ジジイのたしなみ

誰かに見られている
そんな事を思う弥太郎は金輪際こう誓った。
そんなことはない
弥太郎はいつもの帰り道をひたすら眺めながら歩く。景色が自分の歩幅に合わせてスライドし、弥太郎はミニ四駆のスライドダンパーというパーツを一瞬思い浮かんだ。弥太郎の思考はそれからミニ四駆で埋め尽くされた。家に着くまでの間に6台のミニ四駆の名前、三個のパーツ名を記憶の奥深いところから引っ張り出した。そんな時だった。
「こんにちは、弥太郎。元気かい?元気かい?弥太郎」
三軒隣の顔なじみのあるおばちゃんから声を掛けられた。弥太郎は、
「男子禁制!元気だよ、ババア」
おばちゃんはにっこりと笑いそのままセグウェイで走り去っていった。
弥太郎は家に帰るとすぐに、持ち前の元気でドアをこじ開けた。すると中からさっきのババアに似てるジジイが仁王立ちで弥太郎を待ち伏せていた。
「弥太郎や、ドアを大切にせい!」
弥太郎は荒れ狂う大波のようにジジイを引き寄せた。ジジイは持っていたカーテンのホックを弥太郎の左耳に引っ掛けそのまま弥太郎を抱きしめた。弥太郎はジジイの愛を心ゆくまで感じることができた。ジジイの勝利である。

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