正解主義から脱しよう!【part2】

 『学校での過ごし方』に過剰に適合して,正解主義で物事を判断する危険性について,Part1に引き続いて考えてみましょう。

1 正解主義の弊害

 学校教育では「正解」とされる原理や法則ですら,すべて未来への外挿に過ぎないことを,part1の最後で紹介しました。正解主義に陥った子どもは,正解のない不確かな状況を苦手としており,とくに研究(探究的活動)で特異な行動傾向が強く発現します(表2)。

 たとえば,ある観察によって仮説(予想)が支持されたとしても,それは「正解」ではありません。偶然かもしれませんし,他の観察では仮説は支持されないかもしれません。だからこそ,研究はさまざまな手法で仮説の堅牢性を確認していく必要があります。しかし,正解主義に陥った子どもは,自分の期待する結果が得られると,すぐに手を止めてしまいます。観察を繰り返したり,他の手段で確かめる必要性を指摘されても理解できません。かれらにとって「正解」は無謬の存在であり,「正解」には,ほんの少しの不確かさも存在しないのです。
 また,ある観察によって仮説が支持されなかったとしても,それには必ず理由があります。偶然かもしれませんし,他の観察では仮説が支持されるかもしれません。そして,自分自身の知識を超える成果が得られたのですから,それはとてもスゴイことです。しかし,正解主義の子どもには,仮説が支持されないという結果は,単純な失敗,「不正解」を意味しています。かれらにとって,原理や法則は絶対の存在であり,他の手法を試そうとも,不正解という結果は覆されず,これ以上の試みは無駄なのです。

 正解主義の子どもは決められた成果以外の結果を認めません。そのため,正解のない問い(研究)では,上手く行っても行かなくても思考停止するという特異な行動傾向を示します。

2 未知の問題を解くためには

 正解主義のもっとも大きな危険は,表面的な正解を追い求めた結果,意図しない不正行為を引き起こす可能性が高いことです。たとえば,正解(予想)に合うように事実を繋ぎ合わせることによる研究不正行為である,捏造改ざんを起こしやすくなるのです。
 私は実際に教科書の記述と異なった観察をした生徒さんが「正解に合うように」データを改ざんする瞬間を目撃したことがあります。「誤った」データ分析をした生徒さんが,結果を隠蔽することは,それよりも頻繁に目にします。そして,ここが重要な部分ですが,生徒さんは悪意を持っているわけではありません。正解主義の子どもにとって「正解」を得ることは,それだけ重要であり,「正解」の重要性は研究不正行為の壁を容易に乗り越えうるものなのです。正解主義のかれらの行動傾向について,もう一度,ファインマン博士の言葉を引きましょう。

”いままで解かれたことのない問題を解くには,未知の要素を入れる余地を残しておかなくてはいけません。そして自分のやっていることが必ずしも正しいとはかぎらない,という可能性も認める必要があります。そうでなくて,はじめから何もかも決めてかかるのだったら,問題を解決することは、決してできないのではないでしょうか。”
     リチャード・ファインマン 科学は不確かだ! 岩波現代文庫

 未知の要素を入れる余地を残し,正解にこだわらないためにはどうすれば良いでしょうか。学校での「正解」を基準とした学習は,道具の使い方を教えるものであって,その道具を使って何をするのかは一人一人が考える問題であると思います。

引用文献

・リチャード・P. ファインマン (著),大貫 昌子 (翻訳),「科学は不確かだ!」,岩波現代文庫

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小中学生を対象にした人材育成事業から,学力非依存の能力伸長評価の分析について紹介していきます。学術論文として執筆中の部分もありますので,あまり詳細な情報が載っていない場合もあります。
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