【文字起こし】枝野幸男魂の3時間大演説(2018年7月20日 安倍内閣不信任決議案)

✳︎本記事は演説内容をより早く広めるために演説当日の7月20日から無料公開してきましたが、書籍「緊急出版!枝野幸男、魂の3時間大演説 『安倍政権が不信任に足る7つの理由』」の発売にあたって、8月6日23時より不信任理由2以降は有料公開に切り替えました。
全文を読みたい方は、脚注や解説も付いて演説内容をより深く理解できる書籍の購入をオススメします。




事実上の会期末を迎えた2018年7月20日、野党は安倍内閣不信任決議案を提出し、否決された。この趣旨弁明で立憲民主党・枝野代表は不信任理由を7項目に分けて、2時間43分にわたって演説した。これは今年5月25日に同党・西村ちなみ議員が厚生労働大臣不信任決議案の趣旨弁明で記録した2時間6分を上回る最長記録である。
しかも、簡単なレジュメはあったようだが、原稿を事前に用意しておらずほぼ即興でこの長時間をしゃべり切った
本記事では、この趣旨弁明を文字起こしする。

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不信任案提出理由の概要
(0:00〜12:24)

枝野代表:
今般の豪雨災害でお亡くなりになられた方々に哀悼の意を表します。
また、被災されたすべての皆さんに心からお見舞いを申し上げます。発災以来、消防、警察、海上保安庁、自衛隊、そして自治体職員や消防団の皆さんなど、さらには各地からボランティアの皆さんが被災地にお入りを頂き、猛暑の中、被災者の皆さんのためにご尽力を頂いています。そうした皆さんにこの場を借りて心からの敬意と感謝の意を表したいと思います。

こうした被災地の皆さんは猛暑の中で今なお行方不明の方の捜索。そして、復旧に向けた努力をされていますが、連日続く猛暑はもはや自然災害と言っておかしくないと思います。学校での活動中に亡くなられた小学生を始めとして熱中症などで猛暑で亡くなられた方々にも心から哀悼の意を表する次第であります。

これよりわたくしは国民民主党・無所属クラブ、無所属の会、日本共産党、自由党、社会民主党・市民連合、および立憲民主党・市民クラブを代表し、安倍内閣不信任決議案について提案の趣旨を説明いたします。
まず、決議案の案文を朗読いたします。本院は安倍内閣を信任せず、右決議(みぎけつぎ)する。

この後、順次述べさせて頂きますが、安倍内閣が不信任に価する理由は枚挙にいとまがありません。大きく括っても7項目、不信任の理由があります。ただ今回、不信任案の提出には若干の躊躇(ちゅうちょ)の思いがあります。それは豪雨災害などへの対応が現在進行形であるという現状にあるからであります。

わたくしどもは野党5党1会派一致をいたしまして、7月9日の午後、総理大臣宛の申し入れを官房長官へとお伝えをいたしました。
その申し入れは、「この7月豪雨災害について最大級の災害である」と。救命救助を待っておられる方も多い状況であり、天候によってはさらに事態が深刻化する可能性があると。全国各地に被害が及んでいること。そうした事情を挙げまして、行政府、立法府が一体となって取り組む体制を整えることは当然であると致しまして、政府に対し、この災害対応を最優先に取り組むべきであり、防災担当大臣や国土交通大臣など関係大臣は災害対応に全力で取り組むよう申し入れをさせて頂きました。
同時に野党としても可能な限り協力をさせて頂く旨も伝達させて頂きました。特に災害対応の中心を担う国土交通省、国土交通大臣はいわゆるカジノ法案の途上であり、初動以来大変なご尽力を頂いている消防を所管し、そして被災地の自治体の皆さんは連日不休の対応にあたっていられる。その実態を支援するのは総務大臣でありますが、総務大臣は選挙制度を所管しておられる。カジノ法案も選挙制度についても、いま急いで決定しなければならない案件では到底ありません。

我々は両案とも廃案にすべきであるというのが本来の主張でありますが、せめて継続審議にして災害対応がある程度の見通しが立った段階で臨時国会を開けば、いくらでも政府与党の立場に立ったとしても間に合う法案であります。
にも関わらず、災害対応を放り出して、この2つの法案審議を優先させたのは何なのか。
よほど臨時国会を開くのがイヤなんでしょうか?
それとも総裁選の日程の方が大事なんでしょうか?

わたくしどもはそう受け止めざるを得ません。

我々野党は会期末で時間のない中ではありましたが、義援金に対する差し押さえを禁止するための特例法は昨日のこの本会議で与野党一致で協力して成案を得て、可決をしました。やるべきことは急いでやる。そのことに協力をしてきているところであります。
カジノやお手盛りの選挙制度をやるくらいならば、例えば野党各党は今年の3月に被災者生活再建支援法と災害弔慰金支給法の一部改正案を国会に提出していますが、川流しにした上にこの災害の裏側で国会を開いていながら、こうした法案の審議に応じていないのは与党であります。

災害時における大臣の役割は大きなものがあります。緊急な災害時においては、まさに様々な前例のないこと、前例の少ないこと、様々なことが生じてきます。行政の皆さんだけでは前例を越えて対応する決断することにはなかなか困難があるのが実態であります。だからこそ災害などの緊急時においては前例主義にとらわれず、政治責任を持つ政治家がしっかりと役割を果たしていく体制が求められています。

いわゆる赤坂自民亭と言われる問題は、まだ特別警報が出ていなかったなどの言い訳をされている方もいるようですが、自衛隊の対応なども動き始めている状況で一議員の皆さんがされていたのではありません。指揮すべき立場である総理や防衛大臣、官房副長官まで参加し、しかも、そのあと、反省の姿勢が全く示されていません

あえて申し上げますが、一部に同じような時期に開催された立憲民主党議員の会合を同一視して批判する向きもあります。
しかし、緊急時に執行権限を持ち、判断をし、指揮すべき総理や防衛大臣や官房副長官の責任は野党議員と一緒なんですか?
あるいは野党議員にそうした判断、決断をさせて頂けるのですか?

(野次がおさまらないため、枝野氏、30秒ほど黙り込む)

大島議長:
趣旨弁明を続けてください。

枝野代表:
(後方の議長席へ振り返って)
黙らせて下さい。

大島議長:
続けて下さい。

枝野代表:
黙らせて下さい。

大島議長:
続けて下さい。

枝野代表:
黙らせてください!
(いっこうに野次を注意しない議長に対して)
黙らせて下さい。 
黙らせて下さい!

大島議長:
ご静粛に!
(野次がいったんおさまり)
どうぞ続けて下さい。

枝野代表:
ちなみに申し上げますが、指摘されています我が党の会合は議員や政治家の内輪の懇親ではありません。外部の方が参加する会であり、わたくしも参加しましたが、挨拶だけで短時間で退席しております。議員が集まって盛り上がっていたとツイートされるような会合とは趣旨も内容も全く異なっております。

それだけではありません。
明らかにこの災害に対する初動は大幅に遅れています。7月5日午後2時ごろ、気象庁は異例の記者会見を行って、そこから66時間
8府県に特別警報が発令されるという前例のない事態となり避難勧告の対象が23府県264万人に達し、死者・行方不明者の報告も多々入っていた7日の午前0時を起点としても丸一日以上経過した8日の午前8時まで非常災害対策本部が設置されておりません。
「空白の66時間」という指摘もなされています。赤坂自民亭の問題をあわせ、初動の遅れを指摘されても止むをえない状況ではないですか?

まだまだ、まだまだ緊急対応の状況が現地は続いています。
したがって詳細な検証は落ち着いてから厳しくさせて頂きたいと思いますが、少なくともこうした批判に対して謙虚な姿勢が全く見られないというのは深刻な問題ではないでしょうか。

大島議長:
(野次に対して)ご静粛に。

枝野代表:
こうした初動についての指摘を受ける中で、カジノや恣意的な選挙制度の改悪を災害対応に優先させたその一点をもっても不信任に値すると考えます。むしろ、この災害対応を加速させるためにも安倍内閣は不信任すべきである。そういう思いの中で今回、不信任案を提出をさせて頂きました。

大島議長:
(野次がおさまらないため、上記の枝野氏の発言途中で)ご静粛に!

不信任理由1「高度プロフェッショナル制度の強行」
(12:25〜25:23)

枝野代表:
それでは、ここから大きく7つ安倍内閣の不信任に値すべき事項について、お話をさせて頂きたいと思います。

まず第一は、過労死を増やすことになる、国民の命を危機にさらす高度プロフェッショナル制度を強行したことであります。この問題の本質は労働時間規制が及ばない労働者をつくるということにあります。そもそも、近代労働法制というのはどこから始まったのか。1日8時間労働が原則であるという、その原則を法制し、しっかりと守らせる。それこそが労働法制の世界における近代社会としての大前提であります。

高度プロフェッショナル制度は様々な言い方をしていますが、この近代国家においては大前提である、労働者の労働時間はしっかりと把握・管理し、1日8時間労働が原則である、8時間を労働に、8時間を睡眠に、残り8時間をそれぞれの自由な時間に。それこそが人間らしく生きるための最低限のベースであるというのが近代社会の大前提である。

この制度の外側に置く労働者をつくるというのがこの高度プロフェッショナル制度の本質であります。結果的に長時間労働させ放題になる。我々は当初、残業代ゼロ法案と言っておりましたが、もっとわかりやすく言えば、定額働かせ放題の制度である。
携帯電話やスマートフォンであれば定額使い放題は大変便利な制度であります。しかし、まさに使い放題だからこそ、どれぐらい使っているかということを気にせずに使えるからこそ定額使い放題制度は情報通信の世界で大変広く広まり利用者にとっても便利な仕組みとなっています。

これを労働の分野、人間の働くという分野に持ち込もうというのが、この高度プロフェッショナル制度の本質、実態であります。どんな言い訳をしても、どんな説明をしても、いや私も使用者の立場であるならば支払う賃金が同じ金額ならば、できるだけ多くの課題をその人間に負荷して、できるだけ長い時間を働いて頂いて、できるだけ多くの成果をあげて頂こうとするのは、むしろ当然のことであり、否応なく長時間労働に繋がるということは、誰がどう見ても明らかな問題のある制度であります。

しかも、労働管理自体を従来の労働と違って、しっかりとした管理をしないという仕組みになっています。したがって長時間労働の結果、過労死などの残念な事態が生じた場合、現在の仕組みのもとでも実際の労働時間を立証する、それによって過労死であったことを立証する、これはこうした問題に直面せざるを得なくなった遺族の皆さん、それを支える弁護士にとっては現状でも大変困難な実は案件であります。
にも関わらず、そもそも労働時間管理自体を原則取っ払ってしまう高度プロフェッショナル制度のもとで長時間労働による過労死が生じても、これが過労死である、長時間労働の結果であると証明することが、はなはだ困難になってしまいます。しかも、自己管理による自己責任であるという最近お得意の論法で労災などの認定を受けられないという結果にも繋がりかねません。明らかに過労死・過労自死促進法であることは論を待ちません。

安倍総理はかつて過労死を防ぐ法律をつくろうという時には過労死の遺族とお会いになり、お話をされました。二度と過労死を出さないという決意を示されました。
そうした皆さんが
「この法案は問題である」
「自分たちと同じような辛い思いをする」
「亡くなってしまった人は戻ってこない」
「そうした人たちを増やしてしまう」
という強い危機感を持って、もう一度総理に直接聞いてもらいたいということを一顧だにもせず強行したこの姿勢はなんなんですか。
褒めてもらえそうな都合の良い時だけ顔を出すけども、厳しい指摘を受けそうな時には逃げる。まさに卑怯者のやり方ではないでしょうか。

そもそも高度プロフェッショナル制度には様々なウソが前提となって議論が進められたという大問題があります
そもそも、この制度は
「1075万円以上の年収のある人にしか適用されない」
「ほとんどの労働者には関係がないんだ」
という前振りのもとに議論が進められました。しかし、野党各党の国会における審議を通じて、そもそも法律には金額の明記がないこと。これは読めばわかる話です。その1075万円という金額の算定の中には様々な諸手当も含まれる解釈が成り立つこと。そして、何よりも問題なのは審議の途中から「いずれこれは引き下げいくんだ」ということが各界、各省、議員の中からも出てきているという話であります。

ウソという意味では追求しなくてはならないのでは、不適切データの問題であります。総理ご自身が不適切、むしろ捏造と言っていいデータにもとづいて「裁量労働制で働く人の労働時間は一般労働者より短いというデータもある」と総理ご自身がおっしゃったんです。撤回をし、「厚労省のデータが悪いんで俺は責任が無い」と例によっての責任逃れをおっしゃっていますが、実は撤回をした後にも、さらに200件以上の不適切データが発見をされています。衆議院の委員会採決の当日の朝にも新たな不適切データが発見されたということはこれまで何度も指摘をされているところでありますが、にも関わらず、審議を強行し、採決を強行しました。

事実に基づかない、誤ったデータに基づいて議論を進める。こんなことは近代国家ではありえないことであります。行政の内部における経緯(いきさつ)は色々あるのかもしれませんが、総理ご自身が裁量労働制や高度プロフェッショナル制度などの、いわゆる残業代を残業時間に応じて支払うわけではない制度を導入するにあたって、この誤ったデータを引用して正当化する発言をしていた以上はこの法案の前提の事実が、事実でなかったということでありますから当然のことながら今度は正しいデータをとり、そのデータをしっかりと分析をした上で議論をし直すのが当たり前のことじゃないですか。

安倍総理はあるいは政府の皆さんはこの高度プロフェッショナル制度について「ニーズがあるのか?」と問われ、
「やりたくない企業や労働者はやらなくていいんだ」
「希望している人もいるんだ」
という答弁をされました。
しかしながら、労働者側のニーズを示す客観的な根拠はありませんでした。ヒアリングは10名程度の事後的なアリバイづくりのようなものに止まっています。所詮は企業側の論理にもとづく一方的な制度の導入であるということは既に議論を通じて明らかになっています。

しかも、企業側が導入を求めた時、残念ながら今の日本の社会風土、職場風土の中で、本当にこれを拒否できる労働者がどれぐらいいると思っていらっしゃるのでしょうか。残念ながら会社側から強く求められれば、本人はイヤであっても受け入れざるを得ないというのが現実の日本の職場風土であるということを総理も厚生労働大臣もご存知ないんでしょうか?
 「希望しない人は制度を取らなければ良い」という言い訳は全く説明になっていません。

今回の労働法制は長時間労働の是正という大義のもとに行われています。残念ながら野党各党の強い反対を押し切って成立した後も、長時間労働の是正という大義を総理が掲げておられます。労働者側のニーズもなく、長時間労働に繋がる高度プロフェッショナル制度を推進するのは「看板に偽りあり」と言わざるを得ません。失われた命は戻りません。過労死・過労自死で家族を失われた皆さんの悲鳴とも言っていいような声は野党の同僚議員がこの本会議場でも全ての議員の皆さんに向かってお伝えをさせて頂いた。わたくしも目頭が熱くなりました。

✳︎同僚議員が本会議場で伝えた遺族の声とは、2018年5月25日に西村智奈美議員が2時間6分にわたって演説した、加藤厚生労働大臣不信任決議案の趣旨弁明の終盤の内容を指す。当日の文字起こしはリンク先を参照


この高度プロフェッショナル制度で長時間労働を余儀なくされ、命を失う方が出た時に誰がどう責任を取るんですか?
私たちは残念ながらこの国会で形式的に高度プロフェッショナル制度は成立をしてしまいましたが、人の命に関わる問題です。決して諦めることはありません。1日も早く衆参両院で高度プロフェッショナル制度に反対する勢力が過半数を取り、1日も早く廃止する決意を皆さんに申し伝えたいと思います。

また、この制度が形式的に当分続く間も我々は様々な皆さんと連携をしながら、実際にこの制度を導入する企業が生じないように厳しくウォッチをし、もしそうしたものが見つかった場合は国会内外で厳しく指摘をしていく。そのための監視活動を全力を挙げて取り組んでいくことをこの場で申し上げたいと思います。


✳︎以上が演説の冒頭25分です。残り2時間18分にわたって述べられる6つの不信任理由は有料公開とさせて頂きます。

✳︎続きを読みたい方は本記事ではなく、書籍「緊急出版!枝野幸男、魂の3時間大演説 『安倍政権が不信任に足る7つの理由』」の購入をオススメします。脚注や解説が付いており、より深く演説内容を理解できます。
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