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駿馬京の恋愛短編「正直者なバカを見る」


電撃文庫はじめ、ライトノベルレーベルで活躍する駿馬京さんから新作短編をいただきました。漫画原作「きみと観たいレースがある!」連載中です。心配になるくらいまっすぐな主人公が校内一の不良少女とはじめる青春。主人公の魅力が光る、ポップな恋愛小説です!!


正直者なバカを見る



 4月。新たな春。俺にとってはスギとヒノキの花粉に身体中の粘膜を破壊される季節だ。そんな話を他人にするたびに『情緒がないヤツ』と言われる。そのたびに情緒があっても花粉の侵攻には勝てないだろ、みたいな口答えをするところまでがお決まりだ。

 新たな春である。

 パリッと糊のきいた制服に身を包んだ新入生たちに交じっていつもの通学路を歩き、新しい教室に足を踏み入れると、2年生のころのクラスメイトに「よう、今年もよろしくな!」と肩を叩かれた。

 俺が「おっす。今年も委員長と同じクラスか」と応じると、「まだ委員長に決まったわけじゃないだろ」とあきれられた。

 たしかに。新学年だもんな。

 委員長(ニックネーム)とのやりとりを終えてから座席表を確認すると、どうやら今年も窓際からスタートするらしい。五十音の終わりに近い子音から苗字が始まる俺にとっては小学生のころからの定位置である。

 カバンを置いて着席すると、ゆるやかな春風が肌に当たる。

 あたたかな陽気を感じながら深呼吸をして――

「……くしゅんッ!」

 くしゃみが出た。

 情緒がないので。

 あわててカバンを漁っていると、後ろの席からポケットティッシュが差し出された。

「助かる!」

 引ったくる勢いで受け取り、洟を拭っていると、そこに相手の声が重なる。女の子のものだった。確認すると、そこに座っていたのは学内でも随一の有名人だった。

「あんたよく噂されてるもんね。有名人だし」

「有名人から有名人って言われた!」

 こちらが驚愕をあらわにする一方、後ろの席の女子はきょとんとした表情を見せる。

「……え? あたし有名人なの?」

 顔を見合わせる。自覚ないのかこいつ。

「お前、柳だろ? 不良とか黒ギャルとか言われてる」

「……あー、はいはい。そういう感じね」

 学内随一の有名人、柳。

 ドールを思わせる端整な容貌、整った面立ちに比べていささかギャップのある、ほどよく焼けた肌に脱色された頭髪という出で立ち。

「ただ、ギャルはいいけど勝手に黒く染めないでよ」

「俺に言われてもなぁ。でもいいんじゃないか? 黒ギャルって人気ジャンルらしいし」

「どこのジャンルで?」

「非実在青少年とはいえ男子高校生が発するにはいささか問題があるコンテンツで」

「こいつ自分のことを非実在青少年って呼んでる」

「普通の高校生なら18禁サイトくらい見るだろ」

「なんの話だよ……」

 あきれたような表情で柳はそっぽを向く。

「意外と話せるヤツだな、お前」

「なんか上から目線っぽくてムカつくんだけど」

「『話してみると意外と普通の人だった』ってよく言われない?」

「……言われたことない。っていうか」

 柳はムスッとした顔で、

「あたし、学校であんま話さないし」

 なにかを諦めているように吐き捨てた。


「……でも、あんたの噂は知ってるよ。信じられないくらいの『正直者』だって」


 ――これが、俺と柳の出会いだった。

 会話の後の率直な感想としては、『1年生のころに出会いたかったなぁ』である。

 美人だし。



「なぁ柳。クリスマスとかバレンタインには贈り物をする習慣があるのに、なんで『こどもの日』にはそういう習慣がないんだと思う?」

「…………」

「ていうか少なくとも『母の日』にはカーネーション贈ったりするわけじゃん? でも子どもは鯉のぼり立てて終了ってのはちょっと寂しくないか? まぁ家庭によってはプレゼント贈るところもあるんだろうけどさ。存在感薄くないか? ゴールデンウィークに呑み込まれてるってのもあるんだろうけど」

「…………はぁ」

 いつものように後ろを振り返って柳と会話しようとすると、

「なんでいつもあたしに話しかけてくるわけ?」

 ブスッとした表情で返された。

「ブスッとした表情の美人はプラマイゼロになるんだろうか」

「あたしを見ながら独りごと言うのやめてくれない?」

「本題に戻るけど、『こどもの日』って70年以上も前からあるらしくて――」

「雑談のネタが雑すぎるでしょうが!」

「『雑な談話』なんだからおかしくないだろ」

「そうだった。おかしいのはあんただったわ」

「よく言われるんだけれど、もっと直截的な褒め言葉がいいなぁ」

「褒められてないと思う。ちなみにあたしは褒めてない」

「マジで!?」

 めちゃめちゃ褒め言葉だと思ってた! 両親にもよく笑顔で言われるし!

「ちょっとショックかもしれない……」

「あんたの感想が『かもしれない』の時点であんまり効いてないんだろうね」

 柳は「で」と話を続ける。

「あたしの質問に答えてもらってないんだけど。なんでいつも話しかけてくるわけ」

「柳と仲良くしたいのと、柳と仲良いヤツって俺が周りに思われたいから」

「……はあ? なんで?」

「その疑問には答えるまでもないだろ。美人と仲良くしたいだけ」

「きっつ……」

「あ、漫画とかでよく見る目だ。ハイライト消えてるやつ」

 ゴミを見るような目で見られている。実際にゴミを見ている人間がこんな目をしているのかは知らないけど。

「……つまり、なに? 下心で絡んできてるわけ?」

「九分九厘そうなる」

 ちなみに九分九厘における『100%』は『十割』ではなく『十分』なので、10に対して9.9を占めている状態、つまりほとんどである。豆知識。

「ちゃんと言うけれど、俺はめちゃめちゃ下心があって柳と仲良くしようとしている」

「なんでちゃんと言った!?」

「俺の本能が言ってるんだ。美人と仲良くして損はないと」

「将来ハニートラップに引っかかって破滅しそう」

「よく言われる」

「よく言われる!? どういう日常!?」

 柳のツッコミに熱が入ってきたところで、休み時間の終了を告げるチャイムが鳴り響く。

 俺が正面に向き直って筆記用具を準備し始めたところで、背後から小さな声が聞こえた。

「……まぁ、話し相手がいてくれるのは、ちょっとだけ助かってるけど」



「お前、柳と仲良いよなぁ」

 ある日、体育の授業中、クラスメイトに声をかけられた。体育館の中、ウォームアップがてら2人1組でバレーボールを打ち合っているところだったので、手元の注意が散漫になって球があさっての方向に飛んでいく。

「仲良く見えるか?」

「柳ってお前としか話さないじゃん」

「あいつ話を盛っていたわけじゃなかったんだな……」

 話し相手として俺のことを重宝している、というのはどうやら本当だったらしい。

 そこで、別のクラスメイトが興味深そうに声をかけてきた。

「で? 柳とどこまでいってるんだよ」

「どこまで? 普通に挨拶を返してくれるくらいの関係値は築いてるつもりだけど」

 ただ教室でくだらない話をするだけの間柄だ。どこにも行っていない。

「そういえばさ、柳の『あの話』ってマジなん?」

 俺がすっ飛ばしたボールを回収してくれた別のクラスメイトが声をかけてきた。ほかのやつらもアンダーハンドパスを繰り返しながら器用に会話へと参加してくる。

「夜の繁華街で見かけるってやつだろ? 柳が裏路地に入っていくの見たって」

「援助交際してるみたいな話もあるよな。中年の男とよく話してるって」

「しかも見かけるたびに別の男と並んで歩いてるんだろ?」

「正直…………」

 周囲のクラスメイトたちは、ボールを打ち上げる手を止めた後、

「「「興奮するよなっ!」」」

 と、声を合わせた。

 男子高校生は単純である。男子高校生の俺が言うんだから間違いない。

 同級生の女子生徒に後ろ暗い噂があったところで、それが自分から遠い世界の事象として認識された場合、現実感のないまま認識する羽目になる。早い話が他人事だ。

「で、柳のこと狙ってんのか?」

 単刀直入に聞かれたので、同じ温度感で答えた。

「いやらしいことをさせてほしいとは思ってる!」

「「「だよなー!」」」

 男子高校生は単純である。男子高校生の俺が言うんだから間違いない。

 もちろん俺だって単純な男子高校生である。

「ちなみに、柳本人にもちゃんと伝えてある!」

「マジで?」

「こいつやべー……」

「まあ、そこまっすぐに言えちゃうところがお前っぽいよな」

 そこで体育教師からの一喝があり、俺たちは渋々手首を痛める作業に徹したのだった。

 体育の授業後、教室に戻るタイミングで委員長と出くわした。

「よう委員長。食堂か?」

「ああ。一緒に食うか?」

「悪ぃ。柳を誘うつもりだから、断られたら合流するわ」

「あっそ。じゃあまた後でな。席取っておくから」

「俺が柳に断られるのを前提で話を進めるな」

 結局、委員長は今年もクラス委員長になった。新しいニックネームを考えるのが面倒だったので助かっている。堅苦しい愛称からは考えられないくらいさっぱりした奴で、ついでに顔も頭もいい。きっとああいうヤツは人づきあいでもうまく立ち回るんだろうな。

 一方、俺はどこまでも単純なので、今日も今日とて柳に声をかけていた。

「なあ柳、今日どこで昼食う?」

「あたかも毎日一緒にランチしているような言いかたすんな」



 あの体育の授業以来、俺が柳と仲良くしている(実際は仲良くしようとしている)のは教室における共通認識となった。

 俺が柳に声をかけてはすげない対応をされるのが定番化して、後から「またウザがられてやがる」と笑いのタネにされることもしばしばである。

 そうこうしながら数日が経過したところで、ちょっとした異変が起こった。

「柳、今日は遅かったな。社長出勤か?」

「まだ社会にも出てない人間が社長出勤とか言うな」

 柳が遅刻してきたのである。

 もともとこいつが1年生および2年生のころから遅刻早退や欠席の常習犯であることは周知の事実だったため、さして特別な光景でもないのだけれど、心なしか柳の顔が疲れているように見えたので、思わず声をかけてしまった次第である。

「もう5時間目だぞ? いっそのこと休んだほうがよかったんじゃないか?」

「別に。あたしそんなに顔色悪く見える?」

「いや顔色はわからんけど。化粧で隠してるじゃん」

「じゃあなんで休んだほうがよかった、なんて言ったのよ」

「1日の授業は7限で終わるんだし、帰宅部なんだから、わざわざ午後だけ学校に来る理由なんてないのでは? という純粋な疑問だ」

「次またいつ休むかわかんないし。授業出られるときは出ておくようにしてるの」

「意外と真面目なんだな」

「あたしはいつだって真面目だよ。真面目の定義がほかの子と違うだけじゃない?」

「正義は悪で、悪もまた正義みたいな話してる?」

「たとえ話がぶっ飛びすぎててわかんないけどたぶん違う」

「ちなみに去年、留年寸前だったって話はマジなのか?」

「マジに決まってるじゃん。さすがにもう1回高校2年生やるのは経済的にキツいから、期末試験の前には勉強がんばったけど。まさか出席点が危うくなるとはね」

「……ん? なんか聞いていた話と違うな」

 俺がぽつりと漏らした言葉に、柳は溜息をついた。

「……どうせ、欠席とか早退を繰り返してるのは夜遊びしてるからだとか、そのせいで学力が追い付いてないんだとか、そんな感じの話が回ってるんでしょ?」

「それこそが聞いていた話で驚いたんだが、なんでお前がお前自身の噂を知ってるんだ?」

「女の子って陰口好きだからね。ついでに言うと、陰口をわざと他人に聞こえるように叩いて仲間意識を高めたりもするわけ。そりゃ聞こえるって」

「柳はそれでいいのか?」

「別に。卒業したらどうせ会わなくなるし。てか女子高生ってそういうもんだし。女子高生のあたしが言うから間違いない」

 なぜかしっくりくる理論だな。

「裏表のない女子なんていないんだよ。ま、裏表のないあんたにはわかんないだろうけど」

「他人をイカサマコインみたいに言うな」

 両方表面のマジックアイテムだ。

「あんたはそのままでいいんじゃない?」

 果たして本当にそうだろうか。

 せっかくの機会だ。俺は踏み込んで話をする。

「ただでさえ男子高校生は単純な生き物で、なかでもとりわけ俺は単純だ。他人に嘘をつくことができないし、他人から言われたことは全部本当だと思ってしまう。あんまり他人を疑えないし、そもそも他人を疑おうとする意思がない」

「なにこいつ。いきなり自分語り始めたんだけど」

 口角を上げて茶化してくる柳に、俺は提案した。

「そこで柳。俺はお前に関する噂が果たしてどこまで真実なのかを確かめようと思う」

「……なんでそこまでするわけ」

「お前と仲良くなりたいから」

 柳は「……はぁぁ」と大きく溜息をついて、観念したかのように答えた。

「好きにすれば」



 柳が登校してから4時間後。つまり放課後である。

 俺は柳の背後をぴったりと尾行していた。

 学校の正門を抜けて、アスファルトの敷かれた桜並木の一本道を等間隔で歩き、やがて出た大通りの信号を左折して国道沿いの歩道に入る。

 周囲にはファミレスやチェーンの回転寿司店や中古車販売店、やたらと駐車場のデカいコンビニエンスストアなんかが並んでいる。それらを横目に見ながら進んでいく。

 さらに右折すると私鉄の駅があって、うちの生徒の大半はこの駅を利用して通学しているのだけれど、柳はというと駅を迂回するように大通りを進んで、さらに奥の商店街へ入った。

 雑踏の中を進んで商店街を抜けたところで、くるりと柳は振り返った。

「……普通に隣を歩けばいいじゃん」

 そんなことを言うので、俺も反論する。

「それだと『尾行』にならないだろ」

「言葉の定義に行動を搦めとられるタイプの人間、ほんとうにいるんだ」

 あきれたように柳は続ける。

「ていうか、その行為に意味を見出すつもり?」

「なんだ? 哲学か? 全部聞き取れたのに頭に入ってこなかったんだが」

「うっさい」

 柳は肩をすくめてふたたび前方へ向き直り、そのまま歩を進め始めた。

 俺もふたたび尾行に入る。対象に気付かれている場合、尾行が成立するのか否かはひとまずミッションを完遂してから考えよう。

 私鉄の沿線から少しばかり離れたところには、商業施設や飲食店が立ち並ぶ繁華街がある。さらに奥へ進むと、別の沿線の主要駅に到達するのだが、ここらで暮らす人間はだいたいその前で足を止める。

 季節が春に突入してしばらく経過して、やや蒸し暑い。柳はためらいなく繁華街へと入っていき、入り組んだ道を右へ左へと慣れた様子で進んでいく。

 どうやら噂のひとつである『夜の繁華街で柳の姿をよく見かける』という話は真実らしい。

 そのままついていったところで、脇からポンポンと肩を叩かれた。

「こんなところで何をしてるんだい?」

「制服から察するに、学校の駅とは反対側のはずだが……」

 警察官の服装に身を包んだ2人組の男性だった。

 つまり警察官である。

「友達の後をつけていたくらいで、ほかには何もしていません!」

 職務質問のたぐいを受けたことはないが、とにかく友好的に応対せよとなにかの動画で見たことがある。なるべくハキハキと事実を伝えると、2人組は困惑したように顔を見合わせた。

「わあっ! なに言ってんのあんた!」

 数メートル先で振り返った柳があわてた様子でこちらにすっ飛んできた。

 なにもおかしいことはしていないんだが?

 駆け寄ってきた柳の姿に、警察官たちは俺にとって思いがけない姿を見せた。

「なんだ、柳ちゃんの知り合いか」

「柳ちゃんの背後を等間隔でついていってたから、ちょっと心配になってね」

 なんともフレンドリーな様子である。

 一方の柳はというと。

「こいつ、ふだんからこういうやつだからあんまり気にしないで。お仕事おつかれさま。また寄ってよ。ママが寂しがってる」

「おう。そのうち顔出すよ」

「春って変なやつが多いからなぁ。見回りの手がいくつあっても足りないんだよ」

「ここらへんも人が増えたもんね。それじゃ、あたしたちはここらへんで」

 そう言って手を振り合った後、柳は俺の腕をむんずと掴んで引き寄せ、歩き始めた。

 ややあって、勢いよく俺の腕を放し、

「あんたマジで怖いものなしか!」

 一喝された。怒気よりも溜息の割合が多かった気がするが。

「まさか柳が警官とあんなに友好的にコミュニケーションを取るなんてな」

「よくお世話になってるからね」

「なるほど、ますます噂の信憑性が高まってくるな」

「なにを勘違いしてるのかわかんないけど、そろそろ着くよ」

「どこに?」

 俺のシンプルな問いかけには答えず、柳はしばらく歩いていき、裏路地の一角にあるこぢんまりとした建物の前で立ち止まった。

 そして、こともなげに告げた。

「ここ。あたしの家」

 そこには『カフェ&BAR 彩』という看板があった。



 せっかくなのでお邪魔させていただく運びとなった。

「……当然のように入店してくるじゃん」

「そういう流れかと思って」

「まあ、好きにすればいいけど」

 入店を告げるベルの音が鳴りやむのを待たず、柳はそのまま店の奥に引っ込む。

 ただいま、おかえり、と家庭的な会話が聞こえたかと思えば、ややあって入れ替わるように奥からひょこっと別の女性が顔を出した。

「いらっしゃい。あの子のクラスメイトってマジ?」

 ずいっと距離を詰められて、なめまわすように顔をまじまじと見られた。俺とそう歳は変わらないように見える。印象的なのは、両耳に所狭しとぶらさがったピアスと濃いめのメイク。心なしかいい匂いがする。柳と同じ匂いだなと察しがついた。

 柳のお姉さんだろうか。

 軽く自己紹介すると、女性はその出で立ちからは想像できないような、ぱぁっと明るい笑顔を見せて、

「柳の母でーす」

 ……と言った。

 卒倒するかと思った。


 柳の母親はとにかく社交性の塊みたいな人で、教室で誰とも関わろうとせずにひっそりと時を過ごしている柳の姿には重ならなかった。

「ところで柳は今なにを? 奥に引っ込んだまま出てこないけど……」

「ああ、買い出し行かせてる」

「なるほど、家業の手伝いですか」

「そんな大層な言いかたされたの初めてなんだけど。ウケる」

 柳母は豪快に笑ったあと、火のついたタバコを吸って紫煙を吐く。

「あの子が友達を連れて帰ってくるなんて初めてだから嬉しくなっちゃったよ。どう? あの子は学校生活楽しんでる?」

「楽しそうではないです!」

「だろうねー知ってる」

 俺の言葉に、柳の母親はケラケラと笑う。

「あの子は昔から勘違いされやすいからなー。不愛想だし人見知りだから。ま、アタシにとっては可愛い一人娘なんだけど」

「不愛想で人見知り……?」

 いつも目にする柳の姿には、どうにもリンクしない情報だった。

「たしかに友達が少なそうだなぁとは思っていましたけど」

「あの子自身が、あんまり友達を増やすことに積極的じゃないからねー」

「それにしては、案外俺とは普通にしゃべってくれますけど」

 すると、柳の母親は足を組み替えながら「んふふ」と笑った。

「色気がエグい!」

「素直だねぇ」

 よしよし、と頭を撫でられてしまった。同級生の母親に頭を撫でられる経験なんて初めてで、おそらくこの先起こり得ないことだと思う。柳母はどこか上機嫌そうに先を続けた。

「友達を増やすことに積極的じゃないってのは、友達が欲しくないってことじゃないんだよ」

「全部聞き取れたはずなのに!」

 とても良いことを言ってもらった気がするけれど、理解できなかった!

「ええと……つまり本当は、柳も友達を欲しがっている……?」

「なんだ、わかってんじゃん」

 柳母がふたたび紫煙を吐きながら笑った。

「たまに話してくれるよ。やたら話しかけてくる前の席の男子って、キミのことでしょ?」

「前の席に座っているのは事実なので間違いなく俺です!」

「底抜けに明るくて、クラスでも人気者だって聞いてるよ」

「人気者……?」

 俺が……?

 首をかしげているところに追い打ちが入った。

「あと、やたら正直者だって聞いた」

「よく言われますけど自覚がないんですよね。思ったことをそのまま話しているだけで」

「アタシもいろんな人間を見てきたからわかるんだけどさ」

 吸い殻を灰皿に押し付けながら柳母は続ける。

「人間、なにに対しても不満は抱くもんだ。理不尽な気持ちを持つことだってある。そういうマイナスの感情を隠して他人と関係を深めていく。体裁や建前を取り繕う。一方でキミはどうかなぁ。思ったことをそのまま口にする。それで他人と当然のようにコミュニケーションが取れてしまう。少し話しただけでわかったよ。キミの言葉からは嘘を感じない」

「まぁ、嘘をつくのは苦手なので……」

「ちなみに本物の嘘つきは『生まれてこのかた嘘をついたことなんてない』って言うよ」

「それ自体が嘘すぎる!」

 しかし、言われてみればそうかもしれない。

「両親に『素直に生きろ』と言われていて、それを守っているだけなんですが……」

「あたしもあの子に同じことを言ってきたよ。あの子の場合は口に出さず、心の中でそう思ってるってだけなんだけどね。口下手だから」

「柳、俺に対しては口下手とは思えないくらい口が回るんですけど」

「ってことは、あの子がキミに対して心を開いてるってことだね」

「まさか俺の下心が柳の心を開くとは……」

「男の子なんだから下心があるのは当たり前。むしろ年ごろの女の子は『この男、こんなこと言ってるけど実は下心があるんじゃね?』とか考えながら関係を構築するわけだからさ。その点キミは話しやすいんじゃない?」

「話しやすい、もよく言われますね」

「ちなみに、口が軽いねって言われたことは?」

「口が軽そうとはよく言われますけど、口が軽いと言われたことはないですね。『このことはほかの人に話さないでくれ』と言われたことはきちんと守るようにしてますし」

「そりゃ良いことだ」

 柳母はにっこりと笑いながら次のタバコに火を点ける。

「さっきも言ったけどさ。あの子って素直なんだよね。小さいころに『あたしもママみたいにお化粧したい』って言ってくれてさ。髪色もアタシの中学生のころのマネらしいし。かわいいんだよね~」

「だから柳の化粧って平成中期のギャルメイクなのか……」

「キミのこと褒めておいてアレだけど今のは一瞬イラッとしたぞ~?」

「すみません! 俺たちの母親世代で、早くに柳を出産していると仮定したらだいたいそれくらいのお歳なのかと思っての考察だったんですけどそのまま言いすぎました! ていうか平成中期にティーン世代だった!? 柳ママ若ぁ!」

「気に入ったぁ!」

「危機脱出!」

 ホッと胸を撫でおろす。

 と、俺の前にソーサーと湯気の立つカップが置かれる。

「ほら飲みな。コーヒー好き?」

「あんまり飲む機会ないんで、この機会に好きになれればいいなと思ってます」

「うーん、もっと気に入った」

 ひと口すすってみると、さわやかな酸味が鼻腔を突き抜けた。『にがい』よりも『すっぱい』が勝っているかもしれない。新鮮な味だった。

「ねぇ。これからもあの子と仲良くしてやってね」

 頬杖をつきながら柳母がポツリと漏らす。

 俺はカップをソーサーに置きながら答えた。

「むしろもっと仲良くなりたいと思ってますよ。美人だし」

「あの子の魅力は顔だけ?」

「話すまでは人となりなんてわからないですからね。今は違いますよ。けっこうノリがいいし、気持ちいいタイミングで捻ったツッコミくれるし、きれいな母親もいるし。その母親に『柳は素直な子だ』ってお墨付きももらっているし」

「……なんか、ちょっと安心しちゃった。あの子、悩んでるみたいだったから」

「悩む?」

「学校でよくない噂を立てられてるって。髪色戻したほうがいいのかなとか、化粧やめたほうがいいのかなとかさ」

「見た目に関しては、校則で明確に規制されているわけじゃないから問題ないと思うんですけどね。うちって私立高あるあるの『自由な校風』ですし」

「それもあって受験のときに志望校に入れてたみたいなんだけどね」

「俺も入学して初めて知ったんですが、良い意味で言えば真面目、悪く言えば堅物な生徒が多い学校ではありますね。そういう環境に柳みたいな生徒がいると、たしかに浮いてしまうような気はします。それで悪い噂を立てられるのは不憫だと思いますけど」

「たとえばどんな噂があるの?」

「繁華街で夜遊びしているとか、大人の男の人とよくないことをしてるとかですかね」

「実家が繁華街の外れで、店の手伝いで外出することも多いから仕方ないっちゃ仕方ないんだよねぇ……後者に関しては、ちょっと噂の出所をシメておいてくれる?」

「シメる? 魚の話ですか?」

「そうそう。頭の神経に長い針を刺していい感じに」

 柳母は「はぁ……」と溜息をつく。

「あの子にはね、『なにをするにもあんたに任せる』とは言ってるけど、『自分を安売りするな』って口酸っぱく言ってるんだよねぇ。死んだ父親を悲しませんなよってさ」

「少なくとも、柳はそんないかがわしいことをする人間だとは思っていませんよ。周囲の誤解を解く手助けが欲しいと言われたら、いつだって協力するつもりです」

「んふふ」

 俺の発言に、柳母は妖艶な笑みを浮かべる。

「あの子がキミに心を開いた理由がわかった気がする」

「正直者で裏表がないから、ですか?」

「そう。もっと踏み込んで言うと、父親に似てるからじゃないかな。あの人も嘘がつけない人だったからさ」

 そう言って柳母は遠い目をする。

 思ったことはなんでも口にする俺が、なにを話せばいいのかわからなくなった。

 けれど、たぶんこれでいいのだと思う。相手がどんな気持ちなのかわからない。察することができないのなら、相手の思考がまとまるまで見守る。これが俺の素直な選択だ。

「ただいま……げっ、まだいた」

 入店ベルが鳴り響き、入り口に視線を向けると、袋を手にぶらさげた私服姿の柳が立っていた。オーバーサイズのパーカーに黒色のスキニーパンツ。柳の細い脚のラインが強調されたシンプルかつスタイリッシュなファッションだった。

「私服だと雰囲気変わるんだな」

「制服姿がコスプレに見えるってこと?」

「論理が飛躍しすぎている!」

 俺たちの会話を聞いた柳母がケラケラと笑う。

「ママ笑いすぎじゃない? 変な話してたんじゃないの?」

「この子とあんたが仲良くなったきっかけを根ほり葉ほり聞いてただけー」

「仲良くないっ!」

 柳はぷんすか怒りながら奥へと引っ込んだ。そこで柳母がこちらを向く。

「ねぇ。大人としてひとつ忠告があるんだけど」

 やけに神妙な語り口だった。

「正直者は他人の悪意に付け込まれやすい。気を付けなよ」

「具体的に、どう気を付ければよいでしょうか?」

 すると、柳母はこう答えた。

「突っ走らないこと。誰かに相談すること。あとは……自分と同じように、素直な人を隣に置いておくことかな」

 そう言って、店内に戻ってきた柳と俺を交互に眺めていた。



 翌日の昼休み。教室でいつものように後ろの席に向けて語り掛けていた。

「柳、俺はお前にかかわる噂がすべて本当だという前提でお前に話しかけていた」

「知ってる。あんたが全部言ったから」

 柳もぶっきらぼうに答える。いつものように。

「でも柳と話す中で、お前にかかわる噂が根も葉もないものだと確信した」

「そりゃどーも」

「単刀直入に聞きたいんだが、お前は現状をどう思ってるんだ? 根も葉もない噂を立てられて、それを訂正できないまま3年生になって」

「……別に、なんとも」

「ちなみに柳ママは『柳が悩んでるみたいだった』と言ってた」

「ママのばかぁ……」

 顔を伏せる柳。俺はその後頭部を眺めながら、根本がちょっと黒くなってるなぁ。黒髪の柳も見てみたいなぁ……などと呑気なことを思った。

「黒髪の柳も見てみたいなぁ」

「なんの話!?」

 ふたたび顔を上げた柳は、小さな声でぼそぼそと語り始めた。

「……そりゃ良い気分じゃないけど、あたしは噂されてるようなことを実際にしてるわけじゃないし、実害はないから。それに……噂がぜんぶ嘘だったことがわかったら、今度は噂を流し始めた人にヘイトが向くじゃん。そのほうが嫌だし」

 正直、予想だにしなかった返答だった。

 柳は……自分を悪し様に語る人間に対して、思いやりを持っているのか。


 正直者だと言われる俺よりも、よっぽど心が綺麗だ。


「柳が美人なわけだ」

「その反応はおかしくない!?」

 思わずいつものように感想をそのまま口に出してしまったのだが、反応した柳の声色はどこか上ずっているように聞こえた。ともあれ、会話を本題に戻す。

「お前が我慢しなきゃいけない理由はないだろ」

「そうかもしれないけど。別に……どうせあと1年通えば高校生活も終わるし」

「1年は長すぎる。ここまで2年我慢してきたからあと1年増えたところでかまわない、なんて単純に消費していい時間じゃないと俺は思う」

「……あんたの言葉、ちょっと刺さりすぎるわ。あたしに」

「もし傷つけているならごめん。謝る。ただ、俺は柳に相談しているつもりなんだ」

「相談……?」

 俺は柳の目を見て先を続ける。

「俺は、お前みたいな良いヤツを我慢させていると知りながら、貴重な高校生活の最後の1年間を手放しで楽しむなんてできない。どうすればいいと思う?」

 すると、柳はきょとんとした表情を見せた後、

「……なにそれ、ダッサ」

 と、微笑んだ。

「ばーか。ありがと」

 柳を放っておけない。それこそが俺の本心だと、柳にはきっと伝わっているはず。

「俺のために、柳の噂の出所を辿って、ケリをつけてきてもいいか?」

「……好きにすればいいんじゃない?」

 予鈴が響く。昼休みが終わろうとしている。

 一時の騒がしさを見せる教室の中で、俺は柳に問いかけた。

「俺は柳に高校生活を楽しんでもらいたいし、俺も一緒に楽しみたい。なにか、いまのうちにやってみたいことはないのか?」

「強いて言うなら、イケメンの彼氏が欲しいかな」

「なんだ、案外普通の望みだな」

「ちなみにあんたはイケメンじゃない」

「そうですか」

 俺は振り返って黙々と次の授業の準備を始める。

 おかしいな、視界が滲むぞ?



 それから1週間、俺は知り合いに声をかけては噂の出所を辿った。柳母から「キミって人気者なんだってね」といったようなことを言われたが、尋ねた相手がみんな快く情報を提供してくれたあたり、俺がこれまで築いてきた人間関係は間違っていなかったのかもしれない。

 思えば妙な話である。

 柳の噂はすでに1年生のころから出回っていたと記憶している。

 しかし、入学まもない1年生のうちに浸透した話が、なんの変化もないまま時を経て3年生の現在まで伝わっているのだ。人の噂も七十五日……原義的には『人間の噂なんてひとつ季節を過ぎれば忘れ去られるものだ』ということわざには反している。

 つまり、誰かが故意に、そして定期的に噂をバラまいている。

 そうした仮説を持って、「最近、柳の話を誰から聞いた?」といったふうに辿って行ったところ、あるひとりの人物に行きついた。

 そして――。

 そいつは今、目の前に立っている。

 俺たち以外に人のいなくなった放課後の教室で、決意を込めて静かに語りはじめる。

「考えてみれば妙な話だったんだよ。柳をターゲットにして得をする人間は誰なんだろうってな。あいつは遅刻や早退こそ多いが、周囲に迷惑をかけるタイプじゃない。見た目にしか特異性がないんだ。髪を染めていて、派手な化粧をしている。明確な規律のないこの学校において、暗黙の規範を乱していると捉えられなくもないよな。そして、そういった派手な外見の人間を排斥することによって、必然的に周囲からは得意性が剝がれていく」

 俺の言葉に、目の前の相手は口角を上げて答えた。

「なにが言いたい?」

「品行方正、才色兼備、誰にでも友好的なお前が、まさか『他人の悪評を流布する』なんてことをしているなんて思いたくなかったよ――委員長」

 すると、委員長はいつもと変わらない笑顔で答える。

「品行がどうとか、才色がどうとか、そんなもんは他人から見た私だろ? 私自身がどう思ってようが、他人の目に私がそう映っているのであればそれが真実ってわけだよ」

 ふと脳裏に、以前柳と交わした会話が浮かんだ。

『裏表のない女子なんていないんだよ。ま、裏表のないあんたにはわかんないだろうけど』

「……女子高生が言うんだから間違いない……ってのも皮肉だな」

「なんだそりゃ?」

「こっちの話だよ。友達との会話の記憶だ」

「ふうん」

 委員長はさして興味なさそうに呟く。

 社交辞令や揺さぶりは性に合わない。俺は本題を切り出した。

「なんで委員長がわざわざ噂話を流す必要が?」

「流したんじゃない。流れたんだよ。私はドミノの1枚目を倒しただけだ。噂の火種……つまり伝聞情報と、整合性のある視覚情報があれば、おもしろいくらいに勝手に広まっていくもんなんだよ」

「なんで楽しそうに言うんだ?」

 決して面白い話じゃないはずなんだが。

「楽しい? 楽しいわけないだろ。私はやむを得ない選択をしただけなんだから。楽しそうに見えているのなら……この笑顔が癖になってるだけだ」

「……じゃあ、俺たちに見せてくれていたのは、ぜんぶ作り笑顔だったってことか?」

「そりゃそうだ。お前にはわからねえだろうな。人間は素直なだけじゃ生きられない。素直なだけだといずれ排斥される。だから取り繕う。そんな私を勝手に『委員長』と持ち上げたのは周囲のやつらだろ。私の気も知らないで」

 心なしか、委員長の言葉に余裕が無くなってきた気がする。

 必死だったんだろうな、こいつも。

 でも……それとこれとは話が別だ。

「どうして柳をターゲットにした?」

「私は委員長として、風通しの良いコミュニティを作るために尽力する必要がある。そしてコミュニティには『共通の敵』を作ることで結束が強まる性質がある。規則の存在しない学校において、暗黙の了解を守らない人間は『敵』に仕立てやすく、円滑に生徒間の交流を深める上でも好材料だろ? 噂話が会話のきっかけになることなんてたくさんあるじゃねえか」

「そうなのか」

 さすが頭の良い委員長だ。

 俺にはまったくわからない分野の話だが、そこはかとなく納得感がある。

「で……ほんとうに、それだけか?」

「なんだ? やけに疑うじゃないか」

「さっき委員長は『私を委員長と持ち上げたのは周囲のやつらだ』と語った。でもな、クラス委員長の決め方は自薦だろ」

「…………」

「幸か不幸か、裏表のない女子なんていない……って、友達に教えてもらったんでな。裏の裏があるんじゃないかと勘繰っているだけだ」

「……ふふ。どうだろうな」

 委員長は焦ったように声を震わせる。

 俺はふと、思ったことを口にした。いつものように。

「委員長が委員長であり続けたのは、たとえば内申点のためだったりしてな」

「…………ッ!」

 委員長の瞳孔がきゅっと窄まるのが見えた。

 柳母の『突っ走らない』という忠告を思い出す。

 見えたものの、あえて指摘はしない。

「もしも。もしもだが、そんな個人的な理由で柳に関する噂の火種を作ったとしたら……俺は委員長のこと、心から軽蔑しちまうけどさ」

 返答を待たず、矢継ぎ早に先を続ける。

「いずれにせよ、柳自身がことを荒立てたくないと言っているからこれ以上追及するつもりはないし、委員長が発端だったという話を振りまいたりもしないよ。俺は見えているものしか信じられない単純な男子高校生なんだ」

 そう言い残して、俺は振り返らずに教室を後にする。


 人の噂も七十五日。

 偏見は根強く浸透したままかもしれないが、それでも新たな火種が生まれなければ、柳に残った1年間の高校生活は、少しだけ明るいものになるんじゃないだろうか。



「あっそ」

 俺がことの顛末を伝えた際、柳から帰ってきた答えはそのひと言だけだった。

「ほんとうによかったのか?」

「……なにが?」

「てっきり、噂を訂正して回るところまでを含めて贖罪とするのかと」

「贖罪って。委員長は噂話を作っただけでしょ。前にも言ったけど、その程度のことで教室の雰囲気がギスギスするのはイヤ」

 柳はそう言うと、荷物を手早くカバンに詰め込んで席を立つ。

「やけに急いでるな」

「ママが用事あるからって、これから店に立たなきゃいけないわけ。夜からは交代するけど」

「柳、コーヒーなんて淹れられるのか?」

「そりゃ一流のバリスタみたいなのは無理だけど、うちってそういう店じゃないし」

「そういうもんか」

 俺も連れて席を立つ。

「ねぇ、今日うち来る?」

「ねぇ、今日うち来る? って聞こえたんだが幻聴か?」

 俺が聞き返すと、柳はポリポリと頬を搔きながら、

「ママがあんたのこと気に入っちゃってさ。次いつ連れてくるの? ってうるさいんだよ」

「確かに『気に入った!』とは言われたけど……そうか」

 足並みをそろえて校門へ向かいながら、俺は答える。

 このやりとりが、柳にとっての楽しい高校生活の一部になればいいなと思った。

 いつものように、本心から。

「もちろん行く。なぜなら下心があるからな!」

「なんでちゃんと言った!?」