そういえば私は、怒ることが苦手だった

久々に、一対一の会話で、嫌な気分になった。

ある面談だったのだけれど、「私のことばは全部、いったそばから抜けていっているのか?」と思うくらい、その人の中に蓄積されていかなかった。なので、なにも深まっていく手応えのないまま、やたらガンガンと質問され、答えを要求され続けた地獄のような60分だった。

面談を終えてしばらく、私は無の状態だった。とても疲弊していたし、やっと解放されて1人になれたことに対する安堵感もあった。しばらくはなにも感じず、静かにしていたかった。

そして、じゅうぶん自分に空白の時間を与えてから、静かに例の面談を振り返った。

なんだか、何度も同じような質問をされていた。
私ははじめから答えを返していたけれど、たぶんその人の望む答えではなかったのだろう。だからきっと何度も同じようなことを聞いてきたのだ。その人の望む答えに近い言葉が、私の口から出てくるまで。

誘導尋問みたいだった。

あれがあの人の仕事として正しいカタチなのだろうか。
あれがいいという人も世の中にはいるのだろうか。

そんなことを考え出して、ふと昔のことを思い出した。

***

かつて、転職のためにいくつかの人材紹介会社に登録をしたことがある。そのうちの一つの会社の担当者のことを、私はなんとなく「苦手だな」と感じた。でもそういう風に感じることは、なんだか悪いことのような気がした。自分に気合が足りないから、そんな風に感じるのかも知れない、とも思った。なので、「なんとなく嫌な気分」になったことを、私は自分の奥底に沈めようとした。

それから数日後、退職した会社の先輩とごはんに行った。
食事をしながら、私の転職活動の話になり、その人材紹介会社の名前を何気なく出した。すると、なんとその先輩も同じ人材紹介会社の同じ担当者と面談をしたことがあるということが発覚した。
そして、次の瞬間、彼はいった。

「あの人、すごく上からな感じで、嫌だった」

私は、驚くのと同時に、自分の心がすっと軽くなっていくのを感じた。

その先輩は、冷静でストイックで、とても仕事のできる人だった。むやみに誰かを悪くいうような人でもない。そんな先輩が、私と同じ感想を抱いていたのだ。

なんだ、怒ってよかったんだ!

私はそのときになって、はじめてそう思った。

先輩は、その担当者から「そんなことで転職できると思ってるんですか?」というようなことまで言われ、怒られることにうんざりして、メールにも返事をしなくなったという。私は先輩のそんな意外なエピソードに大笑いした。会社であんなにクールに仕事をこなしていた先輩が、外でそんな風に怒られていたなんて。

その日は爽快感でいっぱいになり、気分よく家路についた。けれど、それからまた私は、この出来事について考えた。

尊敬する先輩が、同じ人に対して自分と同じネガティブな感情を抱いていたと知ったから、私は「あ、いいんだ」と思った。

でも、その「いいんだ」って発想はなんなんだろう?

「どう感じるか」ということに、そもそも「いい」とか「悪い」とかあるんだろうか?

「こんな気持ちになることはいけないから」と思えば、次から、自分がネガティブな気持ちを抱くことを止められるだろうか?

 

そんなことはムリに決まっている。

感情は、自然にでてくるのだ。発生を止めることなんてできない。

できれば、いつだってご機嫌でいたい。
会う人みんなを好きになれれば最高だと思う。

でも、どれだけそんな願望を強くもっていたって、願いどおりに心は動いてはくれない。


別の角度からも考えてみよう。

自分が「嫌な気持ちになったこと」を自分の中で認めること。

このこと自体は誰かにとって、ダメージになるだろうか?

その気持ちから怒りを爆発させ、相手を積極的に攻撃しようとすれば、それはたぶん、相手に害を及ぼすことになるだろう。

でも、「嫌な気持ちだな」と思って、そっと静かに距離をとることぐらいは、特になんのダメージも与えないはずだ。


だったら、もういいじゃん。

なにに怒りを感じるか、なにを嫌いだと思うかなんて、私の自由だし、みんなの自由だ。

私はそんな結論に達した。

***

時を戻そう。

現在。久々に強烈なうんざり面談を経験して、私はまた、「怒りを感じることが正当かどうか」を考えてしまっていた。

きっとこれは私の癖なのだ。

怒ることは苦手なのだ。


だけどこの問題に対する自分なりの結論を、私はとっくに出していたはずだ。

怒っていいかどうかなんて、考えなくていい。

誰の許可もいらない。

頭にきたなら、嫌な気持ちになったなら、
「嫌だな」ってただ思えばいいのだ。

だからここにはっきり書こう。

私は、腹が立った。不愉快だった。あんな気分になる人とは、できる限り関わりたくない。


あー、スッキリ。

なんだか過去の自分に寄り添ってもらったような感覚になった、そんな1日だった。









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