私はずっと大学病院で働いていた。
周りの女医さんは順々に産休、育休をとり、時短勤務になっていった。
その姿を見て、内心私はいいなぁと思っていた。

1番の理由は当直しなくていいことだった。
当直はとりあえず疲れる。年を重ねるごとに疲れる。しかし、私には当直をしなくてもいい理由がなかった。

でも中堅になったところで、後輩のチーレジに頼む。
「ねーねーもう年で寝不足がこたえるから、できるだけ日直にして」
チーレジはおばさんの私の願いを叶えてくれた。そして日曜、祝日に病院に行く日はあっても当直の日は少なくなった。

話を戻して、妊娠・出産をする女医さんと周りの医局員に起こることを思い返す。

【産休前】
つわりの時期、休みがちになる人は多い
当直も入れなくなるため、私たちの回数は増える

【産休/育休】
産休の先生の穴を埋めるため、人事異動がある。私は産休の先生の代わりに分院に異動になったことがある。
人が足りず、代わりの先生が来てもらえない時もある。単純にマイナス１となり、他の先生の仕事は増える。
そしてときに育休期間は延びる。
保育園が見つからないのである。特に世田谷区は激戦である。医者の家庭は一般的に収入が高く、認可保育園にはまず入れない。

【時短勤務】
やっと保育園が見つかり、時短勤務で復帰。みんな4時ごろに帰っていく。申し訳なさそうにお先に失礼します、といって。
土曜日も出勤しなくてもよかった。
夕方のカンファレンスに出席しなくてもよかった。出席しないので、当然発表は回ってこない。
当直はもちろんしなくていい(←しつこい)

そして保育園に預けた子供はよく熱発する。迎えにいかなければならないので、女医さんは勤務の途中で帰っていく、申し訳なさそうに。
私は放射線科医なので、わからないが、外来や手術の担当になっていたらフォローはもっと大変であろう。

大変そうだな、と思うが、それからのことが想像できない。
私には子供がいなかったから。

子供がいる男性医師はどうなんだろう？
みんなずっと病院にいるけど、私よりはわかるのかな？
しかし男性医師が熱発した子供を保育園に迎えに行くことはない。
医師間のジェンダーギャップは大きいのだ。

繰り返すが、私にはなんの理由もないので、他の男性医師と同じように仕事が終わるまで、病院にいた。通常業務が終わると、カンファレンスの担当なので、症例を復習して、カンファレンスに参加。学会発表もする。当直/日直もする。
休んだり、早く帰ったりする女医さんを内心いいな、と思いながら。

そして留学先で結婚、その後出産をした。

私には休む理由ができた。
待ちに待った私の番である。

ところがところが、私は間違っていた。

産休、育休！？
休む、という字　
仕事は休めるけど？？

つわりは最悪である。
妊娠中は貧血になるし、疲れやすいし、なんだか関節が痛い。
私はそれまで健康優良児だったため、体の不調に慣れていなかった。
臨月のお腹のはり、足のむくみ、夜中何回もトイレにいかなきゃいけないし、便秘も辛かった。

陣痛も地獄の痛さである。今思い出してもブルーになる。。

産後なんの休憩もなく、育児は24時間365日。
アメリカで産んだため、私は翌日退院した。

私の代わりは
いない！
休みは
ない！

性格にもよるのかもしれないが、私の場合はっきりいって仕事のほうが断然楽である。

子供の面倒を家でずっと見るのは時にかなりつらい。理由を説明しようと思っても、上手く説明できない。

望んで生んだ子だし、大好きだし、世界で1番可愛いと思う。しかし時々本当につらかった。

眠い、自分の時間がない、誰も評価してくれない、無給。。
多分これは子供を産み、育てているお母さんにしかわからない。

私も女性だ。

でも私にはわからなかった、出産するまでは。

子供を産んでから、子持ち女医さん達のことを考えた。
みんなお腹が大きいのにけっこう最後まで働いていた。
なんなら育休１年間とるのもすごい。

多くの女医さんが医局を去るのもみてきた。

・両立がしんどい、疲れた。
・周りの医局員に申し訳がない。
・大学病院にいる意味がない。
・自分の時短勤務の給料より保育園代の方がはるかに高い。

やめたくない人もいる。小一の壁も理由のひとつだ。

女医さんの配偶者は医者が多い。科にもよるが、男性医師は当直が多く、家にいない日も多い。イクメンをやってもらうことは多くの場合、望めない。
その結果、女医さん1人で仕事と家庭、どうにも回せなくなるのである。

これはゆゆしき問題である。
絶対になんとかしなくてはいけない問題だ。
私はやっと気づいたのだ。
私が思う解決への糸口はまた別の機会で述べてみたい。

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