東京の在り方を変えつつある女性の社会進出という地殻変動

あなたは金融機関や事業会社のミドルオフィスで働いているサラリーマン山田です。30代後半既婚男性です。出身は福岡、学業優秀だったので早稲田大学の商学部に進学しました。そこから大手町に本社を構える大手企業に入ったので世間一般では勝ち組でしょう。

あなたは今日もつくばエクスプレスに乗って、柏の葉キャンパス駅から北千住で乗り換えて激込みの千代田線大手町方面行きに乗り、大手町にあるオフィスに出社します。妻とは地方転勤時代に合コンで出会いました。当時妻は地方の企業で事務職をしていましたが、本社への転勤と子供の出産というライフイベントが重なり、パートに切り替えました。

一馬力のため、毎日自分が必死で働く必要があり、出世できないと生活がままならないため、上司に逆らうことも残業を断ることも出来ません。
また一馬力であることをいいことにこれまで2回ほど地方転勤も経験しました。正直会社に身を捧げてきましたが、課長昇格の最短ルートから2年ほど遅れてしまっております。
またネックなのは、自身の実家は福岡、妻の実家は四国にあるため、子育てにおいて実家の協力は得られない点です。そのため、子供が出来たと同時に妻は仕事を辞める必要がありました。
唯一救いだったのは、柏の葉キャンパス駅の戸建てを買っていたこともあり、ローン残高はそこまでない点です。ただ戸建てなので資産性はなく、そこに永住する予定です。
あなたは今日もオフィスに着きました。着いた時点でもうへとへとです。
オフィスに行くと、いつものように鈴木部長と河田課長(女性総合職)、小川さん(男性総合職)、出口さん(女性総合職)、和田さん(女性総合職)がいつものように座っておりました。
鈴木部長はこれまで海外勤務なども経験し、色んな部署を回ってきたエリートです。多分年齢は50代前半です。
河田課長は40代前半の独身女性ですが、そこそこ仕事は出来るので課長にはいち早く昇進していました。
出口さんは年齢は自分の一つ下の既婚女性で子供は2人、産休育休を2回ほど取得してきましたが、本店勤務が長いので実務面では問題ないです。短い勤務時間の中でも成果を残そうという姿勢は見られます。
小川さんは、あなたと同じ既婚男性で昼も一緒に行くこともある程度には心を許せる仲間です。年齢は自分より少し上で、課長昇進には遅れています。
地方の支店を最初に経験し、本店に何とか這い上がってきた努力家です。
和田さんはまだ若い、20代後半の女性です。実務面ではまだまだですが、丁寧に仕事をこなしてくれます。婚約中で結婚間近のようです。

最近地獄のような通告が知らされました。課長昇格が判明する時期だったのですが、今度こそは自分だと意気込んでいました。
しかし蓋を開いてみると結果は全く持って異なったものでした。またも課長昇格は叶いませんでした。やけくそになって小川さんと飲みに行きましたが彼に聞いても同様の結果でした。
1週間たって判明したのですが、今回課長に昇格したのは、なんと出口さんでした。河田課長は部長に昇格しており、鈴木部長は他部署でまた部長をやることになったようです。
その結果を聞いてあなたは茫然としました。これまで会社のために色々犠牲にしてきた自分が昇格出来なくて、なぜ2回も産休育休を取得している出口さんなんだと。。。。。

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前置きはここまで。今回はやや社会科学的な考察を行いたい。
上記は最近の東京のオフィスでよくある光景。
というか筆者が過去にいた部署はこんな感じであった。
さてここで少し考えてみたいのだが、今登場したメンバーで一番金銭的に余裕のある生活を送っているのは誰だろうか?
これまでエリート街道を突っ走ってきた鈴木部長だろうか?
それとも独身で次期部長の河田さんだろうか?現在は独身でゆとりのある和田さん?
答えは全て違う。一概には言えないが多くのケースで一番金銭的にゆとりがあり、都心の立地のよい場所から通勤しているのは、先ほど課長への昇格が決まった出口さんである。
鈴木部長の場合は、これまで多くの転勤を経験しているので、妻は専業主婦、河田さんの場合は独身なので金銭的な余裕はあるが、1馬力なのでそこまでの購買力はない。小川さんはあなたと同様で地方転勤を経験していて、妻は専業主婦、昇格にも遅れているので論外。

なぜ、上記のような現象が生じてしまうのか、今回は最近の東京の在り方を劇的に変えつつある女性の社会進出によって生じた現象に関して考察してみたい。

1.東京の不動産価格の高騰

足元では、不動産の価格高騰が進行中である。特に都心の物件の値上がりの程度がえげつない。よく言われている背景としては、以下のようなものが挙げられる。
・円安を背景に海外の投資家が都心のマンションを爆買いしている
・日銀の金融緩和を背景に金余りが生じている
・株高に伴う資産効果により、日本の富裕層がマンションを買っている
・タワマンの資産性が周知されるようになり、皆がこぞって購入するようになった

これに加えて、やはり要素として大きいのは以前と比較して世帯年収が上昇していることが挙げられる。東京都では、子育て世帯の年収の中央値は1000万程度とのことで、これは全国でも断トツでトップである。
共働きが増加し、世帯年収が増え、購買力が上昇、更にそのような共働き家庭は基本的には時間をお金で買う傾向が高いため、都心のマンションを1億以上のローンを背負ってでも買いに来るようになった。その結果として、実需に支えられ、近年の都心の不動産価格はうなぎのぼりである。

ローンの目安は基本的に5~7倍が標準、マックスでも8倍なので1馬力でこのような都心の高額物件(目安1億円以上)を購入するとなると年収にして1300万程度は必要になる。住宅購入は基本的に30代前半から遅くても後半のことが多いが、その年齢で1馬力で1300万確保できる層は数としては決して多くない。また1馬力なのでリスク管理の観点からそのような高額ローンを組めるだろうか。
ただ、1点だけ補足しておくと1馬力の場合は、基本的に家庭は妻に任せていることが多いため、そこまで職住近接である必要はなく、この場合は埼玉、千葉、神奈川の戸建てに住むことも問題なくなる。例えば、先ほどの物語で出てきたつくばエクスプレスの南流山とか小田急線の登戸のような都心まで一時間以内で行けるようなエリアの戸建ては駅チカでも5000万~6000万程度なので1馬力でも問題なかったりする。ただ自分一人で返済する必要があるため、共働き世帯よりプレッシャーは半端ないだろうし、通勤地獄に耐える必要は出てくる。

2.1馬力世帯と2馬力世帯の金融資産の格差

これは考えてみれば当たりの前の話だが、以下の点で1馬力家庭と2馬力家庭では、経済格差が開きやすい。

・2馬力世帯の方が世帯年収は上
当たり前の話だが、2馬力世帯の方が世帯年収は上になることが殆どだ。
一人が年収1000万を1400万に上昇させるには相当な努力や転職等のリスクテイクが必要になるが、0万を400万を上げるのはそこまで難しくない。ある程度の学歴があれば、基本的に労働市場に参加するだけで稼げる額だ。
またもっと一般的なパワーカップルの像を考えてみると、夫が年収1000万、妻700万のようなケースが東京では一番多いと思われるが、1馬力で1700万を稼ぐのはこれはもうかなり大変である。
ちなみに女性は基本的に上昇婚を望むケースが多く、女性の年収が高いケースではその夫の年収は更に高くなる。このような背景もあり世帯年収の格差は実は倍々ゲームである。

・更に2馬力世帯の方が同じ額面でも1馬力世帯よりも手取りが多い
→これも非常に不公平なのだが、今の累進課税の下では、例えば1馬力で1400万稼ぐ場合と、2馬力で1400万(700万*2)稼ぐ場合では後者の方が手取りが大きくなってしまうという問題点がある。手取りという観点では、1馬力と2馬力で更に格差が開いてしまっている

・より高額な物件ほど、資産性が落ちにくいという皮肉
→1馬力で郊外の戸建てを購入したケースと2馬力で都心のマンションを購入したケースを考えてみたい。これも有名な話ではあるが、実は後者の方が資産性が落ちにくい(落ちにくいどころか足元では価格上昇中である)。戸建てはどうしても資産性の維持が難しい。
こうなると将来の金融資産という観点でも、都内のマンションを購入していた場合と戸建てのケースで大きな格差が生じやすい。更に資産性が無いので、いざ引っ越しが必要となった場合に戸建ては流動性が低く、リセールバリューが高くないのでネックになりやすい。

・投資による金融資産の増大
→足元では、米国、日本ともに株は絶好調である。昨日は、日経平均がバブル期につけた最高値を更新した。しかし株はあくまで債券とは違いリスク資産であることは忘れてはいけない。
このようなリスク資産への投資という観点でも共働き世帯の方が圧倒的に有利である。まず手取りが多いし、更にある程度の資金バッファーがあるので投資に余裕資金を回しやすい。
これが1馬力の場合は、税金でがっぽり取られる上に、自分一人しか稼ぎ手がいないこともあり、資金を投資に回すリスク耐性がない。
長年のインデックス(S&P500、ナスダック、ダウ等)のチャートを見れば分かるが、途中で暴落局面もあるものの、基本的には投資していれば上昇する可能性の方が圧倒的に高い。このような投資に対するリスクテイクの機会の差によって2馬力家庭と1馬力家庭では更に差が開きやすい。

3.新卒男性の就職難と総合職内格差
これも近年顕著になってきた問題である。
新卒の男性と女性の間では、以下のような格差が存在する。

・新卒男性の大手企業への内定難易度上昇
近年のポリコレやアファーマティブアクション(是正措置)の高まりとともに、企業は女性の採用比率や女性の管理職登用比率を開示する必要が出てきた。これに伴い、どのような現象が起きたかという話である。

まず、新卒男性の特に文系が大手企業に内定する難易度は飛躍的に上昇してしまった。基本的に高学歴になるほど、現在の日本では男性の比率が上昇するという構造が存在する。例えば東大の男女比率はずっと8:2のままである。その一方で採用目標では、企業は上記のようなアファーマティブアクションの名のもと躍起になって女性総合職の獲得に動く必要があり、採用比率は難関大学の男女比ほど歪なものにはなっていない。
その結果、外資金融や外資コンサル、更には総合商社、大手金融、どこでも女性の方が内定獲得難易度が低い。
イメージであるが、東大の文系男子と一橋の女子の二人がいたときには後者の方が採用される可能性が高いかもしれない。

またこの傾向は内定以降も続く。
これは筆者の時から顕著であったが、最初から本社配属になったり、都内の支店に配属されるのは女性総合職である。地方に飛ばされるのは、男性総合職である。これには理由があって、女性は首都圏から離れることをかなり嫌がるので、企業側としてもこのような対応を取らざるを得ないのだ。

彼女たちは将来の管理職登用比率や企業のダイバーシティ推進のアピールに貢献してくれる貴重な存在である一方で、男性の総合職の多くははいつでもどこからでも供給可能な実質使い捨ての駒のような存在である。地方に送りこむのは現地での成長を期待している場合もあるが、それより何より「ぶっちゃけ嫌なら辞めてくれてもいいよ」というメッセージも含まれているのだ。
ちなみに女性が都心から離れるのを忌避する背景には、色んな理由があるのだが、一番の大きな理由は、首都圏以外では、彼女たちと釣り合うレベルの男が地方には多くないという本音があるだろう。現に筆者の周りでも初期配属で地方に行った女性は、辞めるか、本社に戻ってきてもその時点では独身のケースが殆どだ。彼女達からしたら若く、婚活市場でも価値のある20代前半という時間を地方で過ごすのはあまりにも非合理的なのだ。
この結果としていわゆる高学歴で確りとしたキャリアを有する女性の殆どは首都圏に集中している。男性よりもハイスぺの首都圏集中は著しいだろう。
これが今回のタイトルを「東京」に限定した所以でもある。

更に就業後も過保護は続き、女性総合職の場合は、激務な部署に配属されるケースも少ない。よく見るのはミドルとかフロントでも最前線ではない部署に配属されるケースである。最前線のフロントとか経営企画に配属されるのは基本的に男性総合職である。まあこれは、元の体力の違いもあるので仕方ないのだが。
また、最初に首都圏配属になるとそこからは基本的に首都圏から離れることは(女性の場合は)殆ど無い。全国転勤ありが総合職の前提ではあるが、実質これが適用されるのは男性、特に1馬力で会社の奴隷にならざるを得ない会社にとっては都合のよい男性総合職である。

4.管理職登用のハードルの問題
これも近年問題になっている話だ。筆者の周りでもしばしば観測される。
そもそもの男性総合職と女性総合職の割合が大きく異なるにも関わらず、先ほども言及したアファーマティブアクションの結果として管理職登用で男性が過度に多くなることを回避する必要があるために、女性の方が圧倒的に管理職になりやすい。
冒頭にもあったように、足元筆者の勤務先ではこれまで地方転勤などの理不尽に耐えてきた男性総合職ではなく、産休育休を複数回取得した女性の方が管理職になりやすい。
後者の場合は、「家庭と仕事を両立したワーママ」として企業は大胆にアピールすることが出来る。当該モデルケースを示すことで新卒での女性採用に有利になるし、何より自社はダイバーシティを推進しているとして、資本市場での評価も高くなる傾向がある。

筆者は別に産休育休を取得することを批判しているわけではない。ここは強く強調しておく。日本の少子化解決につながるので素晴らしいことである。
問題なのは、これまでより多くの労働時間であったり精神負荷を強いられてきた男性を差し置いてアファーマティブアクションの名の下で当該現象が生じてしまうことだ。
ただこの流れが逆回転することは考えにくいので、そのような中でどう振舞えばよいのか男性は真剣に考える必要がある。

5.女女格差の拡大
女性の社会進出が進む前は、ある意味女性間の格差は小さかった。殆どは結婚していたし、専業主婦になっていたので、女性同士で格差が出てくるとすれば、夫の社会的ステータスと年収、更には子供の出来くらいだろうか。
しかし、女性の社会進出が進んだことで圧倒的に大手企業の総合職女性や士業の女性は女間でも勝ち組となった。
以下のような観点で、女性総合職は勝ち組だと思う。

・前述した通り、内定もしやすく、管理職にも登用されやすい
・そもそも難関大学は男女比率が歪なので、学生時代に同じく高学歴の男性と結ばれている可能性が高い(→その反面、難関大学の男性は、大学時代は、恋愛面で苦労するものも多い)
最近の若い世代では、男性側も1馬力の厳しさに気付いているので、「稼げる」女性の恋愛市場での価値が上昇中
・産休育休の制度が整いつつあることでで、仕事と子育ての両立のハードルが下がった。更にこのような福利厚生は企業体力がある大手企業の方が整備されているので、大手に入るほど、働かなくても良いという現象までついてくる。

筆者の周りだけかもしれないが、40代後半の女性総合職は基本独身、40代前半になると共働きもポツポツ現れ、30代になるとむしろ女性総合職は結婚もして子育てもしているケースが多い。20代になると、女性総合職は結婚しているか結婚していなくても、恋愛市場でモテている印象さえある。
40代の方が若い時には、まだまだ社会の価値観が追いついていないこともあり、女性が総合職として働きながら結婚したりするのは難しかったのであろう。男性側の価値観も古かったのかもしれない。
また昔は転職がしにくかったことで、働き方の柔軟性が高くなかったことも
背景にあるはずだ。
現在の20~30代の女性総合職は、家庭、仕事、社会的ステータスの全てを獲得することに成功しているものが多い。
同世代間格差もあるが、実は世代間格差も存在するのだ。

6.婚活男性に要求される要素の増加
ここは、次回の記事で深堀したいが、女性の社会進出とともに、男性に要求される要素が増加してしまい、これまでと比較すると結婚のハードルがかなり上がってしまった。
従前では、男性は「稼ぎさえ良ければ」、それが全ての問題を解決してくれた。別に年を食っていても結婚できたし、容姿が良くなくとも結婚して家庭を持つことも出来た。
それが現代では、そうも行かなくなってしまった。女性が経済力を有したことで年増や容姿が悪いと結婚相手として選べれにくくなってしまった。
更には家事・育児などの仕事以外のスキルまで要求されるようになってしまった。
また女性の社会進出に伴い、首都圏への女性の流入が止まらないので、地方にいると結婚相手の候補すらいないという現象まで生じてしまった。
このように男性には複合的な能力が要求されるようになってしまい、結婚のハードルが上がってしまった。これが現在日本の婚姻数減少、少子化に結び付いていることは想像に難くない。

字数が非常に多くなってしまったが、これが現在の東京というか首都圏で生じている現象であり、男性の人生は従前と比較してハードモードに突入してしまった。
不平不満を言っても何も変わらないので、むしろ現状を受け入れた上で対策を考える必要がある。
次回の記事では、このような時代に男性はどのように生きればいいかを深堀してみたいと思う。