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アイスランド旅日誌 (6)

11月23日(2日目の夜)
朝8時からゴールド サークルへのバス ツアーで、戻ってきたのが午後4時過ぎ、しばらくホテルの部屋で休憩して夜の部に備えます。アイスランドの夜のイベントと言えば、そうオーロラです。

夜の部は始まるのが8時30分。オーロラを求めて船に乗り、沖へ出てオーロラの劇を楽しもうという計画です。で、その前に食事を済ませておこうと港の名物レストランへ。7時半にはその “Seabaronシー バロン“(海の男爵) へ入りました。

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“男爵“ などという大仰な名前ですが、行ってみると外見は単なる倉庫ですね。ふーむ、僕は念のために辞書で baronを調べてみました。そうすると「男爵」という意味はあるのですが、別にまた「大物」という意味もあるのですね。麻薬界の大物とか。どうもそちらに近い雰囲気でした。ここは新鮮な海産物をいろいろと食べさせてくれると思いきや、客が注文するのはほとんどがロブスター スープ。この店の名物です。

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ところで質問です。南の方ではこの光のことを「オーロラ」と言う、はい、本当か嘘か。(え?)と思いますでしょ?これは実際に僕らが参加したツアーで、余興として出された質問です。答えはもちろん「本当」なんですが、そういうことがクイズとして出されるほどにオーロラという言葉は知られていません。それでは北欧の人々はなんと言っているかというと、Northern Lightノーザーン ライト(北方の光)です。実際、僕らのツアーの名前は Northern Lights by Boat というものでした。ここでは僕らが普通に言っているように Auroraオーロラで通しますが、北欧では単に「北方の光」だそうです。北があれば南もあるわけで、オーロラは北極圏と南極圏で見られるのですね。Northern Light(北方の光)と Southern Light(南方の光)、二つを合わせて Polar Lightポラー ライト(極光)です。オーロラと言うのは「曙、夜明け」を意味するラテン語、もとは女神の名前だそうです。

Googleで詳しいことを知ることができましたが、オーロラというのは簡単に言うと「太陽の活動によって引き起こされる大気の発熱・発光現象」なんですね。太陽はその活動のゆらぎによって不定期に粒子を宇宙に発散しているのですが、これがおよそ500秒で地球にも到達し、磁力によって南極と北極に集中して上空から降り注ぎます。この粒子が落ちてくる時に熱せられた大気が発する波長が、写真のような緑色に輝く光となるのですね。つまり、冬の夜空に輝く緑色の光のカーテン、太陽から地球までのおよそ 500秒(8分19秒)の旅路の結果がオーロラなんですね。写真を見て、この緑色のカーテンが揺らぐ様子をじっと想像してください。神秘的ですね。

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この写真、実は僕が撮ったものではありません。(Photo by roughguide.com) 僕はとてもこんなにいい写真は撮れません。^^;

さて、ツアーに向かいましょう。スープで身体は温まったものの、とにかく港は寒いです。しかも海がすぐそばで風が強いのでよほど用心しないと危なくてしょうがない。しかも道路は黒く濡れて、あちらこちらが凍っている。滑らないように足元を見ながら恐々歩いていたら、直美は遠く離れて閉まって、しきりに手招きをしている。見ると僕が向かっていた船は、ツアーの船とは違っていたらしい。それよりも近いところにもう1隻の船がありました。そちらがツアーの船だったのですね。方向を変えてまた恐々歩くのでした。

などいろいろあって、とにかく乗船。客室の方へトントンと降りていくと、ベンチや椅子があって、奥の方に防寒着がたくさんぶら下げられています。「ご自由にどうぞ」というのでしょう、さすがに寒さ対策はしっかりしているようですが、ぶっきらぼうではありますね。防寒着を着る前に、まず2階上の甲板に昇ってみました。

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風の吹き晒しで、暖房なし。寒いです。防寒着のありがたさかな、僕らは下に降りて、早速着てみました。この暖房着を身に付ける前にすでにスキー ジャケットで着膨れているのに、さらにその上にゴム製の防寒着です。

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やがて9時、100人くらいの客を乗せた船は 30分くらい沖に出て、街の灯りが届かないところで停泊、僕たち乗客は甲板に出て夜空を見上げてオーロラを探しました。空は残念ながら曇っています。薄く白い雲が広がって、雲が厚くなっているところは黒い雲、薄い雲が一層薄くなって黒くなっているところは晴れ間でその向こうが漆黒の空、(オーロラが見えるとすればそこらかな)、と目星をつけておよそ3時間、そうやって海の寒風を受けながら夜空を見上げていました。夜空にはサーチライトが一筋天空の夜空に向けて放たれており、この光だけが動くことなく雲の一点を照射し続けているばかりでした。

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そうやっている時に「あっ、あの光、少し緑色に見える」それは一片の雲のようなものでした。「あ、少し曲がってきた」という会話をした時に見たもの、これがオーロラだったと思います。真っ黒い夜空にうっすらと灰色の雲が広がり、その一部の、遠い空の方に感覚としてほんの数センチの非常に薄い緑色っぽいもの、最初は直線に見えたものが徐々に「く」の字に曲がって消えた。これが1分間ほど、たぶんそれがオーロラだったのです。
そんなものなのでしょう。甲板では非常に寒くて防寒のゴム服を着込んでいましたが、それでも顔の肌は冷たくなります。僕たちは船室に降りて、どっかりと椅子に座り込みました。ごわごわの防寒服のせいで自由には動けず、しばらくそうやっていたらスピーカーが「今、遠くの方に見えているのがオーロラみたいですねぇ」という呑気そうな案内を放送しました。

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でも、僕はもう甲板へは上らなかった。充分でした。太陽から身をよじるようにして宇宙空間に舞い上がり、500秒の時間を掛けて地球に到達したエネルギーが地球の磁極に降り注ぐ、そのドラマを想像するだけで充分でした。そこではワーグナーの楽劇の序曲が鳴り響き、同時にまた沈黙が揺らいでいるという不思議な時間が流れているのでしょう。そういう想像を巡らし、宇宙の中の世界、その中の一人という自分の存在を思いみるだけで充分でした。

これが僕たちの Northern Lights by Boat ツアーでした。やがて船は岸壁に戻り、僕たちは凍てついた陸地に降り立ちました。やっぱり港の風は冷たいです。深夜に3時間ほど海上に出て、結局オーロラを見ることはできませんでした。これはやっぱりこの旅行での一番の期待だったので残念ではありました。そういう想いを抱きながら、またそう簡単に見られないことに納得しながら、凍てついた暗い道を背中を屈めてホテルまで歩いたのでした。時間も相当に遅く、すでにフロントのドアは閉まっていて、ドアの横のベルを鳴らしてやっとドアを開けてもらえました。
部屋に入ってシャワーを浴びたら午前1時を過ぎていて、気温は摂氏1度。窓の外には正面に夜の空が大きく見えます。しかし、やっぱりオーロラは見ることはできませんでした。


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