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世界観なきスケールはない カウンターカルチャーが原動力になるまで

NewsPicksでインフォグラフィック・エディターをされている櫻田潤さんのVoicy『「デザイン逃避行」ラジオ』。櫻田サロン公式noteではテキスト版としてお届けします。今回は第五回『カウンターカルチャーで、世界を塗り替える。』です。

共通化と独自性

こんばんは「デザイン逃避行ラジオ」の時間です。

収録に間が空いちゃったんですが、犯人は明確で、サッカー・ワールドカップの仕業です。4年前の大会はほとんど見なかったんですけど、ロシア大会はできるだけ見ていました。ユニフォームの背番号とか選手名に使われているフォントを見てインスパイアされたりしましたね。


アディダスのチームはどこもフォントが一緒だったんですけど、ナイキは何チームか共通で使われてるようなフォントが1つありつつ、イングランドやブラジルなど一部のチームでは独自の書体を使っていて「あ、面白いな」と思いました。

共通のものと、独自のものというこのバランスは今後も考えていきたいテーマだったので、今日は標準化・共通化みたいなことと独自性・世界観みたいなところの話をしていこうかなと思います。

革命的だった「ビジネスモデル図解」


ここからは図解やインフォグラフィックに置き換えて話をしていきます。どういう話かというと「どうしたらスケールするのか」で、それを突き詰めると、標準化と独自性の話に行き着きます。

スケールするためにはどうしてもアウトプットの量が必要になってきます。情報を集めて構造化・抽象化し、その間を行ったり来たりして、さらにグラフィックを加えるというプロセスはそれなりの工程があるので、たくさんの量を作るのがなかなか難しい世界です。

僕の従来の考え方は、さっきのナイキのユニフォームと同じで、量産できるような標準ラインと、独自性を示す、あるいはブランドを際立たせる一点物ラインの2ラインをそれぞれ独立したラインとして走らせる。それから、その掛け算や量でスケールするところと、独自性によって象徴となるものを作ってエンゲージを狙うところを分ける。つまり、スケールとエンゲージとでポートフォリオを組むような考え方だったんですね。この標準化と独自性の両立というのをうまくしている事例がこの頃あるなと思っています。

そのひとつがチャーリーさんのやってる「ビジネスモデル図解」かな、と。

標準化と独自性が両立している例を世の中に目を向けると、飲食とかSPAブランドに近いものがあるな、と。チェーン展開してるようなものですね。同じ見え方のものをたくさん作れるようにして、量を増やしてスケールもしながらブランドとしての認知もあるとエンゲージも高くなる。これはスケールさせるスピードが速いからかなと思っています。特にSPAのブランドはそうですよね。鮮度の高いものをどんどん、ぐるぐると回していけるようになっています。

この良いチェーン店というのは、標準化されながらもスピードが速いおかげでブランドとしても認知されていく。このやり方はチャーリーさんの「ビジネスモデル図解」に近いものを感じるんですね。ブランドとしても立っているし、標準化もされていてすごく素晴らしい事例だと思っています。

チェーンというと安っぽく聞こえるかもしれないんですけど、それよりはOSとかプラットフォーム作ってるのにも近いですよね。クラウドサービス、みたいな言い方がより正確な表現かもしれないです。

「ビジネスモデル図解」は、デザインのプロセスが標準化されています。そこができない人が圧倒的に多いと思うので、そこをなくして誰でも参加できるようにした。それから、前のフェーズであるリサーチや編集に集中できるようにしたというところが大事だったなと感じています。昔、僕はシステムエンジニアをしていたんですけれども、フローチャートとかそういうシステムの構造を標準化するような図には決まりごとがありました。そういったものをより閉じた世界ではなく、一般化してビジネスの世界に持ってきた。みんなが使えるようにしたということが革命的だと思っています。

標準化というと、クリエイティブの観点ではネガティブなイメージもあるんですけれども、切り口や広げ方によって独自性を作ることもできるし、ブランドにもなり得ます。標準化と独自性は両立できるというところに驚きを感じました。

さっき言ったような飲食店やSPAブランドを見ていると、そういう事例がたくさんあるんですけど、図解ではそれがなかったなと思っていました。それだけにチャーリーさんの「ビジネスモデル図解」はすごく新鮮でした。やっぱり「ビジネスモデル」と「図解」という二重の縛りによってシンプルなままツール化できたというのも強かったかなというふうに思います。 

全然違う話でいうと「Slidebean(スライドビーン)」というサービスがあります。これはプレゼンのテンプレートを使えるようになっているサービスで、資金調達とかサービスの説明に特化したプレゼン資料が作れます。これもなんかありますよね。絞っている、という。

絞ることで標準化ができて、さらにフォーカスしてるということによってブランドも立っている。こういうスケールのさせ方は現代的でいいですよね。一度そういう絞ったところでブランドを立てておけば、そこから対象を広げることはもういくらでもできる。これはFacebookが大学生に絞っていたところからターゲットを広げて、それから色々な機能をつけていったのと似てると思いました。

「世界観なきスケールはない」

大事なことを言い忘れていました。「ビジネスモデル図解」でいえば、コミュニティ化しているというのもポイントですよね。これはチェーン店とかOSとはまたちょっと違う点ですね。こうやって見ていると、スケールするためのアプローチは色々とあるなと気づきます。その上で話を戻すと、なぜスケールに関心があるのかというと、お金を稼ぐとかそういうことじゃなくて、スケールしないと社会に影響を及ぼせないからです。

インディーズでいいという気持ちはすごくあるんですけども、それでもメジャーデビューして世界中で聴かれるようになるのはすごいと思う。たとえば、ビートルズとかアンディ・ウォーホルとかスター・ウォーズ。スタンスを保ちながらヒットしているものの存在と、それが社会に与える影響はすごく意味を感じるんですよね。

宮崎駿さんとか村上春樹さんのように個が中心のやり方もあるし、ピクサーみたいな集団のやり方もある。いずれにせよ、スケールしているものに共通するのは中心、もしくはルーツに濃いキャラクターがあったり、ビジョンやストーリーがあってそれをベースに広げているところ。世界観なきスケールというのはないんじゃないかというふうに思います。

世界観をひとことで言うと「らしさ」で、その人の手元を離れてもその「らしさ」が残るものがスケールしていくように思います。「ビジネスモデル図解」っていうのはもうチャーリーさんが作らなくても「ビジネスモデル図解」であり、チャーリーさんらしさがそこに残っているということ。ビートルズであればバンドがなくなっても、曲が残っていて、それが聴かれ続ければビートルズらしさが真空パックされた状態でずっと残っていくようになっています。


アートはだいたいこのパターンで、ゴッホだろうとピカソだろうと、作品に「らしさ」が真空パックされていてずっと残っていくようなものですよね。

スター・ウォーズはちょっと特殊で、ジョージ・ルーカスらしさだったものがディズニーらしさに移行して、違う世界観に引き渡そうとしてるというのがちょっと面白いですよね。

世界観というのは別のものを飲み込むくらいのパワーがあるんだと感じますね。それでいて、全ての源泉になるもので、クリエイティビティを最も使わなければいけないところ。クリエイティビティは何かを仕組み化したり、1→10にするところに必要なんですけど、やっぱりその手前の世界観・らしさを生み出すところで最も使われなきゃいけないものなんじゃないのかなと、あらためて思いました。

カウンターカルチャーが原動力になる

最後に世界観っていうのはどうしたら生まれるのかという話をして終わろうと思います。

一つは、ガムシャラに手を動かすうちに出来上がってくるなと思うのがありつつ、根本的には元になる人の思想とか哲学に行き着くと思っています。それはカウンターカルチャーが原動力になるんじゃないのかなと仮説を立てています。自分が欲しいものが世の中にない、こういうものが欲しいというものをイメージして、具象化できるまで動き続ける。こういうことなんだろうなと思っています。

あと、チャーリーさんがどう考えているのかはわからないので、今度対談トークがあるので、その辺聞けたら聞きたいと思っています。

(後日行なわれたイベントの様子は↓こちらからどうぞ)


僕はそうですね…、完全にカウンターカルチャーの気持ちでやっていて、世の中にある図とか図解本が自分では読み解けなかったり理解できなかった。地図が読めなかったり、標識もよく理解できなかったりすることも多くて。そんなふうに自分で作らざるを得ないことがあったので、そういうのが原動力になっている。コンプレックスとかも含めて、原動力にしていますね。

そういう様々な少数派の人たちが色々なものを作り、カウンターカルチャーによって既存のものが塗り変わってくるというのがなんか面白いことかなというふうに思います。

このVoicyを聴いているみなさんも、自分が欲しいのに世の中に存在しないもの、世の中にあるけど「これおかしいんじゃない?」というものを考えて、それに対するカウンターカルチャー精神で挑んだらいいんじゃないのかなと思っています。

ラジオみたいに曲が流せるならここで一曲流したいですね。カウンターカルチャーに関する曲だと 、The Ordinary Boys(オーディナリー・ボーイズ)というちょっと古いバンドの『Over the Counter Culture(オーヴァー・ザ・カウンター・カルチャー)』という曲がとても良いので聴いてみてください。同タイトルのアルバムもあって、それもオススメです。

それではこの辺で久々の「デザイン逃避行」ラジオおしまいです。

おやすみなさい。




※この記事はVoicy『櫻田潤の「デザイン逃避行」ラジオ』の『カウンターカルチャーで、世界を塗り替える。』の内容を書き起こし、加筆・修正を加えて編集したものです。

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櫻田潤の「デザイン逃避行」ラジオ
(第七回まで配信中 ※2018年8月28日現在。随時更新)

#デザイン逃避行 のハッシュタグで感想など、お待ちしています。


櫻田潤の「図解・インフォグラフィック」サロン
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お問い合わせ:junsakurada.salon@gmail.com

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テキスト:松澤 優子
編集:石川 遼
写真:池田 実加

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