初夏の風

”買い物は投票だ”
と誰かがお金を渋る必要がない、良いものに使うことはむしろ美しいのだ、という号令を出してから私の財布の紐は緩くなった。
特に職人の手作り作品にはめっぽう弱い。

「このフライパン、僕がトンカンして作ったんです。一生物を届けたくて。」
「このマグカップ、私の中で結構出来が良くて気に入っているんです。この微妙に入っている模様も縄文土器を意識して入れてみたんです。」
「この塩壺はスプーンと本体で木の種類が違うんです。使いやすいようにと思って。コーティングも地球に優しくて、木の味わいが出るのを使っているんです。」

へえ!それは素晴らしいや。
と、私はしきりに頷く。

「どうして始めたんですか?」「この材料はどこの土を使ってるんですか?」
「何年くらい作ってるんですか?」

聞き始めたら止まらない。

へえ!それは素敵だ。
大抵頷きすぎて話を聞きながら首を落とす。

そして首が体から分離した頃、あの号令が脳内にこだまする。
”買い物は投票だ”

気がついたら素敵な職人さんの魂の一品を抱え帰路についている。
財布には涼しい風が吹き抜け、私の心は温かい。

今日は塩壺を買った。
眺めながら、
幸せだなあ、と思う。

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