いた8本の舌で獲物を絡め取る。彼女はかつて料理人志望であったが味覚を失った。魔法少女となり取り戻した味覚だが、結局魔獣と化した今では再び失われ、味を感じる事なく無意味に人を食らうのみだ。
◆法◆

彼女はかつて、将来を有望されるパティシエであった。だがその才能を妬んだ同期の奸計により、味覚を失ってしまった。
魔法により味覚を取り戻した彼女だが、666分の制限時間を無視したため魔獣と化した。
彼女が人間を襲う理由は、もしかすればもう一度「おいしい」と感じたいがためなのかもしれない。
しかし、彼女に与えられた罰は、それを許しはしないだろう。

エピソード予告

第1夜「少女の体はまほうで出来ている」
第2夜「もしも貴女が人で居たいなら」
第3夜「初めから全部夢だったら」
第4夜「明日なら変えられるね」
第5夜「さよなら、私の大切な人」
以下、続刊

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