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茶の湯と利休 【歴史奉行通信】第二十八号

こんばんは。
すっかり空気が秋めいてきましたね。
皆様は、いかがお過ごしですか。

いよいよ明日18日、
最新作『男たちの船出』が発売されます。

この作品は8/11に開催した
読書会でも取り上げました。

その日、
次々と読書会の会場入ってくる方々が、
満面に笑みを浮かべて

「素晴らしい人間ドラマだった」
「男たちの生きざまに感動した」

といった言葉を口にしていただけたことが、
今でも思い出されます。

この作品は、私のミッションでもある

・「自らの仕事や立場に誇りを持ち、
国を造った男たちの足跡を後世に伝える」

・「それぞれの時代の情熱を描き出し、
現代を生きる者たちの指針とする」

・「歴史から学ぶという言葉を、
小説として具体化していく」

という三点を、

しっかり踏まえた作品になっています。
いつも歴史奉行通信を応援してくださる
皆様に、
ぜひ読んでいただきたい作品です。

それでは、
伊東潤メールマガジン
「第二十八号 歴史奉行通信」を
お届けいたします。

〓〓今週の歴史奉行通信目次〓〓〓〓〓〓〓

1. 利休視点で描いた『茶聖』、
弟子視点の『天下人の茶』

2. 「アサヒ芸能」インタビュー記事
(2016年2月発売号)

3. 利休の存在の大きさ

4. 伊東潤Q&Aコーナー

5. お知らせ奉行通信

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1. 利休視点で描いた『茶聖』、
弟子視点の『天下人の茶』

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私は今、地方新聞15紙+夕刊フジに
『茶聖』という小説を連載中です。

この作品は、
戦国時代の真っただ中を走り抜けた
千利休の生きざまと死にざまを、
利休視点で描いています。

利休は武力を用いずに
天下をコントロールしようとしました。
そこにはどのような目的があったのか――、
そして、あのような死に方を
どうしてせねばならなかったのか。

それを追究したのが『茶聖』です。

さて、戦国時代を勉強していくと、
どうしようもなく大きな存在に
感じられたのが茶の湯でした。

史料をあたっていると、
随所に茶の湯に関するものが出てきます。

安土桃山時代に入ると、
その存在は文化の中心と
言ってもいいほど大きくなり、
最後は風船が爆発するかのように、
利休の死によって終焉を迎えます。

その後も古田織部によって
茶の湯の余燼はくすぶっていきますが、
それも大坂の陣最中の
織部の切腹によって終わり、
その後に続いた小堀遠州の
「きれいさび」という炭酸の抜けた
コーラのようなものへとつながり、
やがて日本文化の一つの座に
収まっていきます。

利休、織部、遠州と続く
茶の湯の政治への影響力は、
自然にできたものではありません。

そのきっかけこそ信長が作りましたが、
その死後は、利休が秀吉の協力を得て
完成したものです。

しかし秀吉と利休、
そして家康と織部の関係も
最終的には破綻します。

そこには、どうしても
そこに行き着かねばならない政治と
茶の湯の宿命があったのかも
しれません。

利休は茶の湯という武器を使い、
何のために天下を操ろうとしたのか。

かつて私はそれを描こうと、
弟子たちの視点から連作短編集
『天下人の茶』を上梓(じょうし)しました。

幸いにして、この作品は
直木賞候補になるほど評価されました。

ただ利休の本心が垣間見られそうで
垣間見させないという「寸止め」
のような手法が、
あらゆる読者に受け入れられた
とは言えません。

そこで利休の思惑を明確にすべく、
利休視点で描いたのが
長編小説『茶聖』なのです。

今回は、約三年前の『天下人の茶』の
単行本発売時のインタビュー記事を、
まずお読みいただきたいと思います。

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2. 「アサヒ芸能」インタビュー記事
(2016年2月発売号)

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侘び茶の世界を完成させた千利休が、
突然、秀吉の逆鱗に触れ、
切腹を命じられた理由は何だったのか? 

歴史小説家の伊東潤氏は、
彼の志を受け継ぐ細川忠興、
古田織部らの弟子を通して、
利休と秀吉の相克を追った
『天下人の茶』を上梓した。

本当の勝者はどちらだったのか。
禁断の謎に迫る歴史ミステリーが
ついに完成した。

「歴史作家であるからには、
いつか利休に挑まなければならなかった」

千利休をテーマに選んだ理由を
伊東氏はこう述べる。

「戦国時代を描くなら、
政治や文化に影響を与えた茶の湯と
利休は避けて通れない題材です。

私は利休が秀吉に切腹させられた
理由について、昔から強い関心が
ありましたし、読者も真相を知りたいと
思っているでしょう。

それなら、その謎に挑まねば
ならないと思いました」

物語は6つの章からなり、
それぞれ利休の高弟4人と、
秀吉の視点で描かれている
(筆者注 : 秀吉視点の短編は
単行本にする際に前後に分割し、
それが冒頭と最後を飾っている)。

利休本人の主観は排除されているが、
そこには伊東氏の狙いが隠されている。

「商人、芸術家、さらに秀吉の側近として、
利休はいくつもの顔を持っています。

そうした多面体のような利休を描くには、
本人の視点では困難です。

あえて周辺の人物を通して
利休を描くことで、
利休の実像を浮かび上がらせようと
思いました」

例えば、弟子の1人である
瀬田掃部が主人公の章では、
秀吉の半島進出に業を煮やした掃部が、
秀吉の養子・秀次をそそのかして
秀吉の暗殺を企てるという、
大胆な物語にした。

「秀吉による秀次の粛清には謎が多く、
陰謀の影も漂っています。

利休の弟子である掃部が
何らかの形で関係していても
不思議ではありません」

歴史の定説では、利休と秀吉の対立は、
侘びの極致を目指す利休と
華美を好む秀吉の価値観の相違に
あったとされている。

が、伊東氏は
「芸術家同士の戦い」という
斬新な仮説を立て、
2人の相克が際立つように
物語を運んだ。

「秀吉は単なる俗物ではありません。

彼の作った“黄金の茶室”にしても、
独自の侘びを発見していた、
というのが私の解釈です。

利休は秀吉の芸術家としての才能を恐れ、
文化・芸術分野への進出を
阻止しようとしたのではないか。

政治面だけでなく、
芸術や精神を巡る2人の攻防には、
合戦以上の激しい駆け引きが
あったに違いありません」

利休の死の真相に迫った
本作を書き上げた伊東氏は、
彼への関心はさらに深まった、
と話す。

「茶の湯の世界は本当に奧が深く、
利休が求めていた美や、
政治との関わりは、
知れば知るほど謎が生まれてきます。

この作品では、
利休の謎を私の解釈で余すことなく
書けたと自負しています。

むろんエンタメ作品として
お楽しみいただけるように
なっていますので、ご安心下さい」

(ライター木下真之氏の文に、
当時、伊東が加筆修正)

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3. 利休の存在の大きさ

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クールジャパンの代表的文化、
すなわち現代を生きる日本人の
精神性の象徴ともなった茶の湯の原点は、
戦国時代にありました。

おそらく利休が出現しなければ、
茶の湯が文化の主座を
占めることはなかったはずです。

それほど利休の存在は大きかったのです。

いわば今日まで続く茶の湯文化は、
信長の原作を秀吉がプロデュースし、
利休が監督したと言ってもいいでしょう。

とくに利休の監督としてのセンスが、
茶の湯の未来を決定づけたと言っても
過言ではありません。

しかし輝きすぎる光は、
より以上に輝く光によって
消される運命にありました。

秀吉と利休のせめぎ合いは、
現実世界と精神世界を行き来し、
遂には抜き差しならないところまで
行ってしまいます。

それだけ秀吉にとって、
利休の存在は大きかったのです。

さて『天下人の茶』文庫版の
12月4日の発売を控え、
11/7発行の第29回、
11/21発行の第30回メルマガでも、
茶の湯と利休について
書いていきたいと思っています。

***********

ここまでお読みいただきまして
有難うございました。

最後に皆様にお願いです。
このメルマガの感想などを
ツイッター等のSNSに上げて
いただけないでしょうか。
尚、アップいただく際は
「#歴史奉行通信」
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とくに今回は
「茶の湯と利休」についての
感想などをお寄せいただければ
幸いです。

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「歴史奉行通信」は、
読者の方々の意見を取り入れながら
内容を変えていきます。

ご意見やご希望、
また質問もどんどんお寄せ下さい。
https://goo.gl/forms/QC0Pu5E4B76NjAyg2

では、また!

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4. 伊東潤Q&Aコーナー

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さて、今回はボリュームアップの
質問コーナーです。

Q.
ある人物にスポットをあてた小説を
書いている期間に
その人物に憑依してしまい
私生活に影響が出てしまう
ことってありますか?笑
(ガトリング砲 様)

A.
私の場合、多作ですからありません。

しかも同時並行的に
作品を書いているので、
そんな暇はありません。

しかし一つだけ不思議な話があります。

『義烈千秋 天狗党西へ』を
書いていた頃ですから
2011年のことですね。

私はその頃、ランニングをよくやっていて
土日ともなると根岸台公園を
走っていました。

あそこは鬱蒼とした
桜並木の下を走るのですが、
その時は水戸天狗党のことで頭がいっぱいで、
最高の作品にしたいという
思いを持っていました。

そこで主人公の藤田小四郎に
「こっちゃん(小四郎の通称)、
乗ってこい。わしに乗ってこい」
と心の中で叫びながら走っていました。

ランニングを終えて
歩いて帰ろうとしたところ、
擦れ違った犬に激しく吠えたてられましたが、
その時は気にも止めませんでした。

ところがその日の夜中、
苦しくて目が覚めました。
何が苦しいのか自分でも分からないのです。
その時の呻き声を聞きつけ、
隣の部屋で寝ていた母親が起きてきました。
それで苦しみを訴えると、
母親は薬を持ってきました。

それは小田原の「ういろう」だけで売っている
「透頂香(とちんこう)」でした。

母親からコップをもらい、それを飲んだ私は、
そのまま横になって
瞬時に寝てしまったそうです。

後に僧侶の蒲原二郎氏にこの話をしたところ、
「この世には霊が溢れていて
皆救いを求めています。
『乗ってこい』という言葉だけはだめ」
とのことでした。

そして「乗ってきたのは藤田氏ではなく、
近くを漂っていた霊でしょうね」
とのことでした。

また「それだけ透頂香が効いたということは、
透頂香にまつわる誰かが、
伊東さんに感謝している
ということだと思います」と仰せでした。

「透頂香にまつわる誰か」とは誰なのか。
戦国時代、小田原外郎(ういろう)家の
主だったのは北条家です。
当時、私は北条家に関する本を
たくさん書いていました。
もはや言うまでもありません。

私は今でも北条家の方々が
助けてくれたと信じています。
(伊東潤)

(『義烈千秋 天狗党西へ』
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5.お知らせ奉行通信
新刊情報 / 読書会 / その他

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12月4日発売予定 
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12月14日発売予定
お城のガイド本
(*小説ではありません)
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紙本の35城収録に対し、
電子版では46城を完全収録!

紙本では白黒ページになるイラストが、
電子版では46城すべてをカラーで掲載!
(*作品情報 / アマゾンは
追ってオープン予定)

【読書会・主催イベント情報】
現在予定している、
読書会および主催イベント情報一覧です。

11月24日
コルクラボ文化祭でプチ読書会を開催予定。
題材は『国を蹴った男』。
書籍のアマゾンURLはこちら
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12月8日
第1回「城めぐりオフ会」
小田原城日帰りツアーを
計画中(懇親会は新宿予定)。 
10月下旬よりPeatix募集開始予定

12月15日
第12回「伊東潤の読書会」は、
来年二月発売の『真実の航跡』が題材。
10月下旬よりPeatix募集開始予定

2019年
2月
第13回「伊東潤の読書会」は
第2回「ファンベース・セッション」の予定。

4月
第14回「伊東潤の読書会」は
連作短編集『家康謀殺』が題材。

5月
第2回「城めぐりオフ会」
『武田家滅亡』1泊2日ツアーを計画中。
一日目 : 新府城・武田八幡宮・躑躅ヶ崎居館・甲府城・恵林寺(宿泊は石和温泉)
二日目 : 勝沼氏館・天目山方面(大善寺・四郎作古戦場・鳥居畑古戦場・景徳院・栖雲寺)

【TV / ラジオ出演情報】

NHKラジオのレギュラー放送は、
いつも通りあります。
私の担当は土曜日で隔週です。
だいたい朝の7:30から始まります。
今は第二と第四土曜になります。
「マイあさラジオ」
http://www4.nhk.or.jp/r-asa/

【講演情報(*主催イベント以外)】

10/28(日)
「海音寺潮五郎記念文化講演」
(入場無料)13:30~15:45
(伊東の講演は14:00~15:35
「幕末雄藩列伝 薩摩藩・佐賀藩・水戸藩」)
かごしま県民交流センター内県民ホール
TEL. 099-224-9514
https://goo.gl/mgYUQy

11/10(土)
「神奈川新聞文芸コンクール」
(入場無料)14:00~16:00 
神奈川新聞本社
上記コンテストに応募した作品について、
当コンテストの選考委員を務めた伊東が講評します。
https://goo.gl/BRBE7Z

12/24(月)「お城EXPO」
伊東の講演は11:00~12:30
「関東戦国史と城郭攻防戦」
http://www.shiroexpo.jp/point.html

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