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WAY WAVE @Club Malcolm(20230715)

 奔放に感情を弾けさせた、パッション漲る賑やかな饗宴。

 杏奈と優奈のリアル・ソウル・シスターズ・デュオ“WAY WAVE”が主宰する定期公演〈部員集会〉。第54回を数える本公演は、会場を"渋谷を守る斧”として知られる宇田川交番のすぐ傍にあるクラブ・マルコムにて開催。WAY WAVEのライヴは3月の前回定期公演(→「WAY WAVE @GARRET udagawa(20230312)」)以来の観賞となる。ラップ・グループの絶対忘れるな、バンド・セットに田中裕一、ちーさーをゲストに迎え、arincoを擁したDJセットをはじめ、バンドセットやコラボレーションなど多彩なステージを繰り広げ、ソウルパーティならではの賑やかな宴を展開した。

 90年代に流行した長方形のパッケージ&8センチCDが35周年を迎え、平成のレトロ・アイテムというトピックも相まって、7月7日を「短冊CDの日」とするキャンペーンが展開され、新旧含めた50作品がリリースされているが、WAY WAVEも「FREE MY SOUL」でラインナップ。そのシングル「FREE MY SOUL」は絶対忘れるなとのコラボレーション作品ということで、その祝いも兼ねてか、本公演のゲストにも通称“ぜわす”こと絶対忘れるなが登場。元来「FREE MY SOUL」は、昨年8月のWAY WAVEの小池優奈のバースデーライヴとなった公演(→「WAY WAVE @GARRET udagawa」)において、絶対忘れるなからプレゼントされたもの。当時、演奏後にWAY WAVEの2人が「誰かしらの大人が見てると思うから、絶対CD化します! 世に出します!」と宣言していたほどに気に入っていた楽曲だったが、宣言どおりの実現化となった。

 さて、ライヴは、DJセクション、絶対忘れるなのステージ、バンド・セットに加え、アンコールでのコラボレーションとヴァラエティに富んだ構成。杏奈はミントグリーン系、優奈はピンク(赤)系、arincoはオレンジを配色した新たな装いで登場し、「ダンス・トゥ・ザ・ミュージック」を用いた出囃子から、DJセクションがスタート。Char「Smoky」(というより、SMAP「Peace!」といった方が分かりやすいか)のイントロ・フレーズを借りた「はじまりの予感」から三宅伸治によるロックン・ソウル「ソウルシュガー」までを一気に駆け抜ける。

 トピックとなったのは、恒例のソウル・カヴァー曲としてセレクトした「イッツ・レイニング・メン」と新曲の「流されていこう」か。
 「イッツ・レイニング・メン」は、邦題の「ハレルヤ・ハリケーン」(Rainningなのに晴れるやとはこれいかに)としての方が馴染みがあるかもしれない。フックの"It's Raining Men! Hallelujah!”(男が降ってくる、なんてことだ!)のフレーズが印象的なザ・ウェザー・ガールズのヒット曲で、素を辿れば、ダイアナ・ロスやドナ・サマーあたりに歌唱を依頼したものの断られ続け、最後にそのお鉢が回ってきたのがトゥー・トンズ・オブ・ファンことザ・ウェザー・ガールズだった模様。演奏前に杏奈が「〈Everybody Dance Now!〉の人!」といってアドリブで歌い踊っていたが、ザ・ウェザー・ガールズのマーサ・ウォッシュとアイゾラ・レッドマンのうち、ウォッシュは、のちにC+Cミュージック・ファクトリーの「ゴナ・メイク・ユー・スウェット(エヴリバディ・ダンス・ナウ)」や、イタリアのブラック・ボックス「アイ・ドント・ノウ・エニバディ・エルス」という世界的ヒット曲でリード・ヴォーカルを務めていた人物。ただ、リード・ヴォーカルとはいっても、少し意味合いが異なり、どちらの曲においても(デモとして)録音したヴォーカルをクレジットなしに使われて、表向きには別のシンガーを(リップシンクなどで)立てられたので、当時はウォッシュが歌っているとは知らされていなかった。それゆえ、ウォッシュは権利を求めて訴訟を起こしたりもしたのだが(のちに和解)、その時のウォッシュの怒りが乗り移ったのかと思うほど、特に優奈のヴォーカルに唸りが発露。ギャル風のルックスも相まって、いい意味でのやさぐれ感が、いっそうファンキーな濃度を高めていた。バンド・セットでの自称" 不倫の曲"という「2番目の女」でも、そのテイストは満開。

 「流されていこう」は、ポコポコと鳴るパーカッションのリズムに、シンセ・ホーン、推進力あるギター、インパクトあるキメなどが折り重なり、ラップ調のヴァースから一気に感情を吐露するような情熱的なフックへと展開する“肉感”ファンク。その時の気分や感じ方によってさまざまな見方が出来ることもあるから、いい意味で「流されるのも悪くないんじゃない?」というメッセージは、多忙で煩雑した社会や現代人に、癒しという側面ではなく、ファンキーな高揚で"流転”を促す、ソウル・シスターズならではの一種のセラピーソングなのかもしれない。

 絶対忘れるなのステージは、MCクルーらしくフロアの熱度を高める「マイクチェック!」から、スタイリッシュなニュージャックスウィングを通底させながら、マイクを重ねていくうちにパッションが溢れ出す「ハイパーフラット」まで6曲を披露。“ぜわす”はルックスも含めて、志賀ラミーのインパクトが強いのだが、クルーとしてそれぞれの声色で言葉を紡いでいくことで、青春謳歌しきれなかった学生時代のくすみにも似た感情をどこかに秘めながらも、リアルな今を等身大とほんの少しばかり調子に乗ったテンションで満喫するような仲間的なムードがオーディエンスの視点とも近しく、その親近感が一体感をもたらしているよう。原曲ではフィロソフィーのダンスの日向ハルのパワフルなヴォーカルを配した「平日ナイトフィーバー」よろしく「パーティ!パーティ!」を連呼するアッパーでも、「人のオシャレを笑うな」のようなやや斜に構えたテイストにおいても、発散して、現場でとことん調子に乗る(=楽しむ)という一貫性は、なかなかに清々しい。

 前回同様にベースに田中裕一、ドラムにちーさーを迎えたバンド・セットでは、杏奈と優奈もギターやベースなどを演奏。田中のバンド・アレンジにより、統一感のとれた仕上がりに。カッティングギターを活かしたディスコ・ファンク仕立ての「妄想デートソーダ割り」は除いて、「祭囃子」「ピリピリBEAT」や黄昏の海岸沿いを想起させる「HEY」などは、ソウル・ロッキンに重心を寄せていて、そのモードにWAY WAVEの2人もご満悦の模様。やや土臭い、歌にエグみがあるような作風(端的にいうと、ソウルフルだが垢抜けない泥臭さが見え隠れする野暮ったい曲)は、WAY WAVEが最も得意とするところなのだろう。

 志賀ラミーの「あると思うな親とアンコール」の言葉も杞憂に終わって、盛大なコールとクラップでアンコールを迎えると、短冊CDとなったシングル収録2曲「FREE MY SOUL」と「サマーニットをぬがさないで」を演奏。前者はミュージック・ヴィデオがあるのに、後者はないとのことから、2曲ともライヴ・ヴィデオ撮影を兼ねたステージに。
 杏奈が「YouTubeに載るよ!」「バズらせるよ!」「バズったらお金入るかも」「そしたら呑みに行こう!」などと煽って一気に最高潮へ、かと思いきや、DJに機材トラブルに見舞われるご愛敬も。
 コールが飛び交い、クラップが鳴り響くという、コロナ禍でどこか無意識のうちに抑えられていた、感情を思いのままに吐露するライヴの本来の姿が渦巻くなかで、ステージ上の演者たちも充実の表情を見せていた。撮影という付加価値もあって、オーディエンスのヴォルテージがいつも以上に右肩上がりしていくさまを見て、つい「いつもそうやってよ」と口にした優奈には、注文を付けながらもライヴの楽しさを実感する表情が見て取れた。

 ちなみに、終演時に志賀ラミーが「〈earth〉を並べ替えると〈heart〉になる」と言った際に、フロアから「ならない!」と否定されていたが、名誉のために言っておくと、〈HEART=EARTH〉は“地球のアナグラム”として知られていることを最後に記しておくことにする。

◇◇◇
<SET LIST>
≪WAY WAVE with DJ arinco SECTION≫
00 INTRODUCTION(include phrase of "Dance To The Music" by Sly & The Family Stone)
01 はじまりの予感
02 SUMMER BREEZE
03 最高の彼氏 -the supreme man-
04 It's Raining Men(Original by The Weather Girls)
05 流されていこう(New Song)
06 ソウルシュガー
≪絶対忘れるな with DJ arinco SECTION≫
07 マイクチェック!
08 ひたむきさガール(Original by 絶対忘れるな feat. misaki(nuance))
09 人のオシャレを笑うな
10 住居
11 平日ナイトフィーバー(Original by 絶対忘れるな feat. 日向ハル)
12 ハイパーフラット
≪WAY WAVE BAND SET SECTION≫
13 ダウンタウン グラデーション
14 祭囃子
15 ウエディングラッシュ
16 妄想デートソーダ割り
17 ピリピリBEAT
18 2番目の女
19 HEY
≪ENCORE≫
20 FREE MY SOUL (with 絶対忘れるな、arinco)
21 サマーニットをぬがさないで (with 絶対忘れるな、arinco)

◇◇◇
<MEMBERS>
WAY WAVE are:
小池杏奈(vo,g,b)
小池優奈(vo,g,perc)

arinco(DJ)

BAND SET:
田中裕一(b,syn b / PARIS on the City! / 空中カメラ)
ちーさー / ワタナベチヒロ(ds)

絶対忘れるな are:
志賀ラミー
貫地谷翠れん
セルラ伊藤
アルバ伊藤

◇◇◇
【WAY WAVEに関する記事】
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2023/07/15 WAY WAVE @Club Malcolm(20230715)(本記事)


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