Studying Abroad for Nuclear Innovation (SANI) マサチューセッツ工科大学 2023年9月~2023年12月

氏名:西尾 龍乃介(にしお りゅうのすけ)
留学時の学年:博士後期課程1年
所属:東京工業大学工学院機械系原子核工学コース
留学先国:アメリカ合衆国
留学先大学:マサチューセッツ工科大学、Department of Nuclear Science and Engineering
受入教員名:Prof. Emilio Baglietto
プログラム名:Studying Abroad for Nuclear Innovation (SANI2023)

MITのGreat Dome前での写真

MIT受入大学の概要

 マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology; MIT)は1861年にマサチューセッツ州ケンブリッジに創設された私立大学であり、大学院生も含めて約12,000人程度の学生が在籍しています。Quacquarelli Symondsによる世界大学ランキングでは12年連続世界1位であり数多くのノーベル賞受賞者を輩出しています。MITが所在するケンブリッジ・ボストン地域は、ハーバード大学やタフツ大学をはじめとした大学や、世界で初めて麻酔手術が行われたといわれるマサチューセッツ総合病院がある学園都市であり、約70万人いる人口のうち25万人は大学生や研究者と言われています。すぐ近くのハーバード大学は赤レンガの建物で統一され歴史的な伝統を感じましたが、MITの建物は伝統的なものから奇抜な形のものまで(いい意味で)統一感がなく、遊び心の感じられるキャンパスでした。マサチューセッツ州は緯度が北海道と同程度であり、私が留学した9月から12月では肌寒いものの建物の中はとても暖かく過ごしやすい気候でした(1月以降は大雪になるそうです)。

奇抜な形をした建物の内部の様子、講義室やカフェテリアがある
Department of Nuclear Science and Engineeringの建物内ではいつでもコーヒーが飲む事が出来た

留学準備

①受入先研究室の決定まで(2023年4月)

 なるべく自分の博士論文のテーマに生かせるような研究ができるように在籍している大学の指導教員と相談し、受入先の指導教員・研究室の候補を決定しました。4月にプログラムの採用通知を受け取った後、すぐに受け入れ指導教員のBaglietto先生に連絡し、研究テーマのすり合わせのためzoomミーティングを行いました。10分程度で自分のやりたい研究テーマを2つほど提案した後、先生と相談し大まかな研究テーマを決定し、研究室に受け入れていただくことになりました。私が行いたいテーマの研究背景はBaglietto先生の主とする背景とは少し異なっていましたが、快く承諾していただきました。

大学内のいたるところでリスがみられた

②在籍・受入先大学での手続き(2023年5月-7月)

 研究室が決定した後は在籍している大学(東京工業大学)と受入先大学(MIT)の双方で手続きを進める必要がありました。在籍大学や銀行で申請し受け取る書類に加え、自分で作成するもの、MITのウェブサイトから受け取るものなど多くの書類を用意する必要があり、必要なものがそろっているか確認することが大変でした。特に受入先大学の手続きに関しては、ビザ取得手続きに必要な書類を受け取る必要があったので最優先で進めました。しかし手続きのメールがなかなか帰ってこないなどの自分で管理できない部分もあり、ギリギリまで手続きが続きました。予定通りに進むとは限らないので、渡航日から逆算してできるだけ早く進めていくと良いと思います。

「バナナラウンジ」と呼ばれる場所(バナナ取り放題)

③J-1ビザの取得(2023年7月-8月)

 今回の留学は研究活動を目的とした学生としてMITに訪問する形であったため、J-1ビザを取得する必要がありました。J-1ビザ取得には受入先機関からDS-2019と呼ばれる書類を受け取り、アメリカ大使館で面接を受ける必要があります。しかし前項で述べたようにそれを取得するまでに時間がかかってしまい、最終的に受け取ったのは8月に入る直前でした。DS-2019を取得した後は急いでアメリカ大使館での面接を行い、8月の中旬に無事ビザを取得する事が出来ました。大使館での面接については英語で行わなければならないということで緊張しておりましたが、ほとんど話すことはなく5分もかからずに終わったので心配することはないと思います。

ボストンについて最初に食べた食事

所属研究室での活動

受入先研究室について

 私を受け入れていただいたEmilio Baglietto教授の研究グループでは計算流体力学(Computational Fluid Dynamics; CFD)を用いた熱流動計算を行っており、特に水と水蒸気が混ざった気液二層流という非常に複雑な現象をメインに扱っています。流れを適切にモデル化することによって乱流を含めた複雑な熱流動現象を低コストで正確に再現する手法を探求し、原子炉などのプラント機器の設計に生かす研究がされています。

研究室のあったNuclear Reactor Laboratoryの入り口

研究概要

 新時代のカーボンフリーエネルギーとして期待されている核融合炉では、核融合反応で発生したエネルギーをリチウム鉛合金などの液体金属流れを用いて回収することが検討されています。液体金属は電気を非常に流しやすいことから核融合炉内の強磁場から強い影響を受け、私たちがよく目にするような川を流れる水の流れとは異なる性質を持つことが分かっています。しかし、実際の核融合炉環境下の液体金属流れを実験で再現することは簡単なことではないため、CFDを用いた研究がよく行われています。私は核融合炉内における磁場下液体金属流れの乱流現象を、適切なモデルを用いてCFDで再現することを目的として研究を行いました。

研究の様子

活動内容

 研究は研究グループのオフィスのパソコンでCFDソフトを用いて進めました。基本的には研究室で作業を行いましたが、帰宅後や休日に、自前のノートパソコンやリモートデスクトップでオフィスのパソコンを操作することで自宅で作業することもありました。毎週火曜日に研究の進捗報告を行うゼミがあり、その週に行った研究内容を発表してBaglietto先生や研究グループのメンバーから意見を頂きながら研究を進めました。
 また熱流体力学やCFDの理解を深めるため、Baglietto先生が持っていた講義を聴講させていただきました。講義内容は「受入先研究室について」で述べた気液二層流に関するもので、自分の研究テーマと直接かかわりはありませんでしたが、研究における考え方につながるヒントを沢山得る事が出来ました。

研究成果と今後の予定

 4か月の短い期間ではあったものの、研究テーマとしていた磁場下液体金属流れについて理解を深め、CFDにおける液体金属流れの乱流現象のモデルに関して研究成果を得ることができました。しかしまだ改善するべき点が残っているため、帰国後もオンラインでゼミに参加しながら研究活動を続けています。研究成果は来年度に国内学会で発表したのち、国際論文雑誌に投稿することを目標としています。

野球観戦の様子

所属研究室内外の活動・体験

 研究室では基本的に平日の10時頃から18時頃まで作業していました。食事については円安の影響もあり物価が非常に高かった(昼食で1500~2500円程度)ため基本的には自炊をしていました。昼食にはサンドイッチ等を持っていって研究室で食べることが多かったですが、ゼミ後には研究室の友人らと夕食を食べに行ったり、毎週木曜日には研究グループで一緒に昼食を食べたりしました。また大学内で無料のご飯を頂ける機会が多々あり、研究室メンバーで "Free Food!!" と言いながらよく食べに行きました(金銭的にとても助かりました)。研究室メンバーと仲良くなってきてからは休日に一緒にご飯に行ったり、街に遊びに行くこともありました。友人の家でテレビゲームをしたり、帰国直前のクリスマスにパーティをしたりしたことは忘れられない思い出になっています。
 研究室外ではMITの言語学習コミュニティに参加した他、自分の趣味である折り紙のクラブに参加したり(日本の文化である折り紙が海外でもこれだけ人気があるんだと驚きました)、渡航前から連絡を取っていた日本人の方と野球観戦に行ったりしました。また、同プログラムでテキサスA&Mに留学していた藤原さんがボストンに出張に来られ、留学に関して色々お話しする事が出来ました。沢山の人と出会い、多様な経験が出来たことに非常に感謝しています。
 観光に関しては、個人やルームメイトと一緒に行動することが多かったです。ボストン付近の美術館・博物館を巡り、ハロウィーンには魔女の街と呼ばれるセーラムに観光しに行きました。11月には電車とバスを使ってニューヨークとワシントンD.C.に観光に行きました。
 

研究グループでの食事の様子
MITの折り紙サークルに参加した時の様子
同プログラムでテキサスA&M大学に留学した藤原悠さんと食事をしました

留学先での住居の種類

2023年9月2日~9月8日   ゲストハウス
2023年9月8日~12月27日  ホームステイ型シェアハウス

 私にとって初めての海外長期滞在かつ一人暮らしであったこともあり、出来れば渡航前に住居を決定したいと考えていました。一方で詐欺に引っ掛かりたくなかったため、信頼性の高い海外に在住する日本人の掲示板(ボストン掲示板:https://kaigai-bbs.com/usa/bos/)を利用しました。滞在期間が短いということでシェアハウスの契約途中で断られてしまったこともありましたが、最終的に日本人家族の住む家の一部屋を借りる形のシェアハウスに決定しました。住居には私の部屋とは他にもう一部屋用意されていたため、ルームメイトが立ち代わり入る形になりました。家主の夫婦がとてもやさしく、留学中安心して暮らす事が出来ました。シェアハウスの場所が大学から少し離れていたため、生活に慣れる最初の一週間は大学に近いゲストハウスに宿泊しました。

留学費用

SANIプログラムにおける支援内容:生活費等支援160万円(40万円/月×4カ月)、往復航空券、ビザ申請費用

住居費:約18万円/月 
食費:約10万円/月
日用品:約2万円/月
交通費:約1.5万円/月
海外SIM携帯料金:約4000円/月
娯楽費:約3万円/月
MITに支払う訪問学生費用(保険料を含む):625ドル/月


一ヶ月あたりの支出合計:45万円程度

※受け入れ機関側でのビザ申請用のために財政能力証明書を提出する必要がありました。単身の場合、総額3958ドル/月程度、そのうち51%以上が非個人の資金源でなければいけないそうです(2023年12月18日時点)。

今回の留学から得られたもの、感想

 4ヶ月間の短い研究期間でしたが、研究活動とコミュニケーションに全力を注ぎ、非常に充実した留学とすることが出来ました。私の博士後期課程における研究テーマは、本留学で行った研究内容とは少し異なりますが、今まであまり知らなかった乱流現象について学んだことで、自分の研究目的に新たな視点が加わり、研究内容に対して違った角度から考察・発想できるようになったと実感しています。今後はMITで学んだことを自分の研究テーマに組み込みながら、より高度な博士論文の研究を目指したいと思います。
 研究活動とは別の観点で、英語でのコミュニケーションにおいても多く得られるものがありました。渡航当初は周りの人が何を言っているのか殆ど理解できず、悔しい思いをしていました。それでも研究の進捗を毎週のゼミで発表・議論をしたことや講義の聴講に加えて、常日頃から積極的に研究グループのメンバーとコミュニケーションを取ることに心掛けました。研究室を中心とした友人達やBaglietto先生は英語が拙い自分に対しても排他的になることは全くありませんでした。その結果として以前より英語の語彙力やリスニング能力が身につき、自信をもってコミュニケーションを取れるようになったと考えています。今回の留学は私にとって初めての長期の海外滞在であったため、コミュニケーションや食事、交通手段など文化の違いに驚くことがいろいろありましたが、最終的には負担を感じることなく楽しく過ごすことが出来ました。普段と違う環境に置かれた際でも少しずつ理解しようと努力すれば、だんだんと適応できるようになることを学びました。
 
 最後に、今回の留学プログラムを支援してくださった原子力イノベーター養成プログラムの小原徹先生、片渕竜也先生、様々な留学の相談に乗っていただいた同プログラムの津田章子様、受入先指導教員のEmilio Baglietto先生に大変感謝申し上げます。また留学のサポートをしていただいた指導教員の近藤正聡先生、MITでお話して下さった原田琢也先生、留学先で出会ったすべての人に感謝申し上げます。

その他

ワクチンの接種について

 MITの留学手続きにおいて、日本では接種が義務化されていないワクチン(B型肝炎、麻疹、風疹など)の接種照明の提出が求められました。私の場合はB型肝炎等一部のワクチンを接種していなかったため渡航前に急いで接種しましたが(保険適応外のため合計3万円程度かかりました)、現地に到着してから一度もそれに関して言及されることはなかったため本当に接種する必要があったかどうかは不明です。COVID-19以降、感染症に関しては受入れの条件が何度も変わっていると思うので、どのような接種が必要かしっかりと確認するのがよいと思います。

通学に使っていたRed Lineの電車

ボストンの交通について

 私が住んでいた住居はMITから直線距離にして15 kmの位置にあり、現在私が通っている東京工業大学から自宅までとほとんど同じ距離でした。電車一本でMITに行ける位置だったので通学も楽だろうと考えていましたが、電車が日本と比べて非常に遅くトラブルがよく発生したため想定よりも2~3倍時間がかかってしまいました。ただ、日本の交通網の素晴らしさと文化の違いがよく分かるいい経験になりました。交通手段に関しては地域によって千差万別だと思うので、よく調べてから渡航するべきだと思います。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?