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小説|福岡天神 流しのバーテンダー 4

愛、散々

 十二月に入ると、やたらに寒い日が続いた。
 私は凍える外気を避けるように地下に潜り、寄り道せずに帰宅するというパターンを二週間位は続けただろう。
 だけど、その日は珍しく暖かくなったので、地下街ではなく地上の横断歩道を渡って帰っていた。
 同僚と二人で、喫茶店にでも寄って行こうか、なんて話をしている時だ。
 カシャン、カラン、コロン…。
 それは下駄を鳴らす鬼太郎ではなく、バー・ツールを揺らす長谷川隆一郎だった。
 横断歩道の向こう側から、満面の笑みをこちらに投げかけて歩いてくる。
「あー」
 溜め息をつくと、同僚がウヒヒと笑った。
「コーヒーはあきらめたわ。涼子は美味しいカクテルでも作ってもらいなさい」
「何でこの道が判ってんだろう?会社までは教えてないんだけど」
「愛でしょう、愛。あー、羨ましいわあ」
「じゃ、あんたも飲んでけば?」
「嫌よ!恥ずかしい!」
「コノヤロー」
 私は同僚にスリーパー・ホールドをかけながら、気付かない風を装って長谷川とすれ違った。
 そのまま歩き続ける。
 カシャンカランの音はすれ違うと同時に止まった。
 そのまま、音は近付いてくる気配がない。
「お、成功か?」
「あんたねえ…。可哀相じゃないの、隆ちゃん。苦しいし…」
「だって、こんなに人がいる所じゃ私だって恥ずかしいよ」
「あんたも恥じらうことがあるんだ。ねー、苦しいって…」
 信号を渡り終えたところで、同僚の首から手を離してやった。
「隆ちゃんは?」
「知らない」
「見てみなよ、可哀相に。割に男前じゃない。多香子も言ってたよ、結構可愛いって」
「私は男に可愛さは求めない性質(たち)なんでね」
「怖い顔。ほら見てみーよ」
 私は仕方なく、横断歩道を振り向いた。
「うげっ」
「どうした?」
「安全地帯からこっちを見つめている」
「ははあ、結局立ち止まったままだったんだ。可哀相に」
「しかもシクシク泣いてやがる。男のくせに」
「クセニとかいかんて。今時そんなこと言ってたら怒られるよ。じゃあ、私はこれで」
「あんた、可哀相って言いようくせに冷たいやんね。見もせんでから」
「だって、見たら母性本能がくすぐられるかもしれんし、そしたら困ろう?涼子だって」
「別に困らん」
「まあ、とにかく、私はこれで、お疲れさん。飲みすぎるなよ」
 同僚は薄情にも私を置いて帰ってしまった。
 私も帰ろうかと思ったけど、ここからでも判るくらい目を潤ませている長谷川を見てると、そうもいかなくなった。
 
 信号が再び青になるのを待って、私は歩き出す。
 奴はじっと私が来るのを待っていた。
「歩きーよ」
 長谷川の目の前に来てそう言うと、奴は涙を拭いてヘヘヘと笑う。
「やっぱり来てくれた」
「お前なあ……。とにかくどっちかに行くよ」
「こっち行きましょう」
 長谷川が言うので、私はまた会社側の歩道へ逆戻りすることになった。
 渡辺通りの歩道を北へ向かう。
「ねえ、私があの信号渡るって、判ってそこにおったと?」
「いいえ、偶々ですよ。黙阿弥堂に来る時いつも東の方から来るでしょう?だから涼子さんの会社は多分東の方向だろうと思って、駅ビル前の横断歩道をよくうろちょろと」
「偶々やないやん」
「あ、そうか。すみません、張り込んでました。でも会えたのは初めてなんで」
「別にいいけどさ、お客さんいない訳じゃないんでしょう?」
「はい。寅さんのお陰で屋台にチョコチョコ顔を出させてもらってるんです。何軒か出入りを許して頂いているので、今では一日に平均10人くらいはお客さんを見つけられるんですよ」
「そう。じゃ、もういいじゃん、私に頼らなくても」
「そんなこと言わないでくださいよ。せっかく仲良しになれたんですから」
「……なりたくてなった訳じゃないけどね」
 長谷川は私の呟きを無視して話を進める。
「そうだ、お腹空きません?僕何か奢りますよ」
「無駄遣いしてたらお店出せないわよ」
「無駄じゃないですよ。何食べたいですか?」
「パン」
「パン、ですか?もっと高いのでもいいんですよ」
「やだ。パンが食べたい。麹屋のパンが食べたい」
「こ、麹屋のですか?」
「うん」
「でも、思いっきり逆方向なんですけど……」
「いやだ。買ってきてよ。それじゃなかったら食べたくない。もう帰る」
「わ、判りました!買ってきます。買ってきますから、帰らないでくださいね?」
「うん」
「じゃあ、その間、どうしましょうか。道端で待ってる訳にもいかないでしょ?」
「ジュンク堂で待ってる。窓際のカウンターのとこで本読んでるから」
「判りました。本当、帰らないでくださいよ?」
「うん」
「何かリクエストありますか?」
「お惣菜っぽいの以外がいいな。チョコ付きのは絶対一個は買ってね。じゃ、走って急いで買ってきて」
「は、走ってですか?」
「1キロはないでしょ?」
「…往復したらありますよ」
「だってお腹空いてんだもん。流しに必要なのは一に体力、二に気力よ。これも修行じゃ、行け」
「は、はい…」
「声が小さい!」
 長谷川は怯えるように「はい!」と叫んで、南に向かって走っていった。
 さて、帰るか。
 
 とは思ったものの、私も人の子。
 さすがにそこまで非情なことは出来なかった。
 大人しくジュンク堂の本棚の前で物色していた。
 と、長谷川が青白い顔をしてカシャン、カラン、ゼーゼーと怪しく近付いてくる。
「ま、ま、ま、窓際で本読んでるって、言ったくせに、ゼーゼーぜぇぇぇ」
 本棚の間の通路が、長谷川とその大荷物のせいで塞がれている。
 付近にいた客は長谷川を恐れて方々に散っていった。
 私は長谷川を睨みつけて言った。
「凄い邪魔、あんた」
「仕方ないじゃないですかっ!」
「静かにしてよ。読む本探してたんじゃない。怒んないでよ」
「だって、店中探し回ったんですよ」
「その格好で?」
「もう、帰ったかと思ったじゃないですか」
「帰ってなかったでしょ」
「でも何でこんな場所にいるんですか?こんなミリタリーのコーナーにいるなんて、思わないじゃないですか!背そんなに高くないんだから、男の客に紛れて最初判らなかったんですよ!」
「煩いなあ。いいじゃんもう。邪魔だから外出るわよ」
「先刻、警備員さんに追いかけられて、危うく摘まみ出されそうになったんですからねっ」
 恨めしそうに私の後ろをついてくる。
「そりゃそうでしょうね」
「恨んでやる、恨んでやる……」
 念仏の様に長谷川は呟いた。
 私は構わず下りのエスカレーターに乗る。
 しかし、長谷川が付いてこない。
 振り向くと、エスカレーター手前で警備員に腕を掴まえられていた。
 大きな声で騒いでいたので店員か客が呼んだのだろう。
「長谷川……」
「涼子さん!」
 長谷川は私に向かって手を差し伸べる。
 警備員がもう一人来て荷物を押さえる。
 手を掴まえている方が長谷川に言う。
「お客さん、ちょっと来ていただけますか?」
「ぼ、僕は何も悪い事してないですよ」
「ええ、まあ、詳しいことはあちらで伺いますから、すみませんね、ちょっと来てください」
「長谷川」
 私も長谷川に手を差し伸べる。
 そして、抗うことの出来ないエスカレーターの力に身を流されながら言った。
「パス!」
 はっとして、長谷川は手にしていた茶色のビニール袋をこちらに投げて寄越した。
 袋には麹屋のロゴが入っている。
 私はそれを上手いことキャッチして、長谷川に敬礼をする。
「さらば、我が友よ」
「あ、うそ……」
 長谷川は悲壮な顔をして、警備員に引きずられて行った。
 
 
 河竹のおじさんと楽しく雑談をしていると、カウベルを鳴らしてドアが開いた。
 見ると長谷川がフラフラと入ってきた。
 入るなり倒れた。
 荷物は店の前に置いてある。
「どうした?」
 私は上体を起こしてやる。
「どうしたじゃないですよ…。一人で逃げるなんて酷い…」
「人聞きの悪いことを。不審だったのはお前だけで私は無関係だ」
「置いてかなくてもいいじゃないですか…」
「まあ、無事でよかった」
 長谷川の腕を引きずって、店の中へ入れてやった。
 道に置いていた荷物も中に運ぶ。
「何だか」
 おじさんが、床に横たわる長谷川を、カウンター越しに覗き見、私に向き直って言う。
「ちょっとの間に涼子ちゃん、逞しくなったねえ」
「え、そうですか?照れるなぁ。はっはっは」
 長谷川が虫の息で呟く。
「褒めてんじゃないですよ、それ…呆れてんですよ…」
「いや、呆れてはないけどね。驚いただけで」
 私は長谷川の荷物からスツールを取り出して、それに座った。
「あんたがなんか頼りないから、その反動で私が強くなってるんじゃない?」
「え…」
 長谷川は寝たまま顔をこちらに向けた。
 その目には生気が宿っていた。
「どういう事ですか?それはもしや、僕らは一心同体だと?」
「誰がそんなこと言ったよ」
「そうか、涼子さんは僕のことをそんな風に思っててくれたんですね…」
「人の話を聞かんかい、コノ」
 私は立ち上がり、奴の腹をぐりぐり踏んづける。
「まあまあ、涼子ちゃん、落ち着いて」
 おじさんになだめられて私は座りなおす。
 長谷川は私を無視して嬉し涙を流したまま言った。
「そうだ、僕すごくお腹空いてるんです。さっきのパン…」
「あ、食べちゃったよ、おじさんと」
「へ……」
 嬉し涙が本当の涙に変わる。
「だって来るの遅いんやもん」
「おや、すまなかったね、君のだったのかい。涼子ちゃんが差し入れだって持って来てくれたから、てっきり」
「そんな……」
「泣くなよ」
「もうお腹空いて立てない……」
「仕方ないやん。残ってるの、私の食べかけが半分しか…」
 立てないと言ったくせに、長谷川は私が言い終わらないうちに素早くカウンター上の私の食べかけのパンを奪って、店の片隅に移動しムシャムシャと貪った。
「妖怪か、貴様…」
 邪魔をするとシャーッと威嚇音でも発しそうな、険しい目付きになっている。
 こないだの警察官より危ないかもしれない。
 
 
 おじさんが荷物を預ってくれるというので、店に荷物を置いたまま二人で夕飯を食べに行く羽目になった。
 新天町にある花屋の二階の喫茶店でドライカレーやら何やらを食べて、黙阿弥堂に戻り、荷物を抱えて駅に向かう。
「やあ、今日は結果的には楽しいデートになりましたね」
「デートじゃないから」
「やだなあ、涼子さん。どうしてそんなに頑ななんですか?」
「あんたね…。初めは仕事の助けになればと私も思ったけど、はっきり言ってもう、そんなの関係ないんやろ?」
「え?」
「言いたい事あれば言ったら?」
「え、あ、その……。じゃ、じゃあ、言いますよ」
 長谷川は立ち止まったが、私は止まらなかった。
「歩いてても邪魔なんだから、立ち止まるな」
「あ、はい」
 慌てて長谷川は私の横に並びなおす。
「い、言いますよ?いいですか?本当に言っちゃいますよ?」
「どうぞ」
「本当ですか?本当にいいんですね?口から出た言葉は消しゴムじゃ消せませんよ?」
「くどいんじゃ己はっ」
 肩紐からぶら下がっている栓抜きを取って首を突いてやった。
 うぐっと呻いて、長谷川は首を押さえる。
「す、すみません。じゃあ、言いますけど……、あの、僕と付き合ってください」
「ごめん。好きな人いるから」
 カシャンカランの音が止まった。

 新天町を抜けて旧岩田屋前のコンコースまで歩いてきて、仕方がないので待っていた。
 なんとなく薄暗い空間だけど、私は結構このコンコースが好きだ。
 天井が高くて、素通りしてたら気付かないけど、見上げればアーチ状の天井がお洒落で、それに続く柱もよく見れば懐古的な味わいがある。
 しばらくして、長谷川がやってくる。
 ヘラヘラと頼りなく微笑んでいた。
「やだなあ、涼子さん、そんな冗談言っちゃって」
「冗談じゃないよ」
「嘘ですよ。だって、いつもほとんど寄り道せずに、すぐ帰っちゃうじゃないですか。会社と自宅を往復するだけみたいな涼子さんに、そんな人がいるなんて思えない」
「失礼な。誰が会社と自宅を往復するだけの人生だと?」
「いや、人生とまでは言ってないですけど……」
「とにかくいるから、悪いけど」
「……誰ですか?」
「誰って、言ったって判んないでしょ」
「どんな男か見てみたいです。本当は嘘かもしれないし」
 私は溜め息をついた。
「もう少しすれば見れるわよ」
「え?」
「そろそろ、ここを通る時間だと思う。その先の英会話教室に通ってるの。きっとここを通って…。ほら、来た」
 
 大通り側からアタッシュケースを持った男がコンコースに入ってきた。
 私に気付いて、片手を上げる。
「よお、緑川くんやないね」
「部長、今からですか?」
「うん。もう少し時間があるっちゃけどね、水鏡天満宮んところで田中たちとご飯食べてからくさ、飲み誘われたけど時間なくなるけん抜けてきたとよ。でもコーヒー飲む時間くらいならあるっちゃん。ケーキでも食べに行こうか?」
「あの」
 長谷川が声をかけ、部長の笑顔が強張った。
 驚いたことに部長は長谷川の存在にそれまで気付いてなかったのだ。
 面白いくらい慌てている。
「な、なな!あ!き、君は確か、西通りの騒動の時の!」
 あ、標準語みたいになった。
「はい。その節はどうもお騒がせを」
「いやいや、こちらこそ」
 長谷川が丁寧にお辞儀をするので、部長はつられてお辞儀をし、名刺まで差し出した。
「あ、僕、名刺なくて。すみません」
「いえいえ、お気になさらず。って、いや、そうでなくて、どうして君がここに?」
「どうしてって、涼子さんと食事をした帰りです。今日はいろいろ買い物もして楽しい一日でした」
「あ、そ、そうなんだ。そうだったのか」
 部長はやたらに動揺していた。
 長谷川みたいな訳の判らないタイプがよほど苦手なのだろう。
「あの、僕、流しのバーテンダーなんです。お勉強前に一杯いかがですか?」
「え?ああ、そ、そうだね、一杯くらいならいいが…。ショートの方がいいな」
「承知いたしました」
 シュタタタタタ。
 と、長谷川は今までよりも更に洗練された動きでカウンターを用意した。
 腕は日ごとに磨かれているようだ。
 カクテルを仕上げて、部長に差し出す。
「アフター・ディナーです」
 アプリコット・ブランデーがベースの黄色いカクテルだった。
「いやあ、お洒落だね。ディナーって言うほど洒落た夕食じゃなかったけどね」
 部長は少し落ち着きを取り戻したようだ。
 グラスを手にして、それを飲む。
「はあ、美味しいじゃないか。これが噂のねえ……」
「噂、ですか?」
「ああ。君の噂はうちの会社では毎日のように聞くんだよ。何しろ緑川くんの知り合いだからね」
「そうなんですか」
「流しのバーテンダーと言うから、本当を言えば味は期待してなかったんだ。ちゃんとガラスのカクテルグラスを使ってるんだね。いやはや、お見それしました」
「とんでもないです。あの、部長さん」
「ん?」
「今、好きな女性はいらっしゃいますか?」
「はっ⁉」
「突然、変な質問をしてすみません。でも、お伺いしたくて」
「あ、いや、その」
 部長はあたふたと酒を飲み干した。
 せっかく冷静になってきたのに、そんな突拍子もないことを聞くなよ、長谷川。
 しかしこれもバーテンダーの技なのか、何故か部長は話し始めた。
「えっと、つまり私は、妻も子もある身の上なのでね」
「え、そうなんですか?」
「ああ、ははは、そうなんだ。ええっと、だからね、まあ、その、なんだ、可愛いなと思う女性が現れたとしても、その、なんと言うか」
「家族は大切ですからね」
「そ、そうなんだ」
「長年連れ添ってる奥さんだもの、大切にしないといけませんよね。好きで一緒になったんでしょうし、子供だって大切だし」
「そうなんだ。つまり、そういう事だね」
「判りました。変なこと聞いてすみません。僕てっきり、独身の方だと思ってたんで。見た感じお若いので、騙されちゃいました」
「は、はは、またまた。私なんか何処から見てもおじさんだよ。ははは」
「僕、部長さんを見習いたいと思います。やっぱりなんと言っても家族ですよね。愛する人と結婚したんだもの。一時の迷いで浮気なんかしちゃ地獄に落ちますよね。僕も部長さんを見習って、大好きな人と結婚できたら絶対浮気なんかしないようにします。いやあ、今日は勉強になったなあ。ありがとうございました」
 やけに力んで長谷川はそう言った。
 部長は薄っすら額に冷や汗を浮かべている。
「本当、尊敬しちゃいます。そうですよね、子供だって自分の父親が若い女と浮気なんかしてたら、もう即不良になりますよね。そんなこと絶対できませんよね。部長さんって、父親の鑑みたいな人ですね」
「そ、そこまで言われるとなんか苦しいけど…」
「え?何かおっしゃいました?」
「いや、何も…。えっと、これ幾らになるのかな?」
「今日は僕が無理やりお引き止めしたみたいなものなので、お代は結構です。その代わりあちこちで宣伝してもらえたら助かります」
「そうか。判ったよ」
 部長はスツールを軋ませて立ち上がった。
 表情が少し疲れている。
 そして言った。
「君はいるのかね?好きな女性が」
「はい。僕、緑川涼子さんが大好きなんです」
「……そうかい。きっと、そうだろうと思ったよ。あの西通りで君を見た時にね。彼女はとても気立てのいい優しい子だよ。大事にしなくちゃいけないよ」
「はい」
「それじゃあ」
 部長は最後に、私にも微笑を向けて、英会話教室へと歩いて行った。
 
 私がぼんやり、消えていく部長の背中を眺めていたら、長谷川が言った。
「結婚してたら仕方ないですよね」
 さっきまでは澄ました顔をしていたが、今はにやけそうになる口元を一生懸命堪えているといった様子で、後片付けをしている。
「ねえ、長谷川」
「はい?」
 私に顔を向けた長谷川は、少し頬をひきつらせた。
「なんでさ、私があんたに大切にされなきゃいけないわけ?」
「あ、ちょっと待って、涼子さん」
「私、あんたに何にも頼んでないしさ」
「ス、ストップ!ウェイト!フリーズ!」
「私はさ、部長と一緒にケーキ食べるだけで幸せだったのにさ」
「うわーああっっ、おごっ、うげっ、ぐぎっっ」
 そして、私は一人、福岡(天神)駅へ向かって歩きだした。

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