郝景芳「1984年に生まれて」(2020年中央公論社/原著2016年):中国の急成長期の人々を知る手掛かりとして読んでみました。

先日は日中国交正常化から50周年を迎えたという記事が各紙に並んだ。当時の首相だった田中角栄が自ら中国に渡って交渉するなんてドキュメンタリー番組も眺めた。

私にとってはかつてどこかで何度か見たことのあるシーンばかり。まさにその時を覚えています。…と言いたいところだが、当時まだ小学生の低学年だった私がまさにその時に視た報道を今も覚えているなんて可能性はかなり低い。きっともう少し後になって視る機会があって、それを覚えているだけのことだろう。

それでも、そのあと残留孤児のプロフィールを一人ひとりNHKが放送し続けたこと。それを両親がただぼんやりと眺め続けていたことははっきり覚えている。

ああ、あのときから半世紀という歳月が流れたのだ。

平成バブル期に来日したニューカマーと言われた外国人のことや出入国管理施策に関するテーマに関心を持ったときのことだが、「もし外国人の入国を制限しなかったら、あの貧しい中国から何億人もの労働者が押し寄せるにちがいない」。

入国規制の強化を支持する人々だけでなく、弾力化や規制緩和を求めていた私側の立場の人々にも、その「圧力」の存在はそのころ圧倒的な力として、どちらの側にも共有されていた。…今は昔のことになってしまったのだが。

今、中国出身の方々と仕事でも生活でも触れ合いながら毎日を暮らしている。30年前に来日した同世代の人から、新型コロナ流行の入国規制が解かれてようやく来日した子どもたちまで、そのあり様はとても短い文では表現できない多様性を持っている。

なぜ、中国がこれほど発展した今も、日本に住み続け、新たに来日しようとする人々がいるのだろうか? 出会う人たち一人ひとりに別々の理由があるとは思うが、より良く理解できたらと思っている。それには、変化する中国社会の文脈を知らなければならないだろう。

どうやら郝景芳はSFが本職の著作家らしいが、本書では中国社会が急変を遂げる30年-----長い時間とはいえ、そこから5~7年はもう時間は進んでしまってもいる---が著者の個人的な経験もエッセンスになっているという小説という形で語られている。

私ごときにこの作品を批評するだけの力があるわけではないが、そこで暮らす個々人からみるとき変化はどう映るのか。中国社会で暮らす個々の人々に与えられた文脈。この一作だけでは、特定の地域出身のしかもちょっと高学歴な層の方々の目線があるだけだといえばそのとおりだ。それでも、それぞれが歩もうとしてしている道筋のようなものの一つとして、これから迫られるであろう推し量るための手がかりとして、私の頭の中に入れて置くことがとても役に立ちそうに思われた。

★書籍データ
郝景芳「1984年に生まれて」(櫻庭ゆみ子訳/中央公論社/2020年,2000円)
郝景芳,2016,「生于一九八四」
Hao Jingfang, 2016, “BORN IN 1984”,

#読書の秋2022

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