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警察から電話

あれは、高校2年の頃、私は本を読んだり、手紙やメールをするのが大好きで、外に遊びに行くのが大嫌いだった。学校以外は部屋にずっといてとじこもっていた。絵や漫画ばかり描いていた。
反抗期でもないけれど、家族ともほとんど口をきかない年頃だった。
 
うちは代々、東京で、地方の人と知り合ったこともなかった。

メールで、北海道の同い年の女の子と、ツイッターだったかなぁ?で知り合った。
同じマンガの話で盛り上がっていた、
私はマンガも絵も描くのも好きだったから。

北海道かぁ~と考えていた、
それも、どこだったか忘れたけれど、有名なところじゃなくて、中標津?だったかな、地図で探して、えええ、こんなところに生まれたんだ、って
見たことない景色なんだろうな、と憧れていた。

その子と、メール毎日して、マンガの作家の話なんかを話して、
彼女は「東京かぁ、いつか行ってみたいな」と向こうからも言われて、
なんもないよ、つまんないよ、美味しいものもないよ、北海道のほうが断然良いよ、みたいなことをやりとりしてた。

そのあと、どのくらいたったかなぁ、結構メールでのやりとりは1年以上。
マンガの話しかしなかった気がする。長く続いていた。

「ねぇ、親友になってよ、兄弟がいないから、姉妹みたいに」と彼女は
なんでも言い合える仲になりたい、と常に言ってきた。
私には姉がいるので、親友とか、姉妹みたいにって、会ったことないしなぁ、ひとりっ子ってこんな感じなのかな、と違和感さえ持っていた。でも
そこでは、「もちろん、会ったことないけどね」なんて返事をしていた。
親友、親友、と意外にも、しつこかった。
なんだっていいよ、それに私には本当の親友が、同じ学校にいたから、変なこと言うな、と思っていた。
そう、私の中ではマンガの話をする相手。友達とも思っていなかったのかもしれない。


ある日、夜8時ぐらいかな、警察から電話があった。
母は、「なんかよく分からないことを言ってるから、北海道だって、あなたに」といわれて、私はなんだろう、何もピンと来ないまま「はい」と言って電話に出た。

警察「○○さんを知ってる?」
私「?? ・・知りません」
警察「あなたを頼って東京へ行くって言ってるんだけどね、」
私「え??・・知りません」なに?なんだろう、全く分からない
警察「本当に知らないの? ちょっと待って」
私、「なんで私のこと知ってるんですか?」

・・・
警察「メールしてるって親友だって」
私「え??ええーーーー??
  あ、知ってます、いや、知ってるっていうかメールでしか知らなくて」親友??本気にしてたの?会ったことも無いのに?
なぜか、わたしはぞっとした。

警察「札幌だけど、昨日の夜から家出して、彼と一緒に東京の友だちのところへ行くって言ってるんだけど約束してたの?」
私「・・・・家出?ひとりじゃなくて?知りませんでした、約束もしてません」 なぜか、気持ち悪くなってしまった。

警察「ありがとう、親を呼んで迎えに来てもらうから、あなたは、メールだけの人ね」
私「その人、家出って、家出したんですか?」
警察「東京に知り合いがいるってあなたのこと。ありがとう、あまり関わらないほうが良いよ、風貌もちょっとね、このふたり・・」と言われて切られた。

私は唖然とした。唖然、愕然、鳥肌・・恐怖に近いかな。
そんな人だったの?と頭が真っ白になった。
家族は警察から電話だった、といって「なんだったの?」と聞いてきたが、
余りのショックで、「なんでもない」と言ってその子の話は一切しなかった。

そのあと、彼女から長いメールが来た。

親から暴力を受けていて、とても苦しい。家出をしたくて、彼と一緒に計画立てて、東京に行けばなんとかなるとおもったけど、札幌で補導された。捕まった。悲しい、東京へ行きたい、と。

私は、彼がいたのも知らないし、家出するような人と友達になったこともないので、返事は書かず、ブロックした。

怖かったのだ。不良だ、北海道と東京は地図で見ても果ての果て。
私は実家。

何考えてるの?マンガが好きって嘘で、東京の知り合いを作りたかっただけなんじゃなかったの?あの女。と呪った

家出して彼と一緒に東京で匿ってほしいと思ったの?
冗談じゃない。私はこうみえても、真っ当に生きてきた。
一緒にするな、と、かなり頭に来てしまった。

うちは、平和な家で、今思うとぬくぬくと生きていた。
高校生の頃の私は、家出する状況なんて、夢にも考えたことがなかったからだ。

それから、地方の人と仲良くするのを辞めた。
やることが、大胆過ぎる、警察に補導されるなんて。

大人になった今、歌舞伎町や渋谷に地方から出てきた家出少女、たくさんみるようになった。

あの時彼女はどんな気持ちで、私に縋ろうとしてたのか、あの頃の私は全く聞く耳を持たなかったけれど。

私が、あの時高校生じゃなかったら、彼女の話も聞いてあげられる余裕があったら。
彼女はその後もブロックされたメール以外からも連絡を取ろうと、手紙を送ってきたり、ずっと謝ってきていた。フル無視していた。

地方の人のほうが彼氏とか作って進んでるんだな、と思った。
ずっと女子校の私とはまるで、違う人たち。
信じるんじゃなかった、バカだった、騙された、とずっと彼女を大嫌い、と考えていた。

でも、今なら、お母さんと話して、東京に家出じゃなくて呼んでいたかもしれないな、と思える。
彼女の必死さがわからなかった。事実か嘘なのかも。

人は怖いけれど、助けを求めて、藁をもつかむ気持ちだったのかもしれない。藁になってあげれなかった。
でも、東京に行けば、何か良いことがあるとでも思ったのだろうか。
まだ未熟で何もできないこどもが。

優しさって何だろう。他人の人生相談、家庭内のこと、全く興味なかった。
恋愛事情も。人には興味がなかったのだ。今もそうだけど。

今、彼女はあれからどうしているんだろう、と考える。
もう、名前も忘れてしまった。

幸せに生きていると良いな、と思っている。
生き急ぐな、と今の高校生にも言いたい。
大人になってからで十分間に合う。ゆっくりと生きてほしい。
元旦に、なぜか思い出した。

2024年 はじめて、年賀状を1枚も書かない年でした。
今年も佳い年でありますように。

でも、あの時は、本当にびっくりしたなぁ、

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