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(本)調理場という戦場ー「コート・ドール」斉須政雄の仕事論/斉須政雄

日本のフレンチ界の巨匠 斉須 政雄 さんの自伝。
若い頃に単身フランスに修行に行き、10年を超える間、ジャポネとして奮闘した記録と現在の料理に対する考え方が淡々と書かれています。
料理人の自伝でしょ?というなかれ。
会社員が読んでも学ぶところ多数の名著でした。

三つ星レストランのオーナーが心がけていたこと

自分も会社員なので、ちょっとビジネス視点本書を読んでみました。
ミシュランで星を取るような店というと、どこか、天才的・カリスマ性を有するシェフが孤軍奮闘、切り盛りしているようなイメージがありました。で、それをある程度の期間維持できるというのは、途切れることなく素晴らしいシェフを途切れることなく店に招き入れるということなのかと。

ベンチャー企業を例に考えてみると、ある人が独創的なアイディアを思いつき、短期間で会社を急成長させる。それで、うまく後継者が見つかれば企業は続くし、見つからなければ短命で終わってしまう。そんなイメージです。

でも、ことはそんな単純ではないのですね。
カリスマ一人に依存しきっているような店は、何かの理由でその人がいなくなれば
その時点で終わってしまうわけで、お店のオーナーは「クオリティの高い料理を出しづつける」システムを構築せねばならない。
これが一番難しいところかと思います。

斉須さんはフランスにわたり、やっとの思い出三つ星レストラン「ヴィヴァロア」で修行できる権利を得ます。そこで出会った、お店のオーナー、クロード・ペイローさん。彼のことを日本で体現したいと思うほどに素晴らしい人物でした。
彼は、三つ星を維持して引退を迎えるわけですが、お店の中には彼のスピリットが満ちていたそう。

ペイローさんが大事にしていたこと

謎解きのように、三つ星維持のワザはなんだろう?と読み進めていくと、その答えはあまりにもシンプルでした。

一日中掃除をしている・・・ほとんど掃除しかしていない。彼の印象に残る姿といえば、「掃除をしている姿」です。

もちろん、彼は楽しそうに仕事をし、姑息さも、裏表もない人物だったそうで、人間的・人格的にも素晴らしいものを持っている。
例えば、ペイローさんが食材を買いに行って、斉須さんに渡す際
「ありがとうございます」
というと、
「ありがとうは私だ。私のために働いてくれているのだから、ありがとうは私だ。」
というくらいピュア。
そして、実際の行動というと、掃除ばかりしている。
なんか、不思議でした。

細部を大事にする習慣

日本の著名な経営者の中にも
・トイレ掃除が成功の秘訣だ
・ものを丁寧に扱うことが大事だ
といった、ある種精神論的な成功哲学を説く方が多くいらっしゃいます。多分、科学的であること=正しいこと、というのが漠然と染み付いてしまっている自分からすると、「その通りですね!」と受け入れづらい部分があるのが正直なところ。

でも、自分の仕事での経験を振り返ってみると、思い当たる節があってドキッとしました。

整理整頓がなされている現場は災害が少ない

自分は土木分野の仕事に携わっており、安全というのをいつも念頭に置いています。しかしながら、大変残念なことに、顔を知っている作業員さんを災害で無くしてしまったり、怪我をなされてしまったりという場面に何度か出会しました。
で、この労働災害というのが興味深いんですね。
人数が現場は件数も多いだろうというような意識でおったのですが、話がそう単純ではない。
人数が多いけれども、無事故無災害を継続している現場もあれば、限られた人数なのに複数回同様な事故を起こす現場もある。
企業ごとに見ても、大人数を抱えているのにほとんど災害を出さない現場もあれば、頻発する現場もある。

自分なりの仮説ですが、事故の少ない現場は「きれい」という共通項があるように思います。それが、ペイローさんの掃除と頭の中で繋がったというわけです。
文化を作り出しているのは、もしかしたらそういった細事(ここでいう掃除)の徹底、なのかもしれないですね。

よく言われることですが、仕事をできる人にはデスクが綺麗な人が多い、というのも同じことかもしれません。


久しぶりに没頭した読書体験でした。
料理人を目指す方にも、そうでない方にもおすすめの一冊です。
それにしても、一流と言われる人は、簡単な文章でも意味の密度が濃いように思うのは自分だけでしょうか。。。

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