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花の色は移りにけりなpHで -夏の色

∫1 アントシアニンの色を確かめる

「アントシアニン系の色素は、pHで色が変わる」

教科書的な知識として、知っている人は多いでしょう。
実際のところ、どんな色になるのか、
家庭でできる方法で確かめてみましょう。

∫2 実験準備

◆用意するもの

・3種の溶液
 ① A液: 市販のレモン調味料
      (成分:レモン果汁10%、クエン酸、アスコルビン酸)
      2倍希釈で使用。
 ② B液: A液とC液を混合し、中性付近に調整
 ③ C液: 炭酸水素ナトリウム(食品添加物:重曹)溶液
      結晶が溶けきらなくなった濃度を2倍希釈で使用。
・ユニバーサルpH試験紙
・無色透明のプラスチック定規1本
・割り箸(液の撹拌や色素液の作成に使用)
・つまようじ(色素液の滴下に使用)
・ディスポーザブルのスポイト(お弁当用の醤油入れでも可)

左から、A液(pH3.5)、B液(pH6.5)、C液(pH9)付近です。

pHメーター、テフロン棒など、器具は一通り持っているのですが、
今回は家庭での再現を考えて、有り合わせの品で構成しています。
(フラスコはサイズ見本です。食添を使うので器具の購入は不要です)

◆調査対象の花

個人的に青花が気になります。
当栽培場で開花中(7月)の青花を中心に選択しました。

左から
1)オオボウシバナ(Commelina communis var. hortensis)
  ツユクサの変種です。花弁が通常種に比べて大きいです。
  花弁の青い汁は、友禅染の下絵を描くのに使われます。

2)アサガオ '暁の海'(Ipomoea nil '暁の海'
  '宵の月'と並ぶ、濃青紫色の代表品種です。
  甘苦い香りがあります。見つけたら嗅いでみてください。

3)アサガオ '水戸あおい' (Ipomoea nil '水戸あおい'
  ホームセンターで売っていた苗から咲かせたものです。
  暁の海とは色調が違うようです。

4)ニューギニアインパチェンス(Impatiens hawkeri)
  赤系の比較対照として、栽培場で濃マゼンタ色の植物を選びました。
  しかし、濃色花なら色素が取りやすいというものでもないようです。
  あとからマツバボタンの4倍体'ジュエル'にすればよかったかなと。
  マツバボタンは花びらをちぎるだけで爪が染まるほどです。

◆花の汁を作る

ガラス容器の中で、割り箸などを使って花弁を潰します。
少量の水道水で緩め、上澄みを別の容器に移しました。

左から、1)オオボウシバナ、2)暁の海、3)水戸あおい、4)ニューギニアインパチェンス

オオボウシバナ(左)とインパチェンス(右)は、花色と液色が同じです。
しかし、アサガオは暁の海、水戸あおいとも、赤紫色に変化しました。
咲いているときは青花ですが、午後、萎れると赤紫色なる、その色です。

∫3 いざ、pHチェンジ!

◆手順

・つまようじの頭を使って、定規の上に4か所、色素液を置きます。
・色素液と付けないようにして、pH液(A液、B液、C液)を置きます。
 (プラスチックの撥水性がちょうどよい感じです)
・つまようじを変えながら、色素液とpH液を混ぜます。

◆結果

上から、オオボウシバナ、暁の海、水戸あおい、ニューギニアインパチェンス
左から、色素液のまま、A液(pH3.5)、B液(pH6.5)、C液(pH9)

オオボウシバナのアルカリ性(上段右)が美しい水色を呈しました。
残りは、酸性が赤、アルカリ性が青系と、ダイナミックに変わっています。
ただし、色調は同一ではなく、花によって微妙な違いがあるようです。


∫4 考察

アントシアニンは、ある種の共通の骨格を持つ化学物質の総称です。

wikipedia アントシアニン

官能基、結合する糖、金属イオン、pHなどの差異によって、
さまざまな花の色が作られます。
官能基のOH基が多く、大きな分類ではポリフェノールに属します。

オオボウシバナの青色の美しさはひときわです。
この色素は、ツユクサの属名から、コンメリニンと呼ばれています。

参考文献
ツユクサの青色色素コンメリニンの立体構造決定とその発色機構
中川敦史 日本結晶学会誌 36,p327(1993)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcrsj1959/35/5/35_5_327/_pdf

アサガオの2品種はpHを揃えても色合いが違っていたことから、
別の色素を持っているように見えます。
水戸あおいは色が薄いので、色素量の問題と思うかもしれませんが、
別の年に咲かせた品種'青雲'は、濃色ながら明瞭に色調が異なります。
恐らく違う色素でしょう。

左:暁の海  右:青雲

ところで、アサガオの青花は
・つぼみは赤紫
・ぱあっと咲くときれいな青
・萎れて丸まると赤紫
です。

アサガオはどうやってpHを変えているのでしょうか。
そもそも色素は細胞構造のどこに存在しているのでしょうか。

参考文献
【第3回】色違いの花はどうしてできる? -アサガオの多彩な花色を決める遺伝子- < 一般向け情報 | 日本植物学会 (bsj.or.jp) 星野 敦

ひとつ明らかになると次の謎が現われるところが、自然の面白さです。

ではでは(^^)/


次回予告「花の色は移りにけりなpHで -冬の色」

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