エーデルワイスの魔法書店 夏〈ラテン語の魔法書〉 第一章

第一章 貴族と付き人

 ある夏の日の昼下がり。新しく魔法書を入荷し、私は上機嫌で店内の掃除をしていました。しかし…
「やぁ!エディ久しいねぇ!新しく本を仕入れたと聞いたが、あるかね?見せておくれよ!」
「げ…サイラム。」
また、と言うか、やっぱり来た。この男。彼の名はサイラム。そこらの貴族の息子で一応、魔法使い。新しい本が入ると必ずその日に来て、うるさくして帰っていく。前にそれで人間のお客様が逃げていってしまったし、本当にやめて欲しいものだ。
「げ、とはひどいじゃあないか。せっかくお客が来たのに。」
「あなたの魔力、まだたくさん残っているんですよ。」
そう言いながらも、今日入荷した魔法書たちを彼の前におく。あぁ…あとで読もうと思っていたのに…。
「へぇ…植物魔法か…ぉ、炎か。いいねぇ、派手でかっこいい。」
「いや、派手とかでなく、適正で選んでくださいません?」
どうしても、かっこつけたいらしい。呆れてしまう。と、彼の手が止まった。
「おや…、これは何の文字だい?」
黒い、ぼろっとした表紙に銀の文字。これは…
「ラテン語ですね。たしか、サイラム様が今・お勉強・している『はず』です。」
「カイトさん!」
彼はサイラムの付き人。主人と違って、とてもしっかりしていて信頼できます。
「ゔぇ…カイト…なぜここに…?」
一方でサイラムは真っ青な顔をしています。
「あぁ…家庭教師の方からあなたが時間になっても授業に来ない、と連絡をいただいたのです。」
「あ、あいつ…。」
「先生は大変ご立腹でしたよ。屋敷に帰ったらお叱りがあるでしょうね…。」
「ゔぁぁぁ…。」
サイラム、授業をサボってここに来ていたのですか。机に突っ伏しているサイラムの横でカイトさんはわ、笑ってる‥。