ジュージ

主に掌編小説を載せています。 カクヨムでも活動しています。 https://kakuy…

ジュージ

主に掌編小説を載せています。 カクヨムでも活動しています。 https://kakuyomu.jp/users/zi-yon

最近の記事

恋バナの人

※電楽サロンさん主催「第三回お肉仮面文芸祭」によせて書きました。 詳細はこちら  その人の姿を見たのは実に十年ぶりのことだった。公園の藤棚の下のベンチにきちんと足をそろえて座り、空を飛ぶ鳥の群れを見ているようだった。  その人は今も変わらず生肉でできた仮面をつけており、人相などはまったくわからない。でも、私にはなぜか、あのときとまったく同一人物だという確信があった。  その人――お肉仮面に出会ったのはおよそ十年前。私はまだ女子高生だった。  通っていた高校の向かいに広い公

    • 『みんなこわい話が大すき』が書籍になりました!

       こんにちは。ひさしぶりの更新となりました。  先日、拙作長編ホラー『みんなこわい話が大すき』が書籍となって角川書店から発売されましたので、その旨お知らせに参りました。  今年五月に最終結果が発表された「第8回カクヨムweb小説コンテスト」のホラー部門で大賞をいただき、その後書籍化に向けて作業してまいりましたが、関係各位のお力添え、また読者の皆様のご声援のおかげで、無事世に出すことができました。  本当にありがとうございます。  商業作家としてはまだ一冊出たばかりのペー

      • 野薔薇咲くころ

         兄さん。お元気ですか。  島外へ出て行かれてから、もう何か月になるでしょうか。  美代子は元気ですと言いたいのですけど、本当は元気でないので困っています。もう父さんも母さんもいなくなって、今は私だけで住んでいるこの家の広いこと、そして静かなこと。  聞こえるのは野薔薇が棘を研ぐ音ばかりです。  今も隣の部屋からかしかしと音が聞こえます。朝も昼も夜も絶えず鳴っているから、頭がどうにかなりそうです。でも開花までにはまだ時があるから、私ひとりでも何とかなっています。  兄さん、い

        • 陰膳

           おカツばあさんは朝の四時、まだ空のうす暗いうちに目を覚ます。  よく研いだ菜切り包丁に木のまな板、鉄の鍋を取り出す。台所に葱を刻む音と鰹節の出汁の匂いが漂う。出来上がった味噌汁を、昨夜炊いた米の残りとともに小さな器に盛りつけて陰膳を整えたあと、彼女はようやく自分の食事にとりかかる。  慎ましい朝食を終え、食器を片付けると、おカツばあさんは割烹着の上にくたびれた合羽を羽織って、のんびりと外へ出る。  朝日はもう昇っている。鳥の鳴く声が聞こえ、涼しい風が頬を撫でる。おカツばあさ

        恋バナの人

          会長の犬

          「今年やりましょうよぉ。誰も立候補しない年に推薦されたりするともう、地獄よ地獄。うちの小学校、PTA役員はポイント制なの。3ポイント取ったら大手を振って辞退できるの。さっさとやっちゃえば後々楽よぉ」  お向かいの家、五年生の双子を持つ西さんはそう言って笑った。三年生の娘がいる矢崎さんも「そうそう」と相槌を打つ。 「やってみたら案外楽しいかもよ。人脈ができるし情報も入ってくるし、学校から最新式の自動小銃が支給されるし」  グイグイくるご近所さんに「じゃあやってみようかな……」な

          会長の犬

          ダンス・ダンス・マカブル

           蝋燭はもう最後の一箱だ。  あたしの隣でララがぶぅぶぅ鼻水まじりの呼吸音をたてながら、震える手でマッチを擦ろうとしている。この朽ちた館に入る時は一番元気だったのに、今ではこのざまだ。  まぁ、さっきルルが空中でねじれて死ぬのを目の前で見てしまったから無理もない。あのときちょっと離れた場所にいたことを、あたしは神様に感謝した。ついでに祈った。この哀れな見習い除霊師をお救いください、と。  外れたドアの向こう、暗い廊下に点々と並んだ蝋燭が見える。まだゆらゆらと炎を揺らめかせてい

          ダンス・ダンス・マカブル

          あなた

           あなたに出会ったのは十一月四日の午後十一時四十四分、いい感じの数字の並びだったからよく覚えている。アパートの住人が夜間にこっそりゴミを捨てる、そのゴミの中に頭を突っ込んで倒れていた。  このままでは死んでしまうなと思って、わたしの部屋に連れて帰った。八年前に投身自殺した従姉に似ているなと思った。たぶん彼女は死んでから、でっかい鳥に生まれ変わったんだろう。そう思うくらい似ていた。  渡り鳥のあなたに名前はなく、だからわたしはずっと「あなた」と呼んでいた。フラミンゴとメンフ

          聞いてよ

           夜中の二時すぎに友だちから電話があって『近くで女の悲鳴がずっとしてる』って言うんです。「警察に通報したら」って言ったんですけど、『家の中でしてる。うちひとりしかいないのに』って。でも電話の向こうからは別に全然悲鳴とか聞こえないんで、「こっちは聞こえないよ。どれくらいの大きさなの」って聞いたんです。そしたら『聞こえないなんてうそでしょ、さっきからすごいよ。殺されるんじゃないかっていうくらい騒いでるよ』って言われちゃって。「じゃあちょっと静かにしてみてよ」って頼んだんですね。で

          聞いてよ

          『みんなこわい話が大すき』に関する覚書(ネタバレあり)

          カクヨムで一月〜二月にかけて連載していた拙作『みんなこわい話が大すき』に関するメモです。 ↓本文 見切り発車でプロット等がなかったため、連載中に様々な点が変更されていました。それらを思い出せる限り列挙したものです。設定に関する覚書も加えました。 なお、大いにネタバレがあります。ご注意ください。 =========== ・最初は第一章だけで終わる予定だった ・ナイナイの素体は普通に歌枝の腕にする予定だった。それも第一章の中で明かしてオチにするつもりだった

          『みんなこわい話が大すき』に関する覚書(ネタバレあり)

          男ともだち

           半地下のこの店ははたして何という名前だったのか、最初に飲んだのが何ベースで何色の酒だったのか、さっぱり覚えていない。  そもそもあんまりお酒が飲めない体質なので、背の高いスツールからずり落ちないようにしながら私は足をぶらぶらさせ、ステージの上でさっきから延々MCをやっているバンドを眺めている。なんていうひとたちだっけ? 見たことがあるようなないような気がするけれど、こんなふわふわの頭で思い出せるはずがない。  私をここに連れてきた男はフロアのどこかに去ってしまってどこにいる

          男ともだち

          頭上で回るは観覧車

          【カクヨムの『同題異話』という自主企画のために、指定されたタイトルに沿って書かれた作品です】 ==========  しばらく前から、変な夢を見るようになった。死体になった僕が埋められている夢だ。  仰向けに埋められて身動きのできない僕には、なぜか地面の上の様子がよく見える。視線の先には、なにかとても入り組んだ骨組みの、金属でできた大きなものが建っている。  同じ夢を見るたびに視界は鮮明に、しかも遠くまで見通すことができるようになっていく。そしてある日、僕はふと、上に見え

          頭上で回るは観覧車

          凍えるほどにあなたをください

          【カクヨムの『同題異話SR』という自主企画のために、指定されたタイトルに沿って書かれた作品です】 ==========  どこでもいいから、ふたりで寒いところへ行こうと思った。  たまたま入った駅前の古い食堂のテレビは、未だにブラウン管で画面の色がところどころおかしかった。そこから流れるニュースは、今年一番の寒波がやってくると告げていた。  幸先がいいと思った。順くんは暑いのが苦手で寒いのが好きだといつも言っていたから、最後のふたりきりの旅にはぴったりだ。  たぬきそば

          凍えるほどにあなたをください

          愛と呼べない夜を越えたい

          【カクヨムの『同題異話SR』という自主企画のために、指定されたタイトルに沿って書かれた作品です】 ==========  改札を出るとすでに夜は始まっていて、行きかう人々の頭越しに大きな満月が浮かんでいる。私は黒いパンプスを鳴らして駅から街に出て行く。  壁と天井に囲まれた場所を出ると、途端に木枯らしが私の顔や首元に吹きつけてくる。私は黒いコートの襟を立てて首をすくめ、なんとなく物悲しい気持ちになって、足早に南の方へと歩き始める。  途中で派手な格子柄のコートを着た、髪の

          愛と呼べない夜を越えたい

          ギンガムチェックの女

           私の人生で一番の修羅場といえば、やっぱり高校二年生の春、私の母が死んだときだと思う。正確に言えば、病院で母の遺体を確認した私が家に帰ったら、リビングの隅で、死んだはずの母がこちらに背中を向けて立っているのを見つけたとき、だ。  死んだ人間が、どういう基準で幽霊になったりならなかったりしてるのかはわからないけれど、少なくとも母に関しては幽霊なんかにならずに、とっとと成仏していた方がしあわせだったと思う。なぜって私が母に向けていた面はあくまで私の一面でしかなかったし、私は結局そ

          ギンガムチェックの女

          トマソン

           両親がトマソンを初めて家に連れてきたとき、おれはまだ小学生だった。どこのおじさんを拾ってきたのかと思ったが、それはおじさんではなくてトマソンだったのだ。  トマソンはリビングの隅に専用の椅子を置いてもらい、日がな一日そこに座って与えられた豚骨を齧っている。おかげでリビングにいると常にゴリゴリという音が聞こえるため、おれはあまりリビングに寄り付かなくなった。  兄はトマソンによく話しかけていたが、トマソンは一言も返事をしなかった。唇の端から涎を垂らして豚骨を齧っているだけだっ

          トマソン

          鰐のやり口

           ある日仕事から帰ると、一人暮らしのアパートに妹がいた。正確に言えば、妹を名乗る鰐がいた。鰐というか、人間の体に鰐の頭がくっついた、人間とも鰐とも言い難いなにかだった。 「おかえり! お姉ちゃん」  鰐はリビングのテーブルの脇からぱっと立ち上がり、軽い足取りで私の方にやってきた。私は靴を脱ぎかけたまま固まっていた。 「お仕事お疲れ様。寒かったでしょ。シチュー作ってあるよ。お風呂も洗ってあるから、先に入る?」 「え? あんたなに? 誰?」  ようやく頭が状況に追いつきかけたとき

          鰐のやり口