〈上越タイムス創刊30年 地域を守る〉産業編(4)農業 6次産業を具現化 若手入り活性に一助 柿崎・中山間地

 農業は従事者の高齢化が著しく、担い手不足が叫ばれて久しい。機械化や農地集積などによる大規模農業が進む中、中山間地域や平野部の農地を守り、耕作放棄地を生かそうと、各法人、団体、個人農家は知恵を絞り、汗を流している。

 「柿崎名水農醸」と名付けられたプロジェクトがある。名水は、山あいの柿崎区東横山で湧き出ている大出口泉水(平成の名水百選)のことを指す。農醸は、農業と醸造を組み合わせたもの。東横山の棚田で名水を利用して酒米を作り、それを原料に日本酒を仕込んでいる。

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〈写真=柿崎名水農醸プロジェクトでの酒米の田植え。手作業はイベント化されており、昨年は約60人が参加した〉

 プロジェクトは始まって8年。柿崎区の若手農業者8人がメンバーの「柿崎を食べる会」と、同区の頸城酒造が共同で取り組む。中山間地の振興を目的に掲げる。

 東横山は過疎・高齢化で農家が減少し、耕作できない棚田が増加傾向にある。

 プロジェクトでの酒米は昨年、引き受けた棚田26枚(約1・3ヘクタール)で作った。「越淡麗」で仕込んだ日本酒は当初から、「和希水」の銘柄で販売。県内外の小売店や飲食店に扱ってもらっている。売り上げの一部は棚田保全に充てる仕組みになっている。

 頸城酒造の八木崇博社長(43)は「中山間地の振興に役立っているとは言い切れないが、僕らが地域に入ることで希望を持ってもらえるように」と話す。

 和希水は今年、720ミリリットル換算で約4000本を販売予定。「山田錦」仕込みの別銘柄も販売する。

 柿崎を食べる会のメンバーは酒米収穫後も東横山に入っている。手掛けるのは干し柿作り。もいできた柿の皮をむき、ひもに通し、作業小屋に干す。

 新たな特産品にしたいと、東横山の住民から作り方を教わって取り組んで7年。商品として販売できる量がまだ多くないとはいえ、予約の受付開始日に完売するまでになった。

 食べる会は東横山で「長ニンジン」の栽培も手掛けている。折らずに掘り出すのが大変なため地元で作られなくなっていたが、4年前から柿崎区の飲食店主たちと一緒に栽培。収穫後、特色を生かしたメニューが店で出されている。

 「そんなに深くは考えず、楽しみながらやっている」。長井慎也会長(40)の言葉には自然体がにじむ。つづく

※この記事は2020年4月4日付上越タイムスに掲載されたものです。文中の年齢などは当時のままです。ご了承ください。

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