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圧縮され、鋭さのある情報こそが誰かに刺さる

NewsPicksでインフォグラフィック・エディターをされている櫻田潤さんが、2018年5月からボイスメディアVoicyで『櫻田潤の「デザイン逃避行」ラジオ』をスタートしました。櫻田サロン公式noteではテキスト版としてお届けします。


デザインからの逃避行


どうも、櫻田です。「デザイン逃避行」ラジオ、今日からスタートです。

僕はインフォグラフィック・エディターという職種で働いて、グラフィックを使って情報をわかりやすくしたり、興味を持ってもらえるような形に表現するということをやっています。

言ってみればグラフィックがメインの武器になるんですけど、それが使えない、音の世界や声の世界で何ができるんだというところはあります。武士が刀を使えない。だけど、まあ茶道で頑張る、みたいな感じでしょうか。

音声のインターフェースがこれからすごく普及していくにあたって、インフォグラフィックの見せ方、伝え方、在り方、流通の仕方とか色々と変わってくるなというのは感じています。そういったものも自分が喋ってみてやっているうちに見えてくるかなと思います。

「デザイン逃避行」ラジオという名前にしたのは、僕はずっとデザインというものを避けていることもあって、デザイナーに向いてないなとずっと思っているんです。その一方で、ちゃんとデザインと向き合わないといけないな、デザインの価値を伝えていかないといけないなっていう揺れ動く気持ちがあるからです。そういったものが文章だとなかなか伝わらないんですけど、喋りを通してなら世に届けられ、ニュアンスが上手く伝えられるような気がしています。

デザインというものを広い意味で捉えて、語っていきたいなと思います。


櫻田潤の偏愛 小説・作家編


初回は早速なんですけど、デザイン以外の話から始めちゃおうと思います。「デザイン逃避行」ラジオなので。

Voicyを始めるにあたって、3月からやっているオンラインサロンのメンバーにどんなことを話してほしいか聞きました。その中にあった質問に答えながら進めていきたいと思います。

最初の質問です。インフォグラフィックをやっている僕の「インフォグラフィック以外の偏愛について聞きたい」というのをいただいています。自分の世界を広げたものについて語ってほしいということですね。それから、似た質問で「好きな小説とか作家とか、僕(櫻田さん)を形作ってきた物語はなんだろうというふうに思いました」というのもあったので、あわせて答えたいと思います。

偏愛するものは小説とか音楽とか映画とかたくさんあるんですけど、今日は小説・作家編として、その一部をお話します。


最初に挙げるのは太宰治ですね。みなさんの中でも、影響を受けてる人は多いと思います。太宰は、一般的には暗いなんて言われますけど文章自体は明るいんですよね。何回も読み直していた中で今、特に思うのは書き出しがすごいんですよね。

最初に『晩年』という作品集を出してしまうところが彼らしいんですけど、その中に『逆行』という作品があって、その書き出しが特に好きです。どういうものかというと、

老人ではなかった。二十五歳を越しただけであった。けれどもやはり老人であった。

と、こう始まるんですね。「老人ではなかった。けれどもやはり老人であった。」この書き出しは素直にかっこいいなと思っています。こういう書き出しに、相応するものをグラフィックでもやってみたいなと思います。

太宰は本当、書き出しなんですよ。『走れメロス』でも、

メロスは激怒した。必ず、かの 邪智暴虐 ( じゃちぼうぎゃく ) の王を除かなければならぬと決意した。

人間失格』では、

私は、その男の写真を三葉、見たことがある。

本当に、この一行目の強さってのは、今のソーシャル時代でもめちゃくちゃ通用するでしょうね。このヘッドラインの強さみたいなところは。やっぱりすごい人だな、と今でも思います。

太宰、芥川が持つヘッドラインの力

それから太宰治が好きだった芥川龍之介にもかなり影響を受けています。僕、一時期は写経をしていました。原稿用紙に夜な夜な文章を写していたんですよね。その時に感じたのは、やっぱり文章に無駄がない。ああいう文章を書く人は本当にすごいですね。

こんなエピソードがあります。当時文芸誌とか解説本とかも読み漁っていて、そこに出ていたんですけど、芥川龍之介って長編が書けなかったらしいんですよね。その理由が、推敲していく過程でどんどん無駄を削っていっちゃって、文章を削って、それが結局短編になっちゃうと。その話を読んで面白いなと思いました。

贅肉だらけの文章とかグラフィックはありますけど、そういうものとは真逆で、ストイックにミニマムな状態で、情報を圧縮し尽くして届ける。気持ち的に、そういうものしか書けなかった人なんです。

そこの一行一行、一文字一文字への魂の乗っかり方が他の作家とは全然違うなというふうに思います。ヒリヒリした文章。特に『歯車』という小説がおすすめなので、みなさんにも読んでみてほしいなと思います。

この二人に共通するのは、文章一つひとつのヘッドライン力みたいなところですね。詩になっているというか。インフォグラフィックも見出しというか、途中のコピーの入れ方とか、リズム、ストーリー、ラインの持っていき方がすごく大事なんですけど、そういうところがこの二人の小説はすごくいい。二人がやってきたマインドや込めている思い、彼らから滲み出るところは今なお影響を受けてますね。

他にも色々な小説とかに影響を受けているのでもっと話したいんですけど、今日はこのあたりにしておきます。

16歳の自分へ


次の質問にいきましょう。「今、16歳だったら何を勉強したいですか? 勉強したいものに対して何から始めますか?」。これは今と変わらず、16歳になったとしてもいい本を読んで、たくさん映画を見て、たくさん音楽を聞いている思います。

結局、学問的に学ぶことも大事ではあるんですけど、それよりは一旦抽象化されたアート的なものから感じるということですよね。それはあまり知識がない時のほうができる気はして、理論武装して全てを理屈で考えるようになっちゃってからだとなかなか身につかないものかな、という気がしています。

感受性みたいなところに共鳴し合って、得られるものが一番多い時期はやっぱり10代かなと思うので、とにかくいい本を読んで、良い映画を見て、良い音楽を聞く。

歳を取るとだんだんと知識で考えてしまうんですよね。どこがいいんだろうとかややこしくなってくるので、もうちょっと直感を信じられる時にやっておくといいんだなと思いました。

おわりに

喋りは難しいですね。考え込んでいるとすぐにだらっとしてしまうし、間が悪くなってしまいますね。喋りを仕事にしている人って本当にすごいなと思いました。頭の回転の速さというところ。スライドとか使えれば、まだパッと見せながらそこそこ間を受けたりできるんですけど、一回目をやってみて、そういうのがない声だけの世界の難しさを感じました。

今日は偏愛するものをメインのところに持ってきて話したんですけど、そこで伝えたかったことは、とにかく情報を無駄にだらっとするのではなく、凝縮、圧縮してそこに鋭さを設けるということです。それが相手に刺さるものなるんじゃないかと思います。

今こう喋ってて、それがブーメランで返ってきちゃいますけどね。だらっと喋っちゃっているので。でもそのあたりを磨く意識を持つと、皆さんにとってもいいですし、僕にとってもいいですね。


感想とかツイッターでつぶやいてもらったり、今後聞きたいこととかもツイートしていただけたら答えていきたいと思います。ありがとうございました。

おやすみなさい。


※この記事はVoicy『櫻田潤の「デザイン逃避行」ラジオ』の『デザイン逃避行、初日。』の内容を書き起こし、加筆・修正を加えて編集したものです。

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櫻田潤の「デザイン逃避行」ラジオこちらから。(第4回まで配信中 ※2018年7月19日現在。随時更新)

#デザイン逃避行
のハッシュタグで感想など、お待ちしています。


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※現在、サロンは満員状態ですが、月末に空きが出ることがあります。また、少数ですが月初のタイミングで追加募集をする可能性もあります。
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テキスト:小木曽一馬
編集:石川遼
写真:池田実加


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