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調理実習

高校一年生の時、調理実習で炊き込みご飯と筑前煮を作ることになった。
グループは、私以外仲良しグループの3人組。
案の定、味付けとか盛り付けといった目立つ作業を彼女たちがして、
私は洗い物だったり地味な作業ばかりやらされていた。

キャピキャピした雰囲気についていけず、会話にも入ることができなかった。
片づけをしていると、いつの間にか私以外のメンバーがいなくなっていた。
周りの人に聞くと、職員室に作った炊き込みご飯をおにぎりにして
持っていったとのこと。
そんな話は全く聞いていなかったし、作ったご飯は生徒が各自持って帰ってよいことになっていた。
私も当然持ち帰って、両親に作ったご飯を見せようと思っていた。

職員室から戻ってきて、「○○先生がおいしいって言ってくれた~!」「○○先生優しかった~!」と媚びを売ってきた成果をわざわざ報告しながら、自分たちで確保しておいたおにぎりをランチバックへ入れる彼女たち。
私の分の炊き込みご飯など存在していなかった。
そこには、私にご飯を残す思いやりすらも存在していなかった。
少しわけてほしいなどと言えるわけもなく、黙々と片付けを終わらせ
3限目の授業へと向かった。
授業の冒頭で「3人がご飯持ってきてくれました~!おいしかった」と
背景も知らずにニコニコと話す教師。
私はあのときの喉に何かがつっかかる感覚を二度と忘れることはないだろう。

彼女たちはいまどんな生活を送っているのだろうか。
こんな出来事など学生時代の記憶に一瞬に過ぎないし、
すっかり忘れていることだろう。
だが私は炊き込みご飯を見るたびに、悲しい思い出がよみがえるのである。
せめて私よりは不幸であってほしいし、私よりおいしいものを知らないでいてほしい。
「食べ物の恨みは一生」とはまさにこのことである。


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