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真鶴町の旅が、とにかくよかった

4月のことなので随分前の話だが、真鶴町に家族旅行した記憶が色濃く残っている。
2泊3日の旅が充実していて、ひとつひとつの時間が暮らしのようで、とても豊かだった。ふと、自分の住んでいる宮代町にも似ている空気感があるな、と思ったりもした。それはなぜだったのか、少しだけでも言語化しておきたいと思う。

1日目
真鶴着
12:00 近くの港の食堂でランチ
13:00 コミュニティ真鶴
14:00 道草書店
15:00 チェックイン&妻の友人とお茶 @真鶴出版
18:00 魚伝・二藤商店で夕飯の買い物
18:30 宿で夕飯

2日目
8:00 宿の近所を子どもと散歩
9:00 宿で朝食
10:00 真鶴出版のまち歩きツアー
12:30 真鶴ピザ食堂ケニーでランチ
14:30 本と美容室
16:00 妻の友人とお茶 @エフハウス
17:00 高橋水産で夕飯の買い物
18:30 宿で夕飯

3日目
8:00 宿の近所を子どもと散歩
9:00 宿で朝食
11:00 cüe(キュー)
真鶴発

町に漂う子どもを歓迎してくれるアットホームさ

2歳の息子を連れての子連れ旅はなかなか気兼ねなくいけるところは少なくて、どうしても気をつかってしまいがちなのだけど、どこに行っても子どもを歓迎してくれるような温かさに救われた。

初日の昼過ぎに行ったのは「道草書店」。新刊販売・貸し棚・カフェ・こども図書館などが複合する本屋さん。住宅をリノベーションした雰囲気も良さげで気になって来訪。平日だったのでゆったりとコーヒーをすすりながら過ごしていた。
こども図書館とあるだけあって、子どもが動き回ったり、本やおもちゃを引っ張り出しても、いいよ〜好きにして〜という寛容さが際立っていた。こども図書館のスペースがちょっと奥まって洞窟のようになっていて、カフェスペースと空間が分かれていたのも、気を使わずに済むのでありがたかった。
すこしすると、小学生くらいの男の子がやってきて、帽子を忘れて取りに来た。常連のようで、そのままこども図書館にやってきて、僕らに挨拶するやいなや、2歳の息子と一緒に絵本を読んだり、パズルで遊んでくれたりした。その隙に大人はお気に入りの本を購入。
「僕はこの場所がお気に入りなんだ〜いい場所でしょ?」と、少し得意げに話してくれた。平日に来ているのだから、学校をさぼっているのかもしれない。ただ、自分が気に入っているんだと誇らしく思える場所があるなんて、どんなに素敵なことか。やさしい少年にこの場所の居心地のよさを教えてもらった。

道草書店のこども図書館で遊び込んだ

旅の宿は「泊まれる出版社 真鶴出版」。古民家を改修した、1日2組限定の小さな宿で、ずっと来たかった宿。この日は自分たち1組だけだった。まちを一つの宿と見立て宿泊施設と地域の日常をネットワークする「まちやど」の一つで、暮らしながら泊まる、というようなコンセプトだ。
チェックインの時に、まちのこともいろいろと案内してもらうのだが、宿泊の説明一つにも子どもがいると落ち着かない。けど、真鶴出版のお姉さんたちはとっても慣れていて、一緒に遊んでくれながら宿を案内してくれた。息子はいい大人にはすぐ懐く。結局2泊3日の旅中、お姉さんたちの仕事の大多数を子どもの相手に割いてもらった。オーナーも自分の子どもを連れてきてくれたりして、なんだか友達家族みたいだった。言葉では表現しづらいが、真鶴出版の方々はみんな、気遣いのスイッチを切ってくれる特殊能力を持っているようで、とてつもない包容力だった。
子どもが寝付いた後は、宿にある本をゆっくり

読みふける時間も最高だった。

嬉しそうに遊びまわる息子。
モノが多めの雑然とした感じも心地よかった。 

2日目の午後には「本と美容室」へ。斜面地をしばらく登って行った先の、これまた住宅をリノベーションした建物にサロンがある。店主1名で営業しているので、1対1のゆったりとした時間が流れる。妻がカットの予約をしたが、空間がまた気持ちよくて、丘の上で、周りを緑に囲まれた開放的な場所でカットをする心地よさが抜群で、これまでにない経験だった。ここでも子どもはその時間が待ち切れないのだが、カットの周りで走り回る子どもも受け入れてくれた。1対1だからの余裕なのか、都会では得られない体験だった。

開放感抜群で気持ちいい。カットしている周りをうろちょろする息子。

風景の美しさ

真鶴町は建築を学んできた人なら一度は教科書で耳にしたことがあるはず。そうたらしめているのは、「美の基準」なるまちづくり条例があるからだ。場所、格づけ、尺度、調和、材料、装飾と芸術、コミュニティ、眺めという8つの観点から、まちづくりを定義しており、景観保全の先進事例として長く知られている。
美の基準の本質は、何も変えない、ということだった。書籍『美の条例』に、この基準ができた背景が赤裸々に記録されている。制定の背景は、全国各地で行われているマンション開発に対抗するための策だった。当初は「水の条例」として、「ある一定規模以上の開発に対して新たな水の供給を行わない」というかなり強行的な条例をつくるほど、当時の三木町長の思いとリーダーシップが伺える。結局行き着いたのは、今ある風景やコミュニティを守る、ということだったのだと思う。
真鶴出版さんに案内してもらったまちあるきツアーでも、守られてきたその環境が随所に見られた。ヒューマンスケールな物理的距離感と、コンパクトな町ならではのほどよい対人的距離感があった。

美しい風景が守られている。背戸道。

なんとなく、自分が今住んでいる埼玉県宮代町でも、初代町長が強く主張し守られてきたのは「空が広い」ということだった。まちなかに高い建物はほとんどなく、最近つくられた駅前の商業施設は平屋建てののびやかなものだった。

真鶴町には美の基準を体現する施設として「コミュニティ真鶴」がある。町の公共施設で、今でも町民の集会スペースやコミュニティの拠点として親しまれている。
宮代町には、象設計集団が設計した「コミュニティセンター進修館」がある。こちらも公共施設で、町民によるファンクラブがあったり、お祭りで施設全体フル活用されていたり、ワークショップで修繕されていたり、愛されて使われている地域のシンボルだ。

場所は違えど、町民が守ってきた環境に誇りをもち、今ある環境や状況を大切に育てていることに共通項を感じた。

「美の基準」を体現して瀬景された「コミュニティ真鶴」

点が面になっている、エリアリノベーション

真鶴出版は旅の大きな目的地だったが、ここに来たいと思ったのはそれだけではないからだ。
前述した道草書店、本と美容室、コミュニティ真鶴のように魅力的なコンテンツがあったり、真鶴ピザ食堂KENNY、パン屋秋日和、コーヒーのwatermark、などなど美味しいこだわりのお店もたくさん。ここ数年で移住してきて始めたお店がたくさんあるのだ。
かと思えば、昔からの魚屋さんも何店舗もあり、新旧が織り重なってゆるやかに連関している感じもたまならい。
妻のご友人夫婦2組に会って、お茶したりなんだりもしていたが、ご夫婦で犬と共にゆったりと過ごしていたり、夫婦建築家で古民家を改修してのびのび家族で暮らしていたり、それぞれのライフスタイルが素敵で、たくさん喋って刺激を受けた。

「真鶴ピザ食堂KENNY」。港町らしいメニューもあり、めっちゃ美味しかった。
真鶴出版の朝食は近くの「パン屋 秋日和」のパン。コーヒーも近くの「watermark」。
夕飯は老舗の魚屋さんで買った惣菜たちを並べて。

訪れたい人や場所が点在していて、しかもコンパクトで歩ける距離にあるというのがいいところだ。一つの派手な点ではなく、集まっていることで相乗効果がうまれたり、ゆるやかにつながって連関していることで魅力が最大化されているような感じがした。そうして次から次へと人がやってくる、そんなサイクルがあるようだった。
まさにエリアリノベーションで、点が面になっているようだった。

2泊3日の短い旅だったが、地元を味わい、体験し、生活を感じられた時間に感動。たくさん学びと刺激を受け、自分の町でもこんなことしたいな、こんな場所あったらいいな、と暮らしをわくわくさせてくれる経験だった。

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