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夢十夜

・・・という宿に泊まった
ユニークすぎる
宿の名前通り、夏目漱石の小説から由来している

宿のそこここに本が積み重ねてあり、
オブジェは殆ど本を重ねたり貼り付けたりして作られている

部屋に入ると、畳の上に置かれたベッド上に本棚があり、数十冊ノンジャンルで置かれている
服を収納する所にも、ハンガーに本が掛けられている・・・

元はかなり古い旅館で、クローズした後リフォームして新しい旅館?に生まれ変わったらしい
といっても建物自体は古いままなので、よーく見るとリフォーム前の姿がちゃんと窺える

でも大浴場もあるし、トイレもシャワー付きだし、エレベーターが無い事以外は、特に不自由さはない

ここは一人旅の方が向いている
というか、一人しか向いていないかもしれない
テレビが無くても本があるので、一人でも全く退屈しないのだ
それに二人で行ったら読書に没頭しにくいのではないかと思う

チェックインして、部屋でガリガリと珈琲豆を挽き(…自分で豆を挽いて珈琲を淹れられる宿なんてまだ出会ったことが無い)まずは珈琲を味わう

それから大浴場(温泉)に入り、売店で買った缶ビールをすすりながら、夕食まで部屋にあるハンモックで本を読む

夕食の際、ちょっと迷ってワインフルボトル1本頼んだ
食事内容もワインにぴったりだったし、部屋で続きを楽しめる

とても静かな夜だった
泊り客はとても少なくて、話し声もほとんど聞こえなかった
外はどしゃ降りで、それが却って心地よかった
読書にぴったりのシチュエーション

そうして、もう一度湯に浸かり、残りのワインを飲みながら眠くなるまで読書に没頭した

あまり深くは眠れなかったが、おかげで朝6時に目を覚まして、
待ってましたとばかり、湯に浸かりに行く
そして、朝食を食べた後、チェックアウトまで、また本を読む

宿を出る頃、もう雨は止みかけていて、駅までの30分間をゆっくりゆっくり歩く

知人にお土産を買う以外、もう用も無くなり、すぐに帰途に着いた
地元に着く頃にはすっかり天気は回復して晴れ間が見えていた
ちょっとだけ悔しい気もしたけれど、これで良かったのだ、きっと
何となく下界に戻って来た気がした

とても不思議な旅だった
あっという間の一晩だった
何とも説明し難い感想で、強いて言えば、「変な夢を見た」と言うのが一番近い気がする
普通、宿側からすれば「良い宿だったね」とか「感じ良かったわね」とか「料理が最高だったわ」という感想が喜ばれるのだと思うのだけれど、ここはたぶん、
「変な夢を見た…」こんな感想を伝えたら、とても喜んでくれそうな気がする
どこかに本の妖怪(なんてのがあればだけれど)が潜んでいるような気さえした

また行きたいか?と聞かれたら分からないなぁ
誰かに紹介したいか?と聞かれたらNOかなぁ
もったいない気もするし、それより喜んでもらえそうな気もしないのだ
この宿を気に入ってもらえそうな人に出会ってみたいな
いやいや、それよりこの宿をプロデュースした人に会ってみたい




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