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ミライの小石25.周囲を巻き込みながら関係を再生する「リジェネラティブ型転生」

こんにちは、橘田です。もし人生に「リセットボタン」があったら、あなたは押してみたいと思いますか?私は押したくない派です。「あの時ああしておけば」を挙げればキリがありませんが、それも人生の醍醐味として、味わっていけば良いと思っています。しかし、平成を少年期として過ごしていた当時の私は、テレビゲームで小さい失敗があれば、すぐにリセットボタンを押して、完璧プレイを目指していた記憶があります。

また、SNSが発展した令和時代には「転生」という言葉があります。SNSでのアカウントを作り直し、友人関係を一からやり直すことです。リセットボタンもSNSの転生もそうですが、デジタルな世界ではそれが容易です。デジタルツールでは、やり直しボタンのUndoは当たり前ですし、平成でも令和でも、「やり直したい」気持ちは形を変えて脈々とあるように思います。


「やり直し」にまつわる変化の兆し

さて、その「やり直したい」気持ちが未来ではどうなり得るか?変化を示唆する兆しを4つご紹介します。

まず、1つ目の兆しは「自分と向き合う問いに出会える街/旅」(※1)です。

島根県海士町のホテルが、自己理解をテーマにした宿泊プランを販売しています。「じぶんに向き合うための問い」が書かれたノートを片手に、海士町の各所でそれらの問いについて考え、夜は焚き火を囲んでこの旅で感じたことを共有するとのことです。マインドフルネスやウェルビーイングは既にトレンドとなっていますが、自己内省がやりやすい地域や場所はまだあまり注目されていないように思います。地域の特性を生かした「自己内省の方法」が編み出される未来も近いのかもしれません。


2つ目は、「遠隔重機の新しい使い方~想い出の解体工事」(※2)です。

このイベントは「元恋人」や「昔の夢」など、過去への未練を断ち切れない人が、新たな一歩を踏み出すために重機で遠隔操作して「想い出の品」を解体するイベントです。遠隔重機を提案する企業のPR的な取り組みですが、あながち見過ごせない価値を提示していると思います。想い出の品に別れを告げるには、それなりの儀式が必要で、解体後に「心の建設予定地が生まれる」という触れ込みで、心理的世界と現実世界のシンクロが絶妙です。心の作用を現実投射してハードルを乗り越えるサービスが未来には増えるかもしれません。


3つ目は「自分の葬式で、気持ちを切り替えよう」(※3)です。

大きな失恋や失敗など、ショックから立ち直るための儀式として、若者が自分の葬式を行うという中国での兆しです。日本でも生前葬というものがあり、お世話になった人に感謝を伝えたり、人間関係に区切りをつけたりするために行われます。私は生前葬というのは、高齢者が行うものと思っていましたが、若者がメンタルヘルスとして行うのは斬新だと感じました。生前葬で人生をやり直す風潮が広まれば、もっと失敗から立ち直りやすい社会になるのかもしれません。


4つ目は「ギフトが必要なのは悲しい時」(※4)です。

この兆しは米国の記事ですが、結婚式ではなく離婚の際にギフトを贈ろうというアイデアです。結婚式にご祝儀の習慣がない欧米では、新郎新婦へのお祝いとしてギフトを贈ることがほとんどだそうです。しかし、本当にギフトが必要なのは、一人になってしまった時や、悲しくて支えてほしい時だ、という提案をしています。悲しい時に支え合うギフトは、離別や死別がますます増えていく未来において、重要になるかもしれません。



儀式を行うことで周囲を巻き込みながら関係性を再構成する

紹介した4つの兆しの共通点は、新しい出発をする際に現実と連動した儀式を周囲も巻き込みながら実践しているところです。
デジタルで完結するリセットボタンや転生スイッチは過去を切り離し、自分自身だけで完結して新しい出発をしますが、現実の儀式を行って再出発する場合は、物理的な物や行為を伴うため、周囲も巻き込みながらこれまでの関係性が変わることが知覚されていきます。そうすることで、過去とのつながりを再構成して出発します。歩んできた過去をなかったことにしてやり直すのではなく、現実の連続性の中でこれまでを受け止めて新しい出発をしているように思います。
このような兆しが社会的に普及した未来では、何かを失敗したとか、葬式や離婚が悲しいことだ、といったマイナスのイメージはもうなくなっているかもしれません。そして、別れや再出発の時にはギフトで周囲が応援するのです。


キャリアや家族関係が多様化する未来では関係性を再生する転生が当たり前に

今後キャリアや家族関係が多様化していく未来においては、これまでの関係性を切り離したりリセットしたりするのではなく、再構成によってポジティブな関係に再生していくことが重要になりそうです。
現在、サステナブルの次の概念として再生や生成という意味を含んだリジェネラティブという概念が登場しつつありますが、この兆し達もリジェネラティブの具体例とも言えるでしょう。この概念が普及した未来社会では、再出発を応援する儀式やサービスが1つの産業になっているかもしれません。
未来の人々は、失敗や別れから立ち直り、新たなステージに向かうため、これらのサービスを使いながら互いの関係性を組み換えていることでしょう。
このような未来から今を振り返ってみてみると、入社式や結婚式など入口の儀式は多いですが、別れや離別の儀式は、卒業式の後には葬式しかない・・・という状況ではないでしょうか。退社式や離婚式といった、出口側の儀式がもっとあってもいいですよね。
私たちはお互いにさまざまな再出発を支え合うことで、複雑な社会を生き抜いていけるのではないでしょうか。



参考

※1
Entô | 島で “じぶん” を知る旅「セルフウェルビーイング」プラン販売開始|PR TIMES https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000014.000071239.html 2024年4月26日閲覧

※2 マイラボ渋谷第6弾イベント「想い出の解体工事現場」が2月8日スタート!|マイネ王 https://king.mineo.jp/staff_blogs/2450?fbclid=IwAR3aaGjPBeg43oXZ4cN7eXNHHF89cB_1DzsYYuxxDQndwomVGQuf7vg3dJE 2024年4月26日閲覧

※3 恋人との破局を乗り越えるため、自身の葬式で蘇りをはかった女性|TABI LABO https://tabi-labo.com/308178/funeral-to-get-over-break-up 2024年4月26日閲覧

※4 離婚した友人にはギフトを 本当にギフトに支えられたのは「結婚のときより離婚のときだった」|クーリエ・ジャポン https://courrier.jp/news/archives/352540/?fbclid=IwAR2dZrLy5mqcbhHM9y_C6mOXFNuMpQIeGfMlih_zsA_XRGcvqhm5dB8l14k 2024年4月26日閲覧


この記事を書いた人
橘田
ゆとりと遊びに溢れた自然が好きです。隙間や端っこを見つけて、そこで落ち着く傾向があります。関心…子育て/世代間ギャップ/VR/サブカルチャー/美味しいもの/キャンプ/虫取り

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