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模型制作が苦手な建築学生だった過去の自分に送る、3つのアドバイス

模型制作は、建築デザインを学ぼうと思ったら避けて通れない。それなのに、どんなに練習しても苦手意識が払拭できない、講評会で先生に模型を酷評されたのがトラウマ、なんていう建築学生も多いと思うし、かくいう私も学生時代はその一人だった。そんな過去の自分へのメッセージとして、今建築事務所で模型制作を担当しながら考えたことをまとめてみた。

模型制作が苦手だった私

日本の専門学校時代には、模型が下手でよく同級生に笑われていた。切り口が曲がってしまうのなんて序の口、スチレンボードがくっつくのか不安でノリをつけすぎてしまったりすることはままあり、おまけにいつもノリをつけすぎた面を触ってしまい模型を黒ずませてしまう。学校の模型発表会では、模型の表面があまりにも汚れすぎて、白い塗料を塗ってごまかしたほどだった。学校の先生に模型制作のバイトで呼ばれた際にも、カッターで指を切って模型を血で汚してしまい、2度と呼ばれることはなかった。今振り返ってもお恥ずかしい話である。

専門学校で作った、ノリで黒ずんだ上から塗料を白く塗った模型。
今見ると、意外とよく誤魔化せているかも?

アメリカの大学院に入っても、模型に関する苦手意識が払拭されることはなかった。建築・都市計画の二つの修士同時並行で進めながらバイトを掛け持ちしていた建築修士の最初の年には、模型制作が間に合わなさすぎてテープで仮留めされたままの作品で講評会に出席したことがある。もちろん、評価は模型並みにボロボロだった。そのうちパンデミックが始まり、模型制作が授業から消えたことをなんたる幸運!と思っていたのだが、後から考えてみると模型制作のスキルアップを先延ばしにしていただけであった。卒業制作でも、試しに3Dプリンターで制作した模型が教授から「あなたは卒業制作で模型を作らない方がいいよ」と酷評され、あえなく模型はお蔵入りした。

そんなことが続き、模型制作に対して大の苦手意識を持ったまま社会人となった私だが、現在勤務しているシアトルの事務所では模型制作をほぼ一手に引き受けている。単純作業が多く時間もかかる模型制作は、大抵はインターンやオープンデスク、新人所員が実働部隊となり、中堅所員がそれを取り仕切るという構図になっている。

そして驚くべきことに、苦手だと思っていた模型制作が結構、楽しいのだ。しかも事あるごとに褒められたりもする。

学生時代と社会人の私で、模型制作の何が変わったのだろうか。自分なりに分析をしてみて、過去の私に模型制作にあたってのアドバイスを送ってみようと思う。

模型制作に必須な道具たち。
カッターの歯はこまめに取り替えよう。

模型制作、3つのアドバイス

①時間と心の余裕が一番大事

模型制作にとって、時間と心の余裕が最も大事、というのが私の結論だ。学生時代の私は、いつも複数のタスクに追われ、模型制作は最後に時間に追い詰められてから行うものになっていた。時間がなくて焦れば切る際にカッターの歯は曲がってしまうし、少ないノリで模型が固まるのを待つこともできない。

学生時代たくさんのことを同時に抱えながら駆け抜けて来た自分を褒めてあげたい気持ちもあるのだが、一つ改善できたとすればエスキースの時間を取りすぎていて、模型制作のスタートが大幅に遅かったことである。自分のデザインに納得できない中で模型制作に移行するのはなかなか踏ん切りがつかないが、クリーンな模型を作れなければ、そもそも相手(講評する先生、上司、お客様)にメッセージを伝えることができない。また、模型がアイディアを明確に語ることができれば、たとえそのアイディアに100%自分が納得していなくとも、そこから会話が広がって良いフィードバックをもらえる可能性がある。

会社員としての模型制作は、建築デザインがほぼ固まった段階で始まり、ワークライフバランスが重視されていることもあって制作時間には少し余裕がある。時間の余裕が心の余裕につながり、模型作りが楽しい!と思えるようになったのかもしれない。

②模型が得意な人に話を聞く

これは模型制作に限った話ではないが、何かを学ぶ時には、上手な人を見つけて、それをまねっこするのが一番の上達の近道である。学生時代には、自分のプライドもあってなかなか他の学生に教えを乞うことができていなかったかもしれない。

社会人になり、最初の仕事が模型制作になると決まってからは、変なプライドなど捨てて、先輩社員のやり方を徹底的に聞いた。模型のスタイルはスタジオによって決まっているところがあるので(どんな素材を使うか、どの程度のディテールか、建物以外のランドスケープをどう仕上げるかなど)、独創的な模型というものはあまり求められていない。その会社で連綿と受け継がれて来た技術を、正確に吸収して制作することのほうが重要なのである。そのため、模型の作業工程、正確に作るためのコツ、使用する器具(レーザーカッター等)の設定など、聞けることは何でも質問しながら制作して、それが自分の模型技術の向上につながっていった感覚がある。社会人になってはじめて模型作りの基礎を身につけたともいえる。

模型は作り始める前のテストも大事。違う素材でテストして、仕上がり感を確かめてから制作に入ろう。画像の模型は、屋根の一部分。

③手作業が苦手な人は、最初に全てデジタルで組み上げろ!

君は模型が下手だ、と周囲から何度か言われると、自分は手先が不器用で、何をやっても上手にできないんだという感覚におそわれることがある。しかし、手先が不器用だと思う人ほど、模型を作る前の下準備に時間をかけるべきだ。

具体的には、建築模型用のデジタル模型を完全に3Dで作ってしまうということである。社会人になってこれを完璧にやるようになったのだが、驚くほど模型のクオリティが変わった。まず、Rhino等の3Dソフトでデザインしていたデータを単純化し、現実の模型の素材に落とし込む。その際、紙の厚みなどもミリ単位で正確にデジタル上で再現する。このデジタル模型を解体し、ピースごとに印刷してそのまま切って組み立てれば、正確に模型を組み上げられるはずなのだ。レーザーカッターがあればデジタルデータからの出力そのままに切れるし、もしなければパーツを紙に印刷したものを、ボード等の素材に上から仮留めして切れば良い。

模型が上手な人は「現場合わせ」といって、接合部の紙の厚みを考えながらピースを切って行ったり、少しのズレを調整しながら作り進めて行く。しかし、模型苦手勢はこれを真似すると、ズレが大きくなったり、取り返しがつかないことになってしまいがちである。「現場合わせ」を極めるよりは、何度でも修正できるデジタル上で一旦完璧に模型を組み上げ、その後は「何も考えずに模型を作る」仕組みをつくる方が結果的にうまく行く。

まとめ

以上、社会人になってから気づいた模型制作のコツを考えてみたが、結局、余裕を持つ、周囲に教えを乞う、下準備が大事、などという説教くさい話になってしまった(自分も駆け出し新入社員だというのに)。

また、元も子もない話になってしまうが、根本的に日本とアメリカで建築模型に求められているクオリティが違う可能性もある。つまり、日本では「建築模型が下手な学生」という立ち位置でも、日本を飛び出したら意外と上手な方かもしれない。何事も相対優位なのだ。

3Dレンダリングが日進月歩の中、学生・実務ともに建築模型を制作する機会は少なくなってきているかもしれないが、模型を手に取った瞬間の感動には、代え難いものがあると思う。模型制作が苦手だという思い込みを捨てて、模型作りを楽しめる人が増えたらな、と思う。





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