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“プライマリ・ケア2022年春号”使える論文My Top5

日本プライマリ・ケア連合学会の実践誌、”プライマリ・ケア”の『使える論文My Top5』は若手医師部門 病院総合医チームが紹介しているリレー連載です。

2023年春号は、長崎が担当しました。
今回は『リアルワールドデータ(RWD)編』です!

RWDは日常の患者臨床データの総称であり、主に患者レジストリー、保険データベース(レセプトや DPC)などが含まれます。
RWDを活用した日本発の5つの研究を紹介しています。

1. 急性期病院における質の低い医療

Miyawaki A, Ikesu R, Tokuda Y, Goto R, Kobayashi Y, Sano K, Tsugawa Y. Prevalence and changes of low-value care at acute care hospitals: a multicentre observational study in Japan. BMJ Open. 2022 Sep 7;12(9):e063171.

価値の低い医療とは、患者に益を与えない医療サービスであり、医療費の増大および不要な検査や治療に結びつきます。本研究では、242の急性期病院のレセプトデータをもとにデータ会社が作成したデータベースが用いられています(日本の入院患者の11%)。レセプトから抽出可能な33のサービスが定められました。

主な結果としては、患者の5〜7.5%が価値の低い医療を経験しており、全医療費の0.2〜0.5%に相当していました。

レセプトデータから抽出したもの以外にも質の低い医療はまだまだあるとは思います。とはいえ、日本において高価値医療を推進する上で、その基礎となるデータを示した重要な研究となっています。

2. Ambulatory care sensitive conditions(ACSCs)

Iba A, Tomio J, Abe K, Sugiyama T, Kobayashi Y. Hospitalizations for Ambulatory Care Sensitive Conditions in a Large City of Japan: a Descriptive Analysis Using Claims Data. J Gen Intern Med. 2022 Nov;37(15):3917-3924.

ACSCsは「適切な効果的かつタイミングよいケアを行うことで防ぐことのできる入院」のことであり、プライマリケアの一つの質評価指標です。本研究では、首都圏のある都市における国民健康保険の受給者が対象となり、レセプトデータやDPCデータが用いられました。

91350の入院エピソードのうち、8.4%がACSC入院であり、ACSC入院は全入院医療費の5.8%を占めていました。(うっ血性心不全が最も寄与しており、次が糖尿病合併症でした。)

本研究は、国民健康保険の受給者が対象であり、75歳以下は含まれていません。高齢者に対する研究をすると結果はどのように変わるのでしょうか。今後の研究に期待です。

3. COVID-19流行が非COVID-19患者の受療行動に与えた影響

Yamaguchi S, Okada A, Sunaga S, Ikeda Kurakawa K, Yamauchi T, Nangaku M, Kadowaki T. Impact of COVID-19 pandemic on healthcare service use for non-COVID-19 patients in Japan: retrospective cohort study. BMJ Open. 2022 Apr 24;12(4):e060390.

本研究では、民間のデータ会社が作成した26の急性期病院のDPCデータから作成したデータセットを使用しています。2017年1月から2020年10月の入院および外来患者が対象です。

608,263回の非COVID-19患者の入院エピソードが解析されました。COVID流行前後において、入院は27%減少し、特に小児病棟では65%の減少となりました。呼吸器系疾患(肺炎や喘息)への影響が顕著でした。

これらの背景には感染予防によるポジティブな影響と、入院閾値の上昇によるネガティブな影響が考えられます。医療現場はこの大きな変化に対応できるアジャイルの高さが今後強く求められていくことでしょう。

4. COVID-19流行が大腸がんの診断時ステージングに与える影響

Kuzuu K, Misawa N, Ashikari K, Kessoku T, Kato S, Hosono K, Yoneda M, Nonaka T, Matsushima S, Komatsu T, Nakajima A, Higurashi T. Gastrointestinal Cancer Stage at Diagnosis Before and During the COVID-19 Pandemic in Japan. JAMA Netw Open. 2021 Sep 1;4(9):e2126334.

1つ前の研究では、急性期病棟において悪性腫瘍の入院も10%減少したことも示されています。それに関連し、本研究では2017年1月から2020年12月の間に2つの大病院で診断された新規のがん患者を「全国がん登録」のデータを活用して後ろ向きに特定しています。

COVID-19流行前後を比較し、全体では新規の胃がんおよび大腸がんがそれぞれ26.9%と13.5%減少していました。傾向として、Stage Iの胃がん、Stage 0-1の大腸がんが減少する一方で、 Stage Ⅱの大腸がんは著明に増加していました。内視鏡検査や再診患者の数は特に減少していませんでした。

考察では、大腸がんのスクリーニングの実施が減少した影響を考慮しています。

5. 国内におけるCOVID-19患者へのイベルメクチン処方

Watari T, Tokuda Y, Taniguchi K, Shibuya K. Incidence of and Ivermectin Prescription Trends for COVID-19 in Japan. J Gen Intern Med. 2022 Nov 2:1–3.

最後に紹介するのは国内のCOVID-19に対するイベルメクチンの処方傾向に関する調査です。こちらの研究では民間データ会社から提供された140,442人(350 施設)のデータを活用しました。

結果として、イベルメクチンを処方された患者はわずか175名(0.1%)のみでした。最も使用数が多かったのは2021年3月であり、全国でCOVID-19による死亡者が最も多いタイミングでした。

国内では学会、ガイドライン、専門家がかなり慎重な対応をしたため、このような結果になったのかもしれませんね。


RWDを活用することで、臨床現場で実際に起こっている様々なことを一つの知見として形にすることができます。
今後もRWD研究から目が離せません。

本記事の内容については、会員の方はお手元の雑誌をご覧ください。
今後もリレー形式で続いていきますのでお楽しみに。

文責:長崎 一哉(水戸協同病院 総合診療科)

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