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ご縁があったら、、、

バンドのライブに行った帰り道。きらめく通りを1人で歩くとある土曜の夜。
ライブで聞いた曲を口ずさみ、ご機嫌でコインパーキングに向かう私。
お気に入りの真っ赤なワンピースにオールドコーチのバッグを肩にかけ、
闊歩する姿はきっと目立っていたに違いない。

「○○ちゃん!」突然大きな声で呼び止められた。
常に目立つスターはこれだから困ると言いたいところだが、
残念ながら私はしがないOL。スターと名乗れる者ではない。

「覚えてる?」とあっけに取られる私の腕をつかんで続けて言う女性。
ぱっと顔を見て思い出せなかったが、人のよさそうなたれ目をよく見て思い出した。高校の同級生だ。
はっと我に返り、「覚えてるよ。△△さんだよね。」
人見知りを発揮し、思わず苗字にさん付けで話してしまう。
高校時代は下の名前にちゃん付けで読んでいたはず。あんま覚えてないけど。

なぜ覚えてないかって?お察しいただいた通り、そんなに仲良くなかったのだ。
彼女はクラスの仲良し7人グループの中の1人。グループ名もあったはずだ。
G7だったかな?いや、それは首脳会議だ。
女子高生の世界の中では、グループというのは特殊だ。
常に一緒にいて仲良さそうに見えて、実はそういうわけではなく、
理想的な「高校生活」を誇示したいから、1人でいたくないから、
割と打算的な目的で集団を作っている。

そんな7人が私はなんだか苦手だった。
グループの中で立場が上の方の彼女はもっと苦手だった。
人のよさそうな顔で、人懐っこく声を掛けてきて
裏でなにをやっているのか、誰に何を話しているのかわからないところが
不気味だった。
何をしているか知っていても、誰も何も言えない空気感。
今思うと、要領が良い彼女のことをうらやましいと思いながらも自分のステータスを守ろうとする彼女を心の底では軽蔑していたのだろうと思う。

そんな彼女は、東京に就職したが地元に戻ってきたという。
「今度ゆっくり会おうよ」そう話す彼女の前で
思わず手に持っていたスマートフォンをさっと隠した。
高校卒業前、LINEを交換しようと誘われたが、「ご縁があったらまた会えるよ」と断った過去がある。
「ご縁があったね」なんて言われたら一生の終わりだ、奴隷されるんだと
中身のない近況を話ながら考えていたが、杞憂に終わった。

「じゃあね」と彼女の背中を見送りながら、
今回の再会を喜べない私は何だろうと考えた。
何なんだろうと考えても、答えが出るはずもなく
私は私なのだ。

またいつか、もし彼女と再会して心から喜べたとき
色んな意味で大人になったと言えるのかもしれない。
そう思いながら、コインパーキングから車を走らせたのだった。




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