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BLUE LAB BEATS @BLUE NOTE TOKYO(20230516)

 気鋭のゲストとともに描出した、独創的で芳醇な音風景。

 ステージの左ににこやかな笑顔が印象的なボックスヘアのナマリ・クワテン、右に哲学者のような表情で音に没頭するデヴィッド・ムラクポル。そこへアフロビート・バンド"aTak"の主宰のほか、MISIAとの〈SOUL JAZZ SESSION〉などジャズの枠を超えた活躍を見せる黒田卓也のトランペット、黒田のグループに参加し、リーダー・バンド"FOTOS”としても活動する西口明宏のサックスが加わるセットを軸に、時にchelmicoの鈴木真海子のラップやNao Yoshiokaのヴォーカルを配した楽曲を展開しながら、弛緩させるだけではない鮮烈なビートを刻むチルアウト・サウンドを繰り広げていく。

 昨年の恵比寿のBLUE NOTE PLACEのグランドオープンの杮落とし公演に登場したブルー・ラブ・ビーツ(記事 →「Blue Lab Beats @BLUE NOTE PLACE」)が再来日。今回はブルーノート東京での1デイ2セット公演で、その2ndステージを観賞した。
 この日のフロアはほぼ満杯の大盛況。フロアの反応から察するに、黒田卓也目当てのオーディエンスが多かったようだ。BLUE NOTE PLACEで観たステージ(杮落とし公演4日目)も盛況だったが、埋め尽くすまでには至らなかった。ただ、他の公演日はそうではなかったのかもしれない。その2日目のステージでは鈴木真海子とNao Yoshiokaがゲストで出演していた。

 序盤の「ハイ・ゼア」の曲中に「コンバンワ! ブルー・ラブ・ビーツデス」と日本語で挨拶するナマリ・クワテンは表情豊かに、音に酔い浸るように鍵盤やギターを奏でるデヴィッド・ムラクポルは寡黙にと、対照的な佇まいの二人だが、奏でるサウンドのバランスは絶妙。シーケンサーを操るクワテンはエレクトロやヒップホップに重きを寄せたリズムを叩き出し、メロウな音色を奏でるムラクポルはジャズ~ネオソウルの薫りを醸し出す。ムラクポルはギターを左脇に抱えながら鍵盤を弾いたかと思えば、そのままサウスポーでギターを爪弾くのだが、もしかしたら右のギターをそのまま弾いているような感じも。とにかく器用な手腕で、ジャズ/フュージョン・マナーの音を奏でていく。

 フィメール・ラップ・デュオのchelmicoの鈴木真海子が登場しての「レベルズ」では、クワテンが指先を超高速で振動させて驚異的なハイハットを披露。途中で「フワァーッ」と欠伸をするマネをして、オーディエンスからの歓声や喝采がないことを煽っていたが、日本人はどちらかというと演奏をじっくり聴く"クセ”があるゆえ、瞬間の直情的な発声は抑え気味だったが、その高速タッピングが終わる頃には大歓声とクラップの嵐に。満面の笑みをこぼすクワテン。

 鈴木は「レベルズ」と黒田と西口を伴っての「モンタラ」でラップを披露。昨年のBLUE NOTE PLACE公演でもその2曲の時にラップを添えていたゆえ(自身が観た時はDaichi Yamamotoがラップしていた)、ゲストラップ曲という割り当てなのだろう。chelmicoでは快活な印象もある鈴木だが、ここではシックで甘美な、時にミステリアスな妖艶をちらつかせたフロウで、濃厚な夜のチルアウトムードを演出。"大人キュート”な顔立ちとのギャップもあり、セクシーなグルーヴの構築に貢献していた。粒立ちの良いリズムとともにグルーヴがフロアを覆うような、ジャジィ・ヒップホップ然としたサウンドスケープも魅力的だった。

 一方、後半に登場したNao Yoshiokaはアルバム『Undeniable』からのシングルカット「Loyalty」のブルー・ラブ・ビーツによるリミックスと、ブルー・ラブ・ビーツとのコラボレーション曲「Stuck Wit U」の2曲を歌唱。ブルース寄りのソウルやファンクからネオソウル/R&Bあたりに重心を置き、熱情的に歌い上げることもあるNao Yoshiokaとの相性はいかばかりかと耳を傾けたが、ムラクポルがジャズというよりもネオソウル・アプローチによる優しいタッチの電子ピアノやギターを繰り出していたから、違和感も抱かず。「Stuck Wit U」では黒田のトランペットがノスタルジーやセンチメンタリズムをさりげなく添えて、楽曲に宿るストーリーをより厚みや深みのあるものにしていた。もちろんNao Yoshiokaもソウルフルなハイトーンを駆使しながら、胸の高鳴りを吐露するような情熱的なヴォーカルを披露。逃れられない"感情”を焚きつけていく姿は、訴求力に溢れていた。

 黒田のトランペットにしろ、西口のサックスにしろ、もちろん激しく畳み掛けるような音鳴りも繰り出すのだが、やはり最初に放たれる音の輪郭が実に明確。それゆえ楽曲が持つメロディやストーリーが曇ることなく、ささやかに添えられる音であっても生命力が窺えるような躍動感が伝わってくる。楽器には全く明るくないからテクニックがどうこうというのは分からないが、放たれた音やグルーヴが意志を持ってフロアを横溢していくからこそ、しっかりとオーディエンスの鼓動を掴むということなのだろう。

 終盤の「ヴァイブ・トライブ」では、翌日にブルーノート東京で自身の公演を控えるシオ・クローカーが登場。特に派手やかだったり、テクニカルなプレイを駆使するなどもなかったが、ゲストだから主張するというのではなくて、楽曲にスムーズに滑り込むように馴染んでいく姿が秀抜。実にさりげなく、それでいて印象に残る音を鳴らす。コモンやJ・コールといったヒップホップ勢の作品にも顔を出しているジャズの精鋭ならではの音の差し引きが見事だ。それに応えるかのごとく、クワテンが高速タップを繰り出すアウトロは、大きな喝采を呼んだ。

 クライマックスは再び黒田、西口とのセットで「ヴォヤージュ」以降を。トロピカルな風を感じるような「パインアップル」からはオーディエンス総立ちのなか、芳醇なグルーヴがフロアに充溢。先ほどまでの繊細で哀切な音色にも触れた艶やかで褐色のムードは一転、ムラクポルの爽やかで明澄なギターに誘われて、随所にクラップと歓声がない交ぜになりながらピースフルな音空間へと雰囲気を変えていった。

 当初は「ファイナル・トラック!」といって「パインアップル」を演奏したものの、ステージアウトせず、アンコールの形で「ブルー・スカイズ」まで。アジテーションをサンプルとして加えた冒頭から黒田と西口のホーン・セクションが高らかに快活な音を放てば、クワテンが刻むビートのなかを清澄な水流のごとくムラクポルの鍵盤が泳いで、ラストはビートを走らせカットアウト。ブルーノート東京というステージに立てた喜びを「アリガトウゴザイマス」という日本語で示して、ジャズ、ヒップホップ、ネオソウル、エレクトロ、ブレイクビーツなどさまざまなアプローチで紡いだ一夜限りのビートクルージングが幕を閉じた。

 チルアウトなムードが通底しているなか、クールに、ソフィスティケートに、爽快にと、さまざまな表情を見せながら、身体を揺らすビートメイクから生み出す極上のグルーヴ。狂乱とは程遠いが、ところどころでパッションが響き渡り、決して緩さに終始することなく、ジャズ、ソウルとも言い切れないブルー・ラブ・ビーツならではのユニークなサウンド。その世界観の余韻にどっぷりと浸りながら、南青山の夜を後にした。

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<SET LIST>
00 INTRODUCTION
01 Hi There
02 Nights In Havana(with Akihiro Nishiguchi)
03 Dat It
04 Labels(with Mamiko Suzuki)
05 Movement(with Takuya Kuroda, Akihiro Nishiguchi)
06 Warp(with Takuya Kuroda, Akihiro Nishiguchi)
07 Montara(with Mamiko Suzuki, Takuya Kuroda, Akihiro Nishiguchi)(Original by Bobby Hutcherson)
08 Blow You Away(Delilah)(with Takuya Kuroda, Akihiro Nishiguchi)
09 Motherland Journey(with Takuya Kuroda, Akihiro Nishiguchi)
10 Loyalty(Blue Lab Beats Remix)(with Nao Yoshioka)(Original by Nao Yoshioka)
11 Stuck Wit U(with Nao Yoshioka, Takuya Kuroda)(Original by Nao Yoshioka, Blue Lab Beats)
12 Vibe Tribe(with Theo Croker)
13 Voyage(with Takuya Kuroda, Akihiro Nishiguchi)
14 Pineapple(with Takuya Kuroda, Akihiro Nishiguchi)
15 Blue Skies(with Takuya Kuroda, Akihiro Nishiguchi)

<MEMBERS>
BLUE LAB BEATS are:
Namali Kwaten a.k.a. NK-OK / ナマリ・クワテン a.k.a. NK-OK(beatmaker)
David Mrakpor a.k.a. Mr DM / デヴィッド・ムラクポル a.k.a. Mr DM(key,g)

Takuya Kuroda / 黒田卓也(tp)
Akihiro Nishiguchi / 西口明宏(sax)
Mamiko Suzuki / 鈴木真海子 from chelmico(rap)
Nao Yoshioka / ナオ・ヨシオカ(vo)
Theo Croker / シオ・クローカー(tp)

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【BLUE LAB BEATSに関する記事】
2022/12/09 Blue Lab Beats @BLUE NOTE PLACE
BLUE LAB BEATS @BLUE NOTE TOKYO(20230516)(本記事)

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