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座談会、マッチメイク、スペース

 ほらあの、「座談会」とか「対談」とか「共同討議」といった、言論誌の目玉となる、論客を招いて議論させるああいうコンテンツ。僕などは格闘技を観戦するような感覚で、それ目当てで雑誌を購ったりするのでれっきとしたファンである。

 さて、その最初期の代表たる『新潮』の「新潮合評会」は、ある時期に注目すべき変貌を遂げたという。
 大澤聡『批評メディア論』によれば、一九二〇年代後半に、いくつかのメルクマールとなった回を経て「《誰を論じるのか》から《誰が論じるのか》へと重点が移行しているのだ」と云うんである。
 大澤によれば、それまでは、だいたい毎回同じメンバーである「大家たる実作者たち」が評者となっていた。だからこそ「新潮合評会」は権威として機能したのだが、それゆえ新味に欠けるきらいがあったという。

 このことは商品として致命的欠陥である。大衆消費社会において、商品は流行の随時反映を要求されるからだ。そこで、出席者の交換可能性が浮上する。たえざる固有名の置換にこそ商品価値が宿る。
 (中略)
 かつての権威も半ば実効性を喪失した交換項のひとつになり下がる。《誰が》が永劫固定することで価値が発生しえた時代(=権威の時代)から、《誰が》が常時変化することで商品価値が発生する時代(=速度の時代)へ。合評会の転質はこのモードの切替わりを体現している。

大澤聡『批評メディア論』p.129 太字は安田による

 これはかなり普遍的な現象で、今日でもさまざまな場において、我々はこれに類する現象を目の当たりにしている。
 たとえば討論番組。端的に言えば、メディアで活躍するタレント学者や論客には「賞味期限」があり、その命脈は実力やパフォーマンスによってあるていど伸縮するものの、基本的には一定期間が経つと飽きられ、客は新味のある顔あるいは取り合わせ(マッチメイク)を求めるようになる。

 ことは学者や論客にかぎらず、基本的にメディアコンテンツという「商品内商品」(?)たらんとする者は、役者だろうがアイドルだろうがお笑い芸人だろうが、こうした宿痾からは逃れられない。
 彼(彼女)らはみな涙ぐましい工夫と努力によって、己の命脈をなるべく長く保とうとし、また出来ることならエントロピーの増大に抗うかのように再浮上のチャンスを掴もうとするのである。
 AV業界などはそのような新奇性優位の最たるもので……まあくだくだと説明するのは省くが、新人であることのアドバンテージがかなり大きく、どんなに実力(性的魅力?)があってもベテランは苦しい。
 一見実力が物を言う格闘技の世界でも、やはり興業的には、どのようなマッチメイクをしたら盛り上がるか、ということは必ずしも強さのみによって決まるのではない。そしてここでも古株は不利で、「新旧対決」とか「最終章」とか「負けたら引退」といった付加価値によってどうにか抜擢されたりされなかったりするのである。

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 ※※ここからは安田好きな人だけ読んでください。アンチは去れ!※※

 それで最近ちょっと思うのだが、Xには数年前から「スペース」というサービスがあり、気軽に誰でも参加してお喋りできるツールとして定着している。身近な友人同士のお喋りから、著名人同士のトークショー的なものまで百花繚乱に織り混ざっており、上で述べたような「座談会」的なコンテンツの最も今日的、かつ万人に開かれた形態であると言えなくもない。

 僕もその末端で細々とスペ主(場を立ち上げる人のこと)をしたり、他人の場を汚したりしているのだが、まったくの私的な馴れ合いという時もあれば、ちょっとだけ場のクオリティであるとか、自らの発言者としての需要、みたいなことを考える時がある。いや、ほんとにちょっとだけ。
 「著名人でもないただのおっさんが何を寝ぼけたこと言うとるんじゃ」とツッコまれると返す言葉もないが性格なので勘弁してほしい。少しだけ自スペの価値とか、自分の発言者としての価値を向上させたい、みたいなことを思うのである。

 そ・こ・で。上の大澤聡の指摘がヒントになったのだが、スペースにおいては、僕は徐々にプレイヤーよりも司会者的なポジションに移行してゆこうと思うんである。
 何故なら、プレイヤーとしてはだいたい限界が見えたからですね。安田さんは面白いとか話しやすい、と言ってくれる人は時々いるけど、まあこの年までべつに喋りで何かになったり成果を上げたりはしていないわけで、大体こんなもんでしょう。
 プレイヤーとしてはもはや新味もないし、もっと華のある人がいくらでもいるのでそこは任せて、今後は周囲を活かすというか、いろんな人が出入りして、寛いで喋ってゆける、そういう場を設ける運用をしてゆきたい。云ってみれば他人に活躍してもらうことによって自スペを繁栄させてゆきたいんである。

 いやー、でもちょっと大げさかな。たかがスペースでそんなこと言っても、ねえ。まあ大げさですね。すいません。
 まあそんなことを思った、という話でした。
 よかったらやるせない夜なんかに、安田スペースを覗いてみてくださいね。それでは(・ω・)ノシ


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