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先人に学ぶ~大阪港150年史から~

徳平 隆之
論説委員
阪神国際港湾株式会社

明治元年(1868)に開港した大阪港は、平成29年(2017)に開港150年を迎えました。明治維新後の日本における一大土木事業であった大阪築港事業は、オランダ人技師のデ・レーケ、内務省土木局長や大阪府知事を歴任した初代大阪築港事務所長の西村捨三、さらには日本の治水港湾工事の始祖と言われる内務省技師の沖野忠雄など内外の英知を集めて計画・施工されました。明治30年(1897)に起工し、資金難や技術面など幾多の困難を克服し、30有余年をかけて昭和4年(1929)に完成をみました。当時整備された港湾施設は、形や機能を変えつつ、完成後90年を超えた今日でも、大阪港を支える重要なインフラとして存在しています。戦後は、戦災による壊滅的な打撃からの復興や、地盤沈下による高潮被害を克服するため、いち早く、河川拡幅による内港化への転換としゅんせつ土砂による背後地のかさ上げを一体的に行う大阪港復興計画を策定・実施しました。また、高度経済成長期の昭和30年代には、臨海工業用地として南港埋め立て事業を開始し、資金調達にあたっては、わが国初の地方自治体によるマルク債の発行を行うなどの工夫を行いました。昭和40年代にはコンテナ化に対応して、工業港から商港への転換を図るとともに、住宅不足や公害対策など都市問題解決の場としても機能してきました。現在では、在来地区と咲洲(南港)に加え、舞洲、埋め立て中の夢洲を合わせ、大阪港は、大阪・関西の産業・経済の発展及び市民生活の安定を支えています。

これまでも大阪港の歴史・事業については、「大阪港史」や「大阪港工事誌」などにまとめられ、直近では、平成9年~11年(1997~1999)に大阪築港事業着手100年を記念して「大阪築港100年-海からのまちづくり-」が刊行されました。しかしすでにその後約20年経過しており、このたび大阪港開港150年を記念して、「大阪港150年史」が編纂されました。第一部は開港後150年の変遷を通観する「通史」で、第二部がおよそ平成の30年間における大阪港の整備・運営の変遷を系統的にまとめた各論編であり、「大阪築港100年」の続編と位置づけられるものです。知識・技術の継承や将来を展望する際の参考となるよう、約30年間の資料・情報を整理し、それぞれの時代・場面で、どこに活路を見出したのか、整備・運営にかかる動機や時代背景、経緯なども可能な限り詳述されています。

また、本稿のまとめの過程で、明治の技術官僚で、鉄道・電信・造船などの事業を統括する工部省の創設、政策展開に大きく貢献した山尾庸三の存在を再認識しました。「政」と「官」との鋭い対立の中でも、職を賭して政策の実現に一生懸命に取り組む姿は、現代にも通じて、インハウスエンジニアとしての技術系公務員の在り方を考える際に重要な示唆を与えてくれるものと感じました。

近年は、あらゆる分野でのAI・IOTの活用促進にとどまらず、世界が一気に脱酸素社会の実現に走りだしました。わが国でも昨年の2050年カーボンニュートラル化宣言に基づき、あらゆる行政分野で、ゼロエミッションを達成する新燃料として水素戦略の策定が加速しています。港湾においても、カーボン・ニュートラル・ポートの取組みが求められていますが、未知なことも多く、チャレンジングな課題となっています。

時代背景や経済社会・科学技術の発達度合の違いなどを超えて、課題・問題を冷静に分析し、柔軟な発想と熱い情熱と果敢な行動力により難局を突破するなど、土木技術の継承には先人から学ぶことが多くあります。筆者が一部関わった「大阪港150年史」において、直近30年間だけでも、臨機応変な計画変更、既存制度の拡大や新たな技術の開発・積極採用、防災・減災への新たな取り組みなどがありました。

各組織・企業体、各事業分野において、それぞれの歴史・業績を振り返り、先人の英知と不断の努力や生き様を学び、再認識することが、次代を担う土木技術者のモチベーションの向上や成長の糧になるものと確信します。

土木学会 第168回 論説・オピニオン(2021年5月版)

事務局追加情報)
 土木学会論文集 1991 年 1991 巻 425 号 p. 203-211
 近代大阪築港計画の成立過程 ブラントンからデレーケまで
 松浦 茂樹 https://doi.org/10.2208/jscej.1991.203
タイトル画像出典)
 大阪市オープンデータポータルサイト

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国内有数の工学系団体である土木学会は、「土木工学の進歩および土木事業の発達ならびに土木技術者の資質向上を図り、もって学術文化の進展と社会の発展に寄与する」ことを目指し、さまざまな活動を展開しています。 http://www.jsce.or.jp/