夕暮れ時の記憶
日没前のわずかな時間が心地いい。一日のうちに数分しかない儚い時間。
薄青くオレンジがかった空、人肌より少し冷たい柔らかな風、家路を急ぐ人々の影、どこかの家から漂う夕飯の匂い。
この時間がいつまでも続けばいいのに、なんて思っていると、少し寂しくなってこのまま帰りたくなくて、無駄に遠回りしてみたり、ベンチに腰掛けてぼーっとしてみたりする。
夫の転勤についていくことになったとき、職場の後輩が「西の方は日の入が東京よりも遅いから、昼間の時間が長く感じられて得した気分になれますよ」なんて言ってたな。
そんなに変わらないでしょ?って思ったけど、こっちに来てみてわかった。彼女の言う通り東京よりも少しだけ夜になるのが遅いような気がする。
マジックアワーなどと呼ばれるその時間が心地よく感じるのは、期待に胸を躍らせた"あの日"の記憶が、心のどこかで今も色鮮やかに残っているからかもしれない。
例えば、部活終わりに好きな人と帰り道が一緒になるかもと期待したあの日とか、花火が打ち上がるのを待ち侘びたあの日とか、定時退社していつもよりおしゃれなディナーを食べに行ったあの日とか。
平凡な日常の中での出来事だけど、どれもちょっとだけ特別な夕暮れ時の思い出なんだ。
そうこうしてるうちに日は沈んで、あっという間に辺りは真っ暗に。さっきとは違った寂しさがやってきて、早く家に帰りたくなる。
こんな風に、これからも私は日常の中にあるちょっとした出来事を、大切な思い出として一つひとつ重ねていくんだろうな。
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