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知識とは「ものさし」だ

 学問とは何かをはかるための「ものさし」であり,学習とは「ものさし」の使い方を憶えることです。定規や天秤のように,国語,算数,理科,社会,英語,体育,音楽,家庭科など,さまざまな事物・現象をはかることができる「ものさし」があるのです。そして,たくさんのものさしの使い方を知っていれば,いろいろなことがきるようになります。だからこそ,学習は大事なのです。

理解・説明のためには,はかって,比べる必要がある

 なにかを理解するため,また説明するためには,それを「はかる」必要があります。
 たとえばリンゴで考えてみましょう。リンゴを見たことがない人に,リンゴという果物を説明するためには,
・大きさ
・重さ
・甘さ
・酸っぱさ
・色
・形
などを説明する必要があるでしょう。

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 もしかすると,あなたの説明を聞いて,相手は西洋梨とリンゴを混同してしまうかもしれません。この齟齬は,あなたと相手のはかり方,もしくは比べ方に違いがあるためです。

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 これを学問で考えると,あなたが、未知のはかり方,既知との比べ方を間違えたとき「わからない」状態になるということです。私たちは、なにかを理解・説明するために,常に,はかって比べているのです。では,間違えずにはかるためには,どうすればよいのでしょうか。そこで,はかり方について考えてみましょう。

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たくさんのものをはかって比べる

 たくさんのリンゴがあるとき,「一番大きなリンゴを選んでください」と言われたら,リンゴ同士を比べます。これは直接比べますからもっとも簡単な方法です。一方で,たくさんのものを比べるのは大変ですから,不正確になる場合もあります。また,たくさんのもの,つまり平均値と比べて,それより大きかったり小さかったりする外れ値を選ぶことはできても,細かく比べることはできません。

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基準となるものと比べる

 リンゴを差し出されて,「このリンゴより大きいリンゴを選んでください」と言われたら,差し出されたリンゴと見比べて大きさを比べます。これは基準(差し出されたリンゴ)と比べてはかっています。こちらも直接比べますが,たくさんのものを比べる場合と比べて,基準を決めることで,任意の基準より大きい小さいという選び方ができるようになります。比べるための基準を決めることで,より詳しくはかることができるようになります。

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数値で比べる

 基準はリンゴである必要はありません。基準を数字にすることで,比べるためのリンゴは必要なくなります。数値で比べるもっとも大きな利点は,いつでも,誰でも同じ基準ではかって比べることができる点です。直径や重さの基準を決めれば,はかって,比べることがもっと容易になります。

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 ちなみに実際のリンゴには個体差がありますので,日本では5キロ箱(横360 mm × 縦430 mm × 高さ 約120 mm)にはいる玉数で大きさが示されます。

ものさしとはかり方を統一する

 数値で比べるときにもっとも大事なことは,はかり方を統一することです。あなたはリンゴの大きさの話をしているのに,相手は重さだと思っていたら互いに理解し合うことはできません。また,あなたは果実の大きさの話をしているのに,相手はヘタの長さも含んだ大きさの話をしているかもしれません。だれでも同じようにできるように,ものさしやはかり方が同じでなければ数値で比較できないのです。

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知識とはものさしだ

 誰もが同じものさしを使って,同じようにはかり比べることで,はじめて私たちは理解し合うことができます。しかし,私たちの心のなかにある「判断のものさし」は目で見ることができません。どうやって同じものさしかどうか判断すればよいのでしょう。そう,これが「学ぶ」意味です。

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 定規や天秤のように,国語,算数,理科,社会,英語,体育,音楽,家庭科など,さまざまな事物・現象をはかることができる「ものさし」があるのです。学問とは「ものさし」であり,学習とはものさしの「使い方」を学ぶことなのです。たくさんのものさしの使い方を知っていれば,いろいろなものをはかって比べることができます。つまり,いろいろなことが理解できるようになります。だからこそ,学校でさまざまな教科を学ばなくてはならないのです。

ものさしは,はかってこそ意味がある

 ものさしは,未知のものをはかって比べるために使うものです。たくさんのものさしの使い方を知っているだけでは意味がありません。

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 学業成績が良いというのは,ものさしの使い方が上手いということです。それは大事ではありますが,ものさしを使い方を知っているだけでは新しいものを生み出すことはできません。「はかりたいもの」があるからこそ,「使い方」を知りたいと願うのです。これが学ぶ意義やおもしろさです。つまり,ものさしを使って「未知なる」何かをはかろうとしなくては意味がありません。

それを学んで,あなたは「何をはかりたい」と思っていますか?

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 はかりたいものがあり,そのためにものさしの使い方を学ぶこと,学習における意義やおもしろさを理解することが「好きこそものの上手なれ」につながります。学ぶ意味は,あなたが「新しいなにか」をはかり,創り出すためなのです。学ぶことに疑問を持ったときには思い出してみてください。

この「ものさし」で,どんなおもしろいことがはかれるのだろう?

それがもっとも大事なことです。

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いつもより,少しだけ科学について考えて『白衣=科学』のステレオタイプを変えましょう。科学はあなたの身近にありますよ。 本サイトは,愛媛大学教育学部理科教育専攻の大橋淳史が運営者として,科学教育などについての話題を提供します。博士(理学)/准教授/科学教育