「焙煎機ごとの味の違い」って本当に存在する?同じプロファイルで焼いて比べてみた/Roast Magazine 2019年5・6月号より

元記事:Can You Taste the Roasting System? Matching Roasting Profiles on Different Machines - Daily Coffee News [Daily Coffee News Staff | May 24, 2019]

(この記事はアン・クーパー Anne Cooper とロブ・フース Rob Hoos によって書かれ、Roast Magazine 本誌2019年5・6月号に掲載されました。ここではその記事の冒頭を掲載しています。記事の全文はこちらから読めます


イントロダクション


そもそもの始まりは、ロブ・フースが著書 “Modulating the Flavor Profile of Coffee: One Roaster’s Manifesto” (注釈:『焙煎によるコーヒーのフレーバープロファイル構築』)の執筆にあたって、焙煎中のフレーバーの発達について立てた仮説だった。ロブは長期間の研究で、コーヒーの風味が焙煎中のコーヒー生豆に化学的・物理的変化が生じるタイミングと密接に関係しているのではないかと仮説を立て、これを証明するために何度も検証を重ねた。その結果、時間と温度の制御により、説得力のある結論へと着地したように見えた。つまり、焙煎機や焙煎システム間の違いの多くは、熱電対の配置、釜の厚さ、温度計の種類や、熱伝達制御だが、理論的には多くのロースターやメーカー、コーヒーの専門家が注目しているようなこれらの違いによる影響よりも、ローストのプロファイルそのものやそれぞれの焙煎方法による影響の方がコーヒー豆は受けやすい、というものだ。

つまり、焙煎システムを制御して、焙煎進行中にコーヒー豆が化学的・物理的に変化する特定のタイミング(変調段階)を作り出すことができれば、求めるフレーバープロファイルを持つコーヒーを作り出すことができる、というのだ。

ロブは、焙煎機の買い替えを検討している人を対象に「プロファイルマッチング」サービスを提供することで、この理論をより専門的に探求し始めた。この間、彼はほとんどの人が「コーヒーの味は、プロファイルではなく、焙煎機の種類や熱伝導システムの違いによって変わる」という固定観念を持っていることを何度も思い知らされた。しかし多くの人にとって、このプロファイルマッチングサービスは目を見張るような経験だった。たった1、2回の焙煎でプロファイルを忠実に再現することができるため、焙煎機やメーカーの違いを心配する必要がないことがわかってきたからだ。ロブ氏は2013年から2018年までプロファイルマッチングの練習を続けていたが、ある時友人の協力で、自分の仕事をより多くの人と共有する機会を得ることになった。


コーヒー業界で25年の経験を持つアン・クーパーは、ロブの研究を知り彼に連絡を取った。彼女には世界中の様々な焙煎機を使用した焙煎コンサルティングの経験があり、ロブの研究と組み合わせることでロースターのための新しい教育ツールを生みだした。アンとロブは協力してロブのコンセプトをさらに探求し、フレーバーの発達に関する従来の主張「焙煎機の違いが味に影響を与える」という言い伝えを検証することにした。二人はその知識と経験を生かして、スペシャルティコーヒー協会(SCA)のコーヒーロースターズギルド(CRG)のためのワークショップ「Can You Taste the Roasting System (CYTTRS)」を開発した。毎年メルボルンで行われるコーヒーの博覧会(MICE)に先駆けてアンが毎年開催するイベント「Firestarter」でのベータテストを経て、シアトルで開催された2018年スペシャルティコーヒー博覧会(Specialty Coffee Expo)にて、ワークショップコースの正式なお披露目となった。
この記事では、CYTTRSのワークショップの中身と、著者が世界中のコーヒープロフェッショナルを試してみた結果の検証を行う。

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研究の目的


この研究の目的は、全く同じコーヒーを3種類の異なる焙煎機で、イエローイング(後述)のタイミング、ファーストクラック(1ハゼ)のタイミング、ディベロップメントタイムとレイシオ(後述)とトータルの焙煎時間全てを一致させて焙煎したとき、コーヒープロフェッショナルは果たしてその違いをトライアンギュレーション(三角測量)で識別することができるか、調査することである。

もし違いが検出されなかった場合、従来の「コーヒーの焙煎機の種類/熱伝導システムの違いによって焙煎したコーヒーの味が変わる」という言い伝え(仮説)は実は間違いで、コーヒーのフレーバーは、あくまでも焙煎プロファイルと変調段階のタイミングの違いによって発達するものである、ということを示していることになる。


実験を始める前に、まずはセオリー通りに用語の定義から入ろう。

トライアンギュレーション(三角測量)とは、3つのカップに入ったコーヒーを三角形に並べ、テイスティングするスタイルのことだ。この3つのカップのうち、2つに入っているコーヒーは同じであり、1つのみ異なる。テイスターの目標は、この3つのカップから「仲間はずれ」を見つけることだ。仮に運頼みだとしてもテイスターは33.33%の確率で「仲間はずれ」のカップを見つけることになる。 アンとロブがターゲットにしていたローストプロファイルでは、コーヒー豆の色と挽いた粉の色も考慮するポイントとなる。

コーヒー豆の色(エンドカラー)とは、焙煎したコーヒー豆外側の色のことで、比色計によって定義する(アンとロブは Javalytics、Lighttells、ColorTrack の3つを実験に使用した)。挽いたコーヒーの粉の色も同様に、挽いたコーヒーの色を比色計で読み取った。結果に一貫性をもたせるためにグラインダーは1種類のみを使用し、豆内部の組織の表面積を最大限にし、読み取りを均一にするために、最も細かい設定で挽いた。

イエローイングとは、焙煎中のコーヒー生豆の色が(焙煎士から見て)約70%黄色くなり、緑色の豆がほとんど残っていない状態(かつ、まだ茶色くなり始めていない状態)を指す。イエローイングはしばしばメイラード反応やカラメル化(キャラメライゼーション)の開始タイミングとしても認知されている。(注釈:日本の焙煎環境では「蒸らし(水抜き)」の終了タイミング、といった扱われ方もしているようです)

ファーストクラック(1ハゼ)とは、コーヒー豆が内部からの水蒸気圧によって膨らみ、弾ける(パチパチと音がし始める)タイミング、さらに/またはそれに伴って酸っぱい匂いがし始めるタイミングのことを指す。 ディベロップメントタイムとレイシオは、1ハゼが始まってからの時間の長さと、全体の焙煎時間に占めるその時間の割合のことを指す。


焙煎の目標は、実験に使用するサンプルの焙煎において、コーヒー豆の化学的・物理的な「変化のタイミング」と、焙煎されたコーヒーの「色(エンドカラー)」を一致させることである。この実験では、マシン間によって温度計への熱の伝わりやすさやその精密さが一貫していないため、温度は測定値としては使用しないこととした(温度計の限界と温度計読み取り判断の難しさについての詳細は Roast Magazine 2017年9・10月号掲載記事「Our World Through a Keyhole: Understanding the Limitations of Thermocouple Readings」参照)。

このパイロットプロジェクトのために、私たちは3つの焙煎機/システムを選んだ。Probat UG15Loring S35、そして Diedrich IR-5 だ。それぞれの焙煎機で上述の変化が起こるタイミング(焙煎開始からイエローイング、イエローイングからファーストクラック、ディベロップメントタイムとレイシオ)だけでなく、エンドカラー(豆、挽いたもの)も一致させ、スペシャルティコーヒーコミュニティでのトライアンギュレーションへとサンプルを送った。

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アン・クーパー ANNE COOPER/オーストラリアのロースター。コーヒー業界歴25年、コーヒーロースターズギルド CRG 執行委員会・教育委員会の元メンバーであり、現在は自身のトレーニング・コンサルティング会社であるEquilibrium Master Roastersを経営。小〜大規模の焙煎会社で様々な焙煎機や焙煎プロセス、技術を使用してきた経験から得た幅広い焙煎技術と知識で、経験者・未経験者問わず教育している。


ロブ・フース ROB HOOS/アメリカ、オレゴン州ポートランドにあるNossa Familia Coffeeのコーヒーディレクター兼Rob Hoos Coffee Consultingのリードコンサルタント。『Modulating the Flavor Profile of Coffee: One Roaster's Manifesto』の著者。コーヒーロースターズギルド CRG 執行委員会の元メンバーであり、専門的指導者、主題専門家、SCAのコンテンツコントリビューターでもある。

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コーヒーの焙煎に関する記事をずっと載せたかったのですが、いかんせん Roast Magazine、その名の通り焙煎の雑誌なので焙煎に関する記事は本誌のみの掲載が多く、Daily Coffee News への登場回数が少ないことからこのnoteにもなかなか載せられませんでした。

今回の記事は、いわゆる「本誌から内容を少しだけお届け!」というタイプの記事なので、転載ギリギリ?かなりグレーゾーンかもしれません。パブリッシャーからDCN記事は載せてOKという許可はもらっているので恐らく大丈夫だとは思いますが、予告なく消す可能性もあることをご了承下さい。

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さて、この実験、実に興味深いと思いませんか?昔からある、この「焙煎機によってコーヒーの味は変わる」理論、本当に味は変わるのでしょうか?私も今までその固定観念を信じていましたし、「この店は○○の焙煎機使ってるから、コーヒーのフレーバーが△□だしボディは○△だね」という発言をよく耳にしたし自分も使っていました(というかそういう発言をすると自分がプロっぽくみえる/聞こえるので、そういう発言をちょっとかっこつけて使っていた…みたいな部分もありました笑)

この実験をするにあたって、まず前提としていちばん重要かなと思うのが「焙煎機の温度計は、思っているほど正確ではない」ということです。これはRoast Magazineの過去の記事にもあるのですが、簡単に内容を説明しますと、焙煎機に取り付けられた温度計の太さによって温度の表示は大きく異なり、実際の、正確な、リアルタイムの温度を示しているわけではない、というものです。

今回の記事の実験が、焙煎中の温度変化ではなく、各変調の起こるタイミング=時間をベースにプロファイルを設定し、焙煎終了時の豆の色=エンドカラーで揃えているのはこのような理由です。


さて、この実験は本誌の記事本文で更に続くのですが、できればGoogle翻訳やDeepL翻訳などで読破にチャレンジしてみて下さい!本当に面白い実験結果です。時間がない方向けにかいつまんで説明しますと、コーヒーのプロフェッショナルであっても3つのカップから「仲間はずれ」を見つけ出すことは困難であり、ましてやその「仲間はずれ」が「どの焙煎機によって焙煎されたか」を識別するのはほぼ不可能だった、という結論になりました。

筆者はさらに、「コーヒーの味は、焙煎機によって変わる」という誤った解釈は、焙煎機自体に原因があるというよりも、それぞれの焙煎機には、それぞれの「熱の変化の仕方」や「熱伝導のメカニズム」があり、それがコーヒーを「自然と」プロファイリングしようとする傾向がある、と続けました。つまり、焙煎釜の厚さであったり、熱源をコントロールしたときの熱の変化の起こりやすさが、その焙煎機の「だいたいのカーブ(=基本のプロファイル)」を決めてしまう傾向がある、というのです。

もっというと、焙煎機が特定の味を「作っている」のではなく、焙煎機が特定の方法で利用されたり、制御されたりしているために、特定のプロファイルに傾いている、ということです。今までの言い伝えからするとまったく逆の因果関係です。

そして、コーヒー生豆に起こる変調段階のタイミングを合わせたプロファイルで焙煎することによって、使用する焙煎機に関わらず、同じフレーバープロファイルを構築することができるという結論に至っています。


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今まで信じていた「焙煎機の違い→味の違い」という固定観念が、そもそも「セオリー通りの焙煎をした結果、その焙煎機の基本のカーブ(基本のプロファイル)になり、焙煎機ごとに味のばらつきや ”スタイル” が出る」ということだったことがわかり、驚くとともに納得もしました(用語など付け加えながら解説をしたつもりですが、分かりにくかったらコメントお願いします)。焙煎は本当に奥が深く、分からないことだらけだとしみじみ実感しました。

junko