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【動画解説付き】研究倫理の基礎

この記事では、探究活動や研究活動で用いる、基準の使い方のルールの基礎となる、ルールと善悪の混同について解説します。この2つの価値基準を分離して評価することで、探究活動や研究活動におけるルール、研究倫理とは何かについて、より理解しやすくなります。

探究活動や研究活動の目的とは、新たな「なにか」を見つけることであり、そのためには、基準と測って比べる必要があることを、これまでの記事で説明しています。そこで、この記事では、その基準を使うためのルールについて説明したいと思います。

なぜルールを学ばなければならないのか?

あなたが、基準と比べて何かを測るとき、その基準には決められた使い方があり、使い方に従って基準を利用しなければなりません。かんたんに言うと、基準を使うためのルールがあり、探究活動や研究活動を行う際には、このルールを守る必要があるのです。もし、ルールに従って基準を用いて測って比べていない場合、あなたの行動はルール違反になります。ルールに違反して得られた結果は、正しく評価できません。この探究活動や研究活動のルールは、研究倫理とよばれています。そして、そのルールに違反したとき、その行為は研究不正行為、もしくは、研究上、望ましくない行為とよばれます。

この探究活動や研究活動のルール、研究倫理を考える上で、もっとも重要であるにも関わらず、多くの人が誤解している点について取り上げます。それは、探究活動や研究活動のルールと、善悪とは無関係であることです。
ルールに違反するのは悪い研究者」という考え方は大変危険です。そのような考え方が、意図しない研究のルール違反を生み出しています。そこで、その点について考えてみましょう。

規範と倫理の混同

探究活動や研究活動のルールを考えるときに、もっとも問題となるのは、規範、つまりルールと、倫理、つまり善悪が混同されている点です。ルール違反するかどうかと、その人が悪人であるかどうかには、まったく関係がないにも関わらず、その2つが混同されていることが問題なのです。
たとえば、サッカー選手が、相手の選手のシュートをファールで止めたとしましょう。選手はルール違反をしたのでイエローカードをもらいました。

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では、そのサッカー選手は悪人でしょうか。そうではありません。ルールに違反したかどうかと、その選手の人格はまったく別のものです。
同様に、探究活動や研究活動でルール違反するかどうかと、善悪には何の関係もありません。しかし、とくにメディアでは、研究倫理に違反した人を、悪人であるかのように扱う傾向にあります。そのため、多くの人が、探究活動や研究活動では、規範と倫理を混同していることが問題なのです。

ルールと善悪の混同の最大の問題は、ルール違反をするのは悪人であるという考え方が、善人はルール違反しない、つまり、「悪意がない限り、ルール違反にならない」と、無意識に置き換えられてしまうことにあります。
この考え方は、高校数学で扱う対偶で説明できます。あなたが、「ルール違反をするのは悪人である」と考えていると、無意識に、その対偶となる、「善人はルール違反をしない」とする考えも正しいと思うようになってしまうのです。

対偶

そして、「悪意がない限り(何をしても)ルール違反にはならない」と考えるようになってしまうのです。その結果、知識としてルールを知っていたとしても、ルールに違反してしまうのです。

2つの価値基準を分離する

少し複雑な問題なので、状況を整理しましょう。この問題の複雑さは、2つの別な基準を1つの基準として扱ってしまうことにあります。
ここで言う、2つの基準のうち、ひとつが、探究活動や研究活動のルールであり、もうひとつが倫理です。そこで、この2つの価値基準を分離することで、状況が整理できます。
あなたは、良い研究者という言葉で、どんな人物を連想しますか?
おそらく、あなたは、研究倫理を守り、倫理的に善人である人物を思い浮かべるでしょう。この連想には、間違いはありません。しかし、良い研究者という1つの言葉が、研究倫理を守ることと、倫理的に善人であること、2つの意味を持つことに注意しなければなりません。私たちは、規範と倫理、2つの価値基準を、ひとつの単語で表してしまっているのです。この問題を図示してみましょう。

図解解説用

図をよく見てください。「善人であっても、探究活動や研究活動のルールを守らない」場合があり、また、「悪人であっても、探究活動や研究活動のルールを守る」場合もあるのです。
この2つの領域は、何とよべばよいでしょうか。私たちは、この2つの領域の人々のよび名を持っていません。そして、2つの領域によび名がないことが、2つの価値基準、ルールの遵守と善悪の混同を招いている原因かもしれません。

まとめ

探究活動や研究活動を行うにあたって、きわめて重要な基準を用いるためのルールの基礎について考えました。
ルールと倫理は、まったく別の価値基準でありながら、多くの場合、この2つの価値基準が混同されています。そして、この混同が、意図しないルール違反につながるのです。
実際に、研究倫理に違反した多くの研究者が「悪意はなかった」と言います。専門家として研究を行っている研究者ですら、この2つの価値基準を混同しがちであり、それが、研究倫理の違反の原因となりうるのです。価値基準を混同している限り、誰もが悪意のないルールに違反してしまうのです。
それを避けるためにも、2つの領域にわかりやすい一言のよび名をつけて、あなたのなかで明確な概念を形成しましょう。あなたなら、どんなよび名をつけるでしょうか。

以下の動画で内容について詳しく解説しています。

研究倫理については、以下の拙著で解説しています。



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