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Nao Yoshioka @BLUE NOTE TOKYO(20230125)

 自由で闊達なエナジーに溢れた、喝采のファンキーステージ。

 人間は錯覚する生き物だとは理解しているが、Nao Yoshiokaのステージを観ると、常々それを痛感させられる。登壇前は、少しヘアカラーが派手(最近はピンク)なくらいの小柄な女性という印象だけれども、音に揺られ、一度口を開き出すやいなや、眼前に大きく迫る勢いで視界を占めていく。殊に、精鋭メンバーたちが奏でる抗いがたいグルーヴの波に乗ってしまえば、その存在感は躍動を伴って、大きなパワーで眼前や脳裡を支配する。

 2022年よりスタートした、ジャンルでなく概念としての"ファンク”をコンセプトにしたライヴ〈Nao Yoshioka Tokyo Funk Sessions〉が、再びブルーノート東京で開催。ミュージック・ディレクターとして八面六臂の働きをする俊英・宮川純をはじめとする凄腕たちをバックに、髪が乱れることを厭わないほど陶酔した、音楽による魂の解放を繰り広げた。

Nao Yoshioka〈Tokyo Funk Sessions 2023〉Members

 昨年のほぼ同時期に行なわれた〈Nao Yoshioka Tokyo Funk Sessions 2022〉(記事→「Nao Yoshioka@BLUE NOTE TOKYO」)から引き続き、宮川をはじめ、ベースのザック・クロクサル、ホーン・セクションではテナーサックスの馬場智章、トロンボーンの池本茂貴が参加。新たな面々として、ギターには9月のWWW公演(記事→「Nao Yoshioka @WWW」)でも刺激的で独特なタイム感を持つ演奏で魅了した、edbl(エド・ブラック)とコラボレーションでも知られる磯貝一樹を、ドラムには"ドラマー第7世代”として注目され、Awesome City Clubやeillなどのサポートも行なう松浦千昇を、ホーン・セクションの一角となるトランペットには、トランペットとピアノの同時演奏で“ジャズ二刀流”とも称される曽根麻央(極寒の日に一人だけ黒のタンクトップ姿だったのが印象的だった)を起用。当日は強烈な寒波により全国的に今季一番の冷え込みを迎え、都心でも朝にマイナス3度近くを記録したが、2022年との継続と変化を同時にもたらしたこの日限りのアレンジで、瞬時にホット・スポットへと変貌させた。

 前回の〈Tokyo Funk Sessions〉ではカーティス・メイフィールドの「ムーヴ・オン・アップ」をカヴァーしたが、今回は映画『サタデー・ナイト・フィーバー』を彩ったビー・ジーズの4週連続全米1位となったディスコ・ヒット「ステイン・アライヴ」にチャレンジ。原曲のディスコ・サウンドから時折JB風マナーのアクセントを加えたジャズ・ファンク・モードへと変貌させて、フロアに熱気を呼び寄せた。以降の〈Tokyo Funk Sessions〉シリーズにおいても、ヴォルテージを高めるこのファンク・カヴァー企画は定番化しそうだ。

 中盤では、最近のライヴで必ず組み込んでいるという「Celebrate」を。多様性をテーマに綴ったこの楽曲を歌う時には、それぞれの生き方を認め、祝福しようというメッセージを語るが、Nao Yoshiokaの2023年の歌い始めで、今年も幸せな音楽活動をファンとともに共有したいという思いもあってか、オーディエンスからのコーラスを男女パートに別けてリクエスト。「ちなみに、1stセットは結構声出てたから」と茶目っ気たっぷりに煽って、コンダクター兼リード・ヴォーカルを担い、オーディエンスからのコーラスを浴びるなか歌う彼女の顔は、満面の笑みがこぼれていた。

 クロサクルと松浦がビートを重ね合う、前回も披露したドラムとベースのセッションの流れから「Love Is The Answer」へとシームレスに突入する展開では、ファンク・セッションならではのホーン・セクションが炸裂。右手奥に陣取った左からトロンボーンの池本、テナーサックスの馬場、トランペットの曽根の3名がそれぞれのリズムで奏でるソロパートから、バンドの音へと重層していく流れは、それまでそれぞれにたゆたう太い糸が意志を持ったかのように螺旋状に絡んで有機的に紡がれていき、一本の"ファンク”という名の遺伝子として立体化していくようなエキサイティングな瞬間にも思えた。ドラムとベースのセッションから数えて約11、2分強続いたこのパフォーマンスに、Nao Yoshiokaが吠えるがごとく声を出すのも無理はない。恍惚と興奮と歓喜が渦を巻くようにうねる瞬間がそこにはあった。

 新鮮だったのが、終盤の「Don't Deny Me」。個人的にはこれまでライヴでは聴いた覚えがあまりないのだが(もしかしたら初めてかもしれない)、「What’s out There for Me」とともにアルバム『Undeniable』のタワーレコード限定盤のみにボーナストラックとして収録されている楽曲で、普段の作風とはやや毛色が異なるハウシーなダンス・トラックが特徴的。イメージとしては、R&B/ソウルを軸に、クーリーズ・ホット・ボックスでの活動などクラブ/DJシーンにも接触したシンガー・ソングライター/プロデューサーのアンジェラ・ジョンソン(日本ではDOUBLE「Angel」をプロデュース)あたりの作風に近しい気もする。

 制作はカーリ・マティーン。ザ・ルーツ『ゲーム・セオリー』『ライジング・ダウン』やジル・スコット『ザ・リアル・シング』『ザ・ライト・オブ・ジ・サン』などのプロダクションを手掛け、ヴィヴィアン・グリーン「ビューティフル」ではチェロやベース、ジョイ・デナラーニ「サムタイムス・ラヴ」ではドラムをそれぞれ演奏するなど、ソングライター/プロデューサー/マルチプレイヤーとして活躍するグラミー・ノミニーズの辣腕だ。Nao Yoshiokaにおいては、『The Truth』のタイトル曲やイントロおよびアウトロ、『Undeniable』でも大きく関与。ちょうどテキサスからこのショウを観に訪れたようで、次のアルバムに向けて思案しているという期待が膨らむ報告もあった。

 次の曲で最後となると告げた際、オーディエンスから「えー」の声が上がると「じゃあ、あと7曲やります」とサーヴィストークが出るなど上機嫌ななか、昨年9月の〈Nao Yoshioka 10th Anniversary Tour 2022 -Ever Evolving-〉のWWW公演で圧巻の変態的セッション(褒め言葉)を繰り広げた「Forget about It」へ。宮川が叩く鍵盤のコードにいざなわれるようにフロアの人頭が高くなり、体躯を大きく揺らせるダンスホールへと様変わり。原曲とは彩りを変えた、エレクトロニックやフューチャーソウルにアプローチした宮川の才が溢れ出すアレンジは秀抜。ソウル/ジャズ・セッションよろしく、次々と刺激と興奮の波動が畳み掛けるインプロヴィゼーションが縦横無尽に舞うなか、Nao Yoshiokaもオーディエンス同様に痛快なバンド・サウンドを浴びながら、ステージ狭しと歌い踊っていた。

 即座にフロアからのクラップが鈴なりになると、一旦ステージアウトするという通例の"儀式”も省いて、アンコールの「Loyalty」へ。「Forget about It」で一気に駆け上がった鼓動を緩やかに余韻へと促しながら、タイトルにまごうことなきファンク・セッションは、エンドロールを迎えたのだった。

 他人や周囲が求める存在でなく、自我に真摯な自身であれ。近年特にそのような思いを強くしたであろうNao Yoshiokaが、ファンクという最高にグルーヴィなアイテムを通じて、自由を手に入れた90分強。その姿がまたオーディエンスの歓喜や充溢を宿らせる、好循環を生んだ熱い一夜となった。

◇◇◇

<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 I'm Not Perfect (*L)
02 Boundaries (*U)
03 Stayin' Alive(Original by Bee Gees)
04 Freedom & Sound (*T)
05 Never Had Love Like This (*R)
06 Stars (*P)
07 Celebrate (*U)
08 Drum & Bass Session ~ Love Is The Answer (*R)
09 Tokyo 2020
10 Don't Deny Me (*U / Bonus Track)
11 Forget about It (*R)
≪ENCORE≫
12 Loyalty (*U)

(*L): song from album “The Light”
(*R): song from album “Rising”
(*T): song from album “The Truth”
(*U): song from album “Undeniable”
(*P): song from EP “Philly Soul Sessions”

<MEMBERS>
Nao Yoshioka / ナオ・ヨシオカ(vo)

Jun Miyakawa / 宮川純(key, Music Director)
Zak Croxall / ザック・クロクサル(b)
Yukino Matsuura / 松浦千昇(ds)
Kazuki Isogai /磯貝一樹(g)
Mao Sone /曽根麻央(tp)
Tomoaki Baba / 馬場智章(ts)
Shigetaka Ikemoto /池本茂貴(tb)

〈Tokyo Funk Sessions 2023〉Band

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【Nao Yoshiokaのライヴに関する記事】
2013/10/11 Nao Yoshioka@LOOP
2013/12/06 Nao Yoshioka@代官山LOOP
2016/11/20 Nao Yoshioka@タワーレコード新宿【インストアライヴ】
2016/11/24 Nao Yoshioka@赤坂BLITZ
2017/11/18 Nao Yoshioka with Eric Roberson@ミューザ川崎
2018/03/27 Nao Yoshioka@渋谷WWW
2020/12/18 Nao Yoshioka@BLUE NOTE TOKYO
2021/10/28 Nao Yoshioka@WWW X
2022/01/18 Nao Yoshioka@BLUE NOTE TOKYO
2022/09/20 Nao Yoshioka@WWW
Nao Yoshioka @BLUE NOTE TOKYO(20230125)(本記事)

【SWEET SOUL RECORDSのCDレビュー】
2012/01/31 『SOUL OVER THE RACE VOL.2』
2012/04/10 『DANCE, SOUL LIGHTS』


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