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【オンライン講義】水力発電・地熱発電

枯渇しないエネルギー源のうち、安定して電力を得られる発電方法は、水力発電地熱発電です。しかし、このふたつの発電方法の発電量には、大きな差があります。なぜ、それほどの違いが生まれるのでしょうか。また、ふたつの発電方法は、「自然に優しい」のでしょうか。それを考えてみましょう。

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第6回 水力発電・地熱発電

第6回と第7回は、私たちの便利で豊かな暮らしを支えるエネルギーについて考えてみたいと思います。一口に、エネルギーと言っても漠然としていますので、エネルギーのなかでも便利で豊かな生活のために、もっとも重要な電気エネルギーについて考えてみましょう。

まず、世界のエネルギー事情を見てみましょう。資源エネルギー庁が公開している資料から、世界の国々のエネルギー自給率の表を引用します。

資源エネルギー庁日本が抱えているエネルギー問題前編1

図 主要国の一次エネルギー自給率比較 画像作成:資源エネルギー庁
データ出典:IEA「 World Energy Balances 2019」の2018年推計値、日本のみ資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」の2018年度確報値。※表内の順位はOECD35カ国中の順位

エネルギー自給率が高いのは、エネルギー資源を産出する国々です。化石系資源は産出する場所に偏りがありますので、たとえば、2位のオーストラリアのように露天掘りで、安価に大量に石炭が取れる国は、石炭への依存度が高い傾向を示します。一方で、化石系資源に乏しい日本は、OECD35ヶ国中34位で、エネルギー自給率は約12%と非常に低い値を示しています。数値だけでは具体的なイメージが湧きにくいかもしれません。あなたが、スマートフォンに充電するとき、国産の電力で充電しようとすると、2週間に1回しか充電できないと考えれば、その少なさが具体的になるでしょう。

そこで、私たちの便利で豊かな暮らしを守るためには、日本のエネルギー自給率を上げていく必要が出てきます。ここで重要になるのは、安定して電力が供給できる発電方法であることです。現在の発電方法において、エネルギー自給率を上げつつ、安定して電力が供給できる発電方法は、水力発電地熱発電、そして、原子力発電しかありません。
では、それぞれの発電量はどのくらいなのでしょうか。国際エネルギー機関のデータから、2018年の世界の発電量を見てみましょう。

2018年の世界の発電量
原子力 2710 TWh
水力  4210 TWh
地熱発電    89 TWh
データ出典:国際エネルギー機関

3つの発電方法のなかで、もっとも発電量が多いのは、水力発電で、2位の原子力発電の1.5倍です。一方、地熱発電は、他と比べて発電量が極めて少ないことがわかります。

水力発電

水力発電のもっとも大きな利点は、エネルギー源となる水が、ほぼ無限に供給されること、そして、そのエネルギー源が自給できることにあります。社会の基盤を支えるエネルギーを自国でまかなえるというのは、とても重要なことですから、エネルギー源が無尽蔵で手に入る水力発電は、とても優れていると言えます。また、前回、考えたように、ダムは、発電の他に、治水様々な用水にも活用できますので、一石二鳥ということもできるでしょう。

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とくに、水資源が豊富な国にとっては、安価で、安定した電力を、自前で供給できる水力発電は、もっとも使いやすい電源となります。しかし、水力発電は、夢のエネルギーとは言い難い現実があります。たとえば、渇水になれば、電力を供給できなくなります。また、水力発電の源となるダムの開発によって、周辺地域には不可逆な環境影響が起こります。これは、前回にも考えていますね。講義では、水力発電大国ブラジルを例に、水力発電のメリットとデメリットについて詳しく考えます。

地熱発電

日本の地熱発電の資源量は、世界第3位です。しかし、発電量は、世界第10位です。日本は地熱資源に恵まれているにも関わらず、その発電は進んでいるとは言い難い状況です。なぜなのでしょうか。

世界における地熱発電量は、水力と同様に年々増加の傾向にあります。しかしながら、他の発電方法と比べると、発電量は非常に小さい傾向にあります。2018年の世界の総発電量は89 TWhでした。この発電量を、原子力発電と測って比べると、原子力発電所1基(97 TWh)に満たないことがわかります。地熱発電は、まだまだ発展途上の発電方法であると言えます。この地熱発電で、もっとも重要な部品、蒸気もしくは水を使って発電するタービンの生産割合の6割は、ある一国によって生産されています。そう。日本です。日本の企業が生産するタービンが世界シェアの6割を占めているのです。そうであるにも関わらず、日本の地熱発電が進んでいないのは、法令規制もありますが、地熱がすでに様々な用途に利用されていることに起因しています。講義では、地熱発電のメリットとデメリットについて詳しく考えます。

電気エネルギーは、あなたの便利で豊かな暮らしを支えています。そして、また、電気エネルギーは、科学技術の根幹をなすエネルギーでもあります。
このエネルギーを自給できるかどうかは、あなたの便利で豊かな暮らしを維持するために、非常に重要です。しかしながら、日本の電気エネルギー自給率は約12%に過ぎません。そして、日本のエネルギー事情は中東とオーストラリアに強く依存していますので、これらの国々の事情が、あなたの生活に直接影響を与えます。こうした状況を、少しでも緩和するためには、安定して供給できる電気エネルギーの自給率を上げていく必要があります。
水力発電と地熱発電は、ともにメリットとデメリットがあり、どのような方法を持ってしても、完璧な結末はありえません。あなたの便利で豊かな暮らしには、見えない犠牲が払われていることを意識することが重要です。そのうえで、誰かの意見を待つのではなく、熟慮し、あなたの決断を下しましょう。

参考

1 化学環境学 御園生誠 裳華房
2 2020-日本が抱えているエネルギー問題(前編) 資源エネルギー庁
3 開発か環境か…アマゾンの巨大ダム建設 日テレNews24 2012年08月03日
4 アマゾンでダムの建設ラッシュ、今後も数百カ所に 水力発電用ダムが川や森林を脅かし、先住民の立ち退きも多発 ナショナルジオグラフィック 2015年04月28日
5 干ばつで水不足、水力発電所が操業停止 ブラジル AFP BB News 2015年01月23日
6 水力発電ダム、野生生物7割を絶滅に導く恐れ 研究 AFP BB News 2015年07月02日
7 ダム人造湖に太陽光パネルの設置計画、ブラジル AFP BB News 2016年03月15
8 アングル:水不足で世界の水力発電ピンチ、温暖化阻止に脅威 ロイター 2021年08月27日
9 水力発電について 経済産業省資源エネルギー庁
10 ブラジル 概況・基本統計 日本貿易振興機構
11 主力電源としての地熱発電導入の展望 日本地熱学会 2020年10月30日
12 エネルギーひとくちメモ 東京電力 TEPCO REPORT
13 地熱発電のしくみ・地熱発電の特徴 日本地熱協会
14 Geothermal Power Generation in the World 2015-2020 Update Report 15 Gerald W. Huttrer Proceedings World Geothermal Congress 2020
16 地熱発電、世界で商機拡大 日本経済新聞 2021年06月11日
17 伊方原発再考 愛媛新聞 2012年03月31日
18 再生可能エネルギー導入ポテンシャルマップ 環境省 2011年01月13日
19 地熱発電:国を支える自然エネルギー ケニア 国際協力機構 mundi 2019年5月号
20 ケニアの電源は再生可能エネルギーが8割超、日本企業も貢献 日本貿易振興機構 2019年05月20日
21 海外の地熱発電状況について 一般財団法人新エネルギー財団 2020年7月

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